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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第三章~王宮~
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~終結~

 いつの間にか気を失っていたようだ。失神した瞬間なんて覚えていないので、男の子のどれの攻撃で気を失ったのか分からない。

 ただ、今のこの状況はなんだろう。夢の中なのかと思えば意識はあるような感じ。手を動かせばちゃんと自分の体が動くのだけれど、なんだか外にいる自分を操り糸で動かしているようで気持ちが悪かった。

「目が覚めたか」

 臓腑を竦み上げるような重々しい声にはっと顔を上げる。

「………だ、誰?」

 真っ白な髪の毛。どことなくミーナを連想したが、銀色とは程遠く、純白ではない矛盾した白色。

 赤い瞳をチラリとこちらに見せ付けると、前を向いて腕を組んでいた。

「はは、誰ってか? まぁ、今回始めて顔を合わせるから分かるわけもないか」

 男は外の映像を眺めたままだ。

「あれ? これって……」

 男の子が槍を使ってこちらに攻撃をしている。それももの凄い突きの嵐だ。それでいて、僕は全て避けきっているのだが、僕は自分で避けているという感覚は一つも感じられない。

 推測だけど、この男が僕の体を操っていると思う。

「お前の予想通りだ。お前の体の主導権は俺が今だけ握っている」

「今だけ?」

「ああ、本当ならお前の体ごと乗っ取りたい所だが……愛しの妹に本来の俺の力を半分持っていかれたからな。こうしてお前の意識が無い時くらいしか操れねえ」

「でも、今僕は起きているじゃないか」

「そうだな、普通なら俺がこの場所から退かなければ行けないんだが、如何せんばかりか、お前は俺とお前自身の力を上手く使いこなせていないんだよなぁ」

 男は思い出したように僕の方へ向き直る。

「だいたい、さっきの小僧に放った“大蛇”もそうだ。半端に使いやがって。俺の考えた技がなんでこうも劣化しているのだろうな。馬鹿な妹のせいか?」

 途中から独り言のようにブツブツと喋りだしている。

 ふと、思い出す。

 ミーナが僕を殺そうとしてきたときの反応、もしかしてこの男のことを殺そうとしていたのだろうか? それだとしても、やばそうな人には見えないのだが竜人のミーナが慌てるくらいだ。この人はまともじゃないのだろう。

「おいおい、まともじゃないのはお互い様だよアイン」

 初めて名前を呼ばれて驚いてしまう。まだ僕は名前を言っていないのになぜこの人は知っているのか。

「お互い様?」

「お前、本当に自分がまともだと思っているのか? 未だに借り物の目標しかないくせに、空気みたいな存在のくせに、それでもお前はまともだといえるのか? だいたい竜人と人間の餓鬼であるお前が、まともなわけが無いだろう?」

「………」

「ふん、言い返せないか。まぁいい。それじゃあ勉強の時間だぜアイン?」

「え?」

「戦い方だよ。お前はまだ若いからな。ムラがありすぎる」

 白髪の男は僕を無理やり引き寄せて前に立たせると、男の手が肩の上に置かれる。


 ミリは内心焦っていた。自分の本気の攻撃が未だに捕らえ切れていないのだ。始めの不意打ちくらいしか成功していないのに対して、主武装である槍の攻撃はことごとく空を切るばかりだ。

 アインの姿は白髪になっており、竜人の色が表にでている。

「どうした? 第二ラウンドじゃなかったのか?」

 シュクラが嘲笑しながらミリに語りかける。先ほどまでの威勢はどうしたと言わんばかりだ。

「それじゃあそろそろこちらからも行かせてもらうぞ小僧!」

 避けるばかりだった行動から一変、シュクラの体は一歩でミリの懐へと入り込み、体当たりをするように体をぶつけた。

「っぐ!」

「どうだ? そんな長物を使っているから対応が遅れるんだ! 次の攻撃すらかわせないのでは、まだまだだな小僧!」

「べらべら喋る余裕があるの――ガハッっ!?」

 突き上げるようにシュクラの掌が叩き込まれる。

 悶絶したミリは体をうつ伏せに倒れようとしたが、槍を杖代わりに使って倒れることを拒んだ。

「余裕はあるさ。貴様ごとき、俺の相手になるわけがないだろう?」

「………ふはは!! 確かにな、お前の言うとおりだよ。竜人」

「ほう?」

「確かに、今の俺じゃあ勝てるわけがないな。さっきから執拗に腹を殴りやがって、動けねえんだっつぅの。だけどよ、負けると分かっていて、はい終わりっていうのも癪なんだよ。だったら、最後の最後まで抗うって言うのが弱者の強さだ」

 ミリは立ち上がってラールに語りかける。

「一発やってやるぞラール。六槍になれ」

 一本だった槍は光を放つと、ミリの前に六槍もの槍が立ち並んだ。

 シュクラは面白そうにミリの王道を観察していた。次に何をやるのだろうと、人間が竜人である自分に何処まで抗ってくれるのだろうかと笑ってみていた。

 アインに勉強をさせてやるつもりだったが、目の前の男の子の本気を味わってみたいと心の隅に感じていたのだろう。

 ミリは二本の槍を手に持って構える。

「いくぞ!!」

 吼えるのと同時に、ミリの両手から槍が投擲。自分の傍から武器を放つなど戦闘放棄に等しいものであるが、それは自分の武器が一つしかない時の場合だ。

 放ったのは六本のうちの二本だけ。ミリの周りにはまだ四本もの槍が並んでいる。

 だが、先に放たれた二本の槍が再び光を帯びると、槍が雨のように枝分かれをしたのだ。

「ほう!」

 シュクラは笑って迎え撃った。自分に当たりそうな攻撃だけ避けるか弾いて受け流す。

 槍の雨を相手にしている間にはミリは次の攻撃の算段をしていた。

 地面刺さっている四本の槍の内、一本だけ引っこ抜き、三本を弾いて宙に漂わせる。まるで曲芸を見せるような仕草でミリは宙に浮いている一本を掴み上げると、先ほどと同じように投げ放ち、残り二本の内、一つを手元に置くように持ち、まだ宙に漂っていた槍を足で蹴り穿った。

 時間差で飛んでくる三本の槍は形状を変えずにシュクラの横を通り過ぎる。

 ただのミスのように思えるが、これも策略の一つだ。自分に当たるものだけを避けていたシュクラは当然、通り過ぎていった三本の槍を頭に入れていなかった。

 付け入る隙はその部分。ミリは予定通りに事が運び微笑を浮かべて叫んだ。

「拘束しろラール!」

 その瞬間、通り過ぎたはずの三本の槍が鎖となってシュクラの体を取り巻いて拘束したのだ。

 身をよじって逃げようとするが、それはただの鎖ではなく竜の体そのものだ。普通の人間ならば絶対に逃げることは不可能だ。

 ――――人間ならば。

「おらぁ!」

 ミリの槍がシュクラの心臓を狙っている。最早ミリの頭の中からは試合という概念は存在していなかった。

 不可抗力で死んでしまった場合は事故の扱いとなるこの試験を逆手に取るような行動。だが、ミリはそんなことを考えてはいない。

 本能で感じてしまったのだろう。目の前の少年を生かしてはいけないと。子供心ながら思ってしまったのだろう。

「こんなもので拘束したと思ってくれるなよ?」

 シュクラを留めていた鎖となっていたラールを掴み、雷撃を打ち放ったのだ。

「ギッギギギギギギ!!!」

 堪えられなくなったラールの拘束が弱くなった所で両手にすかさず魔力を込めて双剣を作り出してミリの槍を防いだ。

「やっぱり、お前は人間じゃないんだな」

「確信があったから竜人と言ったんじゃないのか?」

 シュクラは剣を薙ぎ払ってミリとの距離を開く。会話に気を取られてしまったミリは完全に体勢を崩してしまう。無論、その瞬間をシュクラが逃すわけが無い。

 ミリの槍を弾き飛ばし、双剣を投げ捨てたシュクラは防ぐ術も無くなったミリの懐へと一気に距離を詰め、両手を据えた。

「これが、本当の大蛇だ、覚えておけよアイン」

 シュクラは内部にいるアインへとそう促し、軽く息を吸い込んだ。息を止めて目を見開く。攻撃が当たる瞬間のシュクラの両手は捻りを加えながらミリの腹部に掌打を当てたのだ。

「………あぁ、畜生が―――ゴホッ」

 悪態をつくようにミリは呟き、競り上がってきた血を吐き出して崩れ落ちた。

 こうして、異例の竜騎士試験、王宮の竜騎士と隊長の二人が一人の少年に負けてしまったというニュースは瞬く間に全国へと広まるのだった。


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