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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第三章~王宮~
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~自分の出で立ち~

 西の空は暁に染まり、徐々に黒色に染まっていく。今日の一日もこれで終了だ。なんの変哲も無い日常が今日も終わる。

 何事も無かったかのように終わっていく。

「………」

 誰一人も通らない廊下は朱に染まっていて綺麗だ。

 王宮の装飾は華美にも程があるとは思うが、世界を統べる国家はやることが違う。

「………あれ? こんな所あったっけ?」

 広い庭には色とりどりの花が咲いていて、その周りには一振りの剣が刺さっていた。

 墓地だろうか? にしても他の人のお墓が見当たらない所を見ると墓地ではないのだろうか?

 使い古された剣には錆がこびりついていて、そう簡単には取れそうも無い。ボロボロのマントは色あせてしまっていて汚い。

「これは、誰のお墓なんだろう?」

 とりあえず手を合わせて目を閉じておいた。誰の墓なのかは分からないが、こんな王宮の隅に追いやられたようなお墓はなんとなく可哀想にも思えてしまう。

 それはまるで、その人の生き方の映し鏡のようで、孤独な人生だったのかと………。

「誰だ!!」

 不意に怒鳴りつけられた僕は反射的に背後を振り返った。

 そこに居たのは花束を持った一人の男性。今現在の世界の覇者の称号を持っている男。三代目総長ミド・アーランバだった。

「あ………すみません」

 総長の物言わない雰囲気に知らずか頭を下げてしまう。

「いや、驚かせて悪かった」

 ミドさんはそれだけを言い、花束を墓に備えて目を瞑る。

 総長であるこの人がこんなにも祈りを捧げる人は一体どういう人なのだろう。

「確か、アイン君だったかな?」

 お参りを済ませたミドさんはこちらに振り返り問いを投げた。総長であるこの人と直に話した事があるのは竜騎士の試験が始まる前日の時以来だ。

 あの時は、フィンと一緒に出場参加の資格を貰いに行ったんだっけ。

 あれ以来は、総長としての話くらいでしか目にすることはあっても、こうして対面しての会話は初めてだった。

 僕は頷くと、ミドさんは僕の頭をぽんぽんと優しく叩く。

「見ていたよ君の戦いぶりをね? すごいじゃないか。俺の馬鹿息子を倒してしまうなんてな」

「いや……あれは、偶然ですよ」

「まぁ、そんなに謙遜するな。正直な、あいつには自分より上の存在を知ってほしかったんだよ俺としてはな? 今の今までずっと俺と戦闘の訓練をしていたからな、同じ年齢の子では誰一人と相手にならなかったのも一つだし、大人たちもあいつには勝てる人材が今のところいなかったんだ。

 俺があいつにやってしまった事は、ただ孤独にしてしまったんだよ。今ではアクセス君やフィンちゃんがいるから楽しくやってはいるが、二人もあいつには勝てなかった。

いやはや、俺は嬉しいんだよアイン君。君みたいな子が現れてくれるのを」

 ミドさんは芝居がかった口調で淡々と喋り続ける。

 実は言うと、僕はこの人には良い印象を持っていない。アルマのことを罪人だと言い放って、周りの人間を鼓舞した男なのだから。

 本当ならこの人を今すぐここで殴り倒したっていいくらいだ。でもそれは僕には出来ないのが現実だ。

 この人には勝てない。拳を交えたこともないのに分かってしまうほどの存在感を感じ取れないほど僕は愚かではない。

 竜人の力を持ってしても、この人に勝てるかどうか――

「なぁ、アイン君?」

「はい、なんですか?」

「あいつの、良き友となってくれないか?」

 その時のミドさんの表情は、総長の厳格な顔ではなく、一個人の父親として、息子を気遣ってくれている慈しんだ表情だ。

 ミドさんは公開していたのかもしれない。自分の教育方針が間違ってしまっていたことに気がついていたとしても、それはもう遅かったのかもしれない。

 大人の自分では何もできない歯がゆさをずっと胸に抱きながら、ミリと接していたのだろう。

 僕は頷いて返事をすると、ミドさんは一言だけ礼を言ってお墓の方へと視線を向けた。

「君は………英雄スーリヤを知っているか?」

「話を聞いたのはついこないだですけど、どういう人物だったのかは、僕は知らないです」

 ミドさんは鼻で笑う。

「そうだよな、知らないよな。君が生まれる前に成し遂げた、あの人の偉業を」

「たしか、世界を救ったっていうのは聞きました。それ以降は、竜騎士を辞めて行方を眩ませたっていう話をフィンから聞いたんですけど…」

 ミドさんは頭を振って僕が知っているスーリヤの説明を否定した。

「行方は眩ませていない。あの人は殺されたんだよ。二代目総長にね」

 別段、僕は驚く素振りを見せない。知らない人物の最後なんて、知った所で驚く必要が無いからだ。

「折角だから聞いてくれないか? あの人の話を」

 あの人のことを知ったのはこの竜騎士と改名される前からだ。王宮の騎士として俺達は世界に貢献していたよ。

 今ではありえないが、昔の世界は竜と人間が争っていたんだ。それこそ、誰もが疑問に思えてきてしまう事柄のように、人と竜は戦争をしていたんだ。

 竜騎士と改名されてから、誰が竜騎士を統轄するかっていう話になった時に、初代総長に任命されたのがスーリヤさんだった。

 あの人は、昔から不思議な人だったよ。周りの人間が纏わない空気を纏っていたんだからな。今を思えば、あれがあの人の秘密だったのかもしれない。

 スーリヤさんと幼馴染のジーラさんも思っていたらしい。

 こいつは、世界を愛しすぎていて、世界を敵に回すってな。

 でも、俺はこの人のことが好きだった。この人の考えが、俺と同じだったことから、俺はこの人の敵になるものは、全員殺すって、そう誓ったくらいだったからな。

 病的だと、俺でも思ったよ。

 だけどさ、竜と仲良くなりたいなんて言う願いは、俺たちの時代だと、笑われたもんだぜ? そんなことが出来るわけがないと、嘲笑の対象さ。

 だが、スーリヤさんは違う。あの人は、世界で誰も成し遂げられなかった、竜との共存に成功したんだ。

 それが出来たのは、あの人だからって今でもおもうよ。

 普通だったら殺される対象だよ。竜と仲良しになってんじゃない!! って、それくらい、あの時の世界は狂っている。

 いつ頃だっただろうか、寄生竜ダバクが出現したんだ。それも、寄生されたのは、今まで相棒だった竜にだ。

 知っているか? 寄生竜は死ぬと、世界が改変されるんだぜ? 別名“混沌の竜”って言われているだけの事もあるよ。

 なんの違和感もなく、俺たちの中で蟠りとなっていた竜に対する黒い靄は晴れ、今みたいな時代が始まった。

 それからかな、あの人は王宮に対して良く思わなくなったんだよ。王宮の在り方に疑問を持つように。

 その時の王宮は、俺も目を見張るほどの無茶苦茶な手口しか使っていなかった。反乱分子を持った町や村は即座に滅ぼさせるという話だ。

 コレには俺以外の他の竜騎士も疑問を持ったさ、だが、一大国家にたった一人が抗った所で負けるのは目に見えているんだよ。

 そのころのスーリヤさんは単独で任務をしにいっていたよ。今は無いが、レイヴという、竜と共存する集落にな。

 王宮は恐れたんだろうな、竜の力をよく知っている王は、先手を打ったんだよ。任務から帰ってくる前のスーリヤさんをも一緒にレイヴを滅ぼした。

 勿論スーリヤさんはそれくらいでは死ななかったよ。レイヴの、たった一人だけの生き残りを連れ帰ってきて、王宮の竜を仲間にしてな。

 ちなみに、王宮では団長のジーラさんが、元団長のロアに殺されているっていう事件があったんだが、俺はその時、任務で居なかったから助かったんだよ。

 ロアに賛同できない者は殺されていたらしいからな。

 そのころからかな? 俺がスーリヤさんと話し出したのは。ずっと後ろから見ていた俺は、嬉しかったよ。この人の隣にやっと立てる時がきたのかって。

 今はもう無いが、王宮の外れの区域に、昔は森林公園があったんだ。そこは野生の竜も出没すると言われていたから、王都の人間は誰一人として近づこうとしなかったが、昔からスーリヤさんはそこがお気に入りの場所だったらしくて、そこに家を建てたんだと。

 スーリヤさんには付いてきてくれる女性も居たからな。平和に過ごせる筈だったんだよ。あの時はアルマちゃんも居たからさ。

 話は一気に進むが、二代目総長となったロアは森を襲撃、そこで何が起こったのかは大体予想がつく。

 奥さんを逃がして、アルマちゃんを助けようとして、あの人はそれに成功して、死んだってことを。

「まぁ、俺が知りうるスーリヤさんの人生は、これくらいだよ。この剣とマントだって、あそこの森から取ってきて、ここに立てた。残念な事にあの人の骨は埋まってない。竜の炎では骨が残らないからな」

 ミドさんはそれだけを嘆くように墓標を眺める。

「ねぇ、ミドさん」

「なんだ?」

 ミドさんの話を聞いていて、最後の方でアルマの名前が出てきた事に内心に焦りが生じた。

 この人はアルマの過去を知っていると言う事が分かったからだ。

「あの、アルマの………アルマについて、知っていることだけでいいです、なんでもいいから、あの人について僕は知りたいの」

 ミドさんは僕を見てニッコリと笑う。

「俺はな、君がここに来た時、涙が出そうだったよ。なんでかって? ずっと捜したかった子供が、帰ってきたんだから。

 なぁアイン。君はな? スーリヤさんの子供なんだよ」

「………えっ?」

「間違えるわけが無い、アインと言う名前を忘れるわけが無い。同じような名前があるけれど、確信を持ったのが一つあったんだ。スーリヤさんと、奥さんの合わせ鏡のようで瓜二つだ。戦い方だって、似ている所があった」

「ちょ、ちょっと待ってください。そんな、そんなことを言われても」

 自分が英雄の息子だといわれても、分かるはずがない。顔だって覚えているはずが………無いのに。

 あれ、なんでだろう、おかしい。

「どうしたんだ? 頭でも痛いか?」

「大丈夫です、なんでもないです」

 気になる内容ではあったが、今は自分の出生よりもアルマのことを聞きたい。

「それより、ミドさん。アルマについて聞いてもいいですか? 一体、アルマはなんで王宮から、世界から追われるようになってしまったんですか?」

 ミドさんは涙ぐんでいた顔を拭い、真剣な顔つきになる。

「アルマちゃんは、王宮に囚われた。ロアの手によってな。ロアは竜人を捕まえて世界を自分の物にしようとしたんだが、それを完璧にするために、ある実験を行ったんだ」

「実験?」

 ミドさんは頷いて、悲惨な実験のないようをぼくに教えてくれた。

 竜人の力は絶大だ。普通の人間なんかが手出しできる領域ではない。それを人たちは禁忌の域を犯してしまったんだ。

 人に、竜の肉を食わせるという実験から、竜の血液を人の体内と混じらせるという実験にまで至った。

 彼女は被害者であり、あの施設で唯一の生き残りとなってしまった。

 レイヴの村の出生だったから生き残ってしまったのかは、そこらへんは良くわからない。

 皮肉な話だよ。村でも生き残って、施設でも生き残ってさ。

 五年間も、ずっとあそこで過ごして、地獄な日々を送ったんだろう。小さかった時のアルマちゃんとはもう、全然違ったよ。

 冷たく、冷酷な人間になってしまっていた。人殺しなんて出来なさそうな彼女だったのにな………なんで、こうなっちまったんだろう。

 あぁ、だけどな、コレは俺の責任でもあるんだよ。スーリヤさんに頼まれたことが出来なかった。

 アルマちゃんが幽閉されていたのは知っていたのに、俺は何も出来なかったんだよ。

 王宮から逃亡してしまった時だって、俺は保護したくて彼女を追っているんだ。

 罪人だと言ったが、言うのは心が痛かったんだ。

 きっと、彼女の体はもう人間ではない。竜でもない、中途半端な化物を、人は人竜と名づけるようになった。

「そういえばアイン。君とアルマちゃんは、血は繋がっていないが、姉弟だよ」

「えっ!?」

「さっきも言ったが、君はスーリヤさんの子供だ。レイヴから連れ帰ってきた子供はアルマちゃんで、もう家族と同じように過ごしていたよ」

「きょう………だい………?」

 姉弟? 僕とアルマが? お姉ちゃんだったのか? 血は繋がっていないけれど、あの人はお姉ちゃんだったのか?

 今思えば、確かにそれらしいことを言っていたのかもしれない。

 “アインは、お姉ちゃんが守ってあげる”と。

「だが、アイン君。王宮は彼女を殺すつもりで捕らえるだろう。だが、俺は保護したいと考えている。王宮の情報の速さは偉大だ。もうすぐすれば、見つかるとは思うが、君は姉のアルマちゃんと対面した時に、どうやって戦うのかを考えた方がいい。

 夜も更けたことだし、もう部屋に戻りなさい。色々と話を聞かされて頭が痛いだろう」

 ミドさんは僕の肩に手の平を乗せて、休むことを促してその場から去っていった。

 周りも暗くなり、燭台に火が灯る。

 ミドさんの言葉が脳裏に波紋となって何重にも訴えかけてくる。

 姉であるあの人に僕は刃を向けることが出来るのか? 僕は自分の部屋に戻る間、何度も自問自答をして寝床につくとした。



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