~竜騎士試験~
「それでは、次に本選についてお話しますが、十人の方達に一つだけお祝いの言葉をかけさせていただきますね? 竜騎士に御入隊おめでとうございます!」
受付のお姉さんが言った言葉に僕ら本選に通った人たちは、まるで狐に化かされたように呆けていた。
「実は言うとですね? あのバトルロワイヤルに勝ち残った方たちは基本的に入隊確実というルールなのですよ。ですから、次の本選はいわばショーみたいなモノです。というのも説明が義務付けられているので私のいうことに不服があっても何も言うことはできません」
僕以外の人たちは歓喜に喚き、隣人と手をつなぎ合ったりして入隊を喜んでいた。
「ということは、負けても問題はないのですか?」
一人の青年が受付の人に次の戦いについて聞くと、お姉さんは二言返事で了承する。
………とんだ茶番だ。
あれだけの人たちがいる中で、こういう隠れた笑談のようなものが飛び交っていたなんて思いもよらなかった。
一気に熱も覚めてしまった僕は、ここから帰りたいという気持ちもあったが、でもまぁ、トントン拍子に話が進むのなら話が早い。
こんなところ、アルマについての情報を聞き出せたらおさらばしてやるつもりだったから丁度良い。
「それではアインさん。本選の準備が出来たのでついて来てもらってもいいですか?」
「分かりました」
背中を引きずりながら立ち上がる。お腹に抱えていたナーガはすぐに背中へと回り込んでしがみつく。
最早定位置となった場所だが、ついこの間までは頭の上だったのでいずれ背中から離れてしまうのだろう。
先ほどと同じ闘技場に案内された僕は、次に対戦する竜騎士が視界に入る。
ワーワーと観客たちの声が聞こえる中、目の前の竜騎士が話しかけて来た。
「まずは入隊おめでとう」
手のひらが差し出されたので僕は竜騎士の人と握手を交わした。鎧を着込んでおり、如何にも騎士様のような重装備だ。
もしや、これが制服なのだろうか? それだったら遠慮したいのだが………。
「ありがとうございます」
と、ニコリと笑っておく。
「それでは、ルール説明をしますね?」
間に割って入った受付のお姉さんは僕に軽いルールを説明してくれた。
二体二での試合、どちらかが負けを認めるか、失神をすれば負け。
なるほど簡単なルールだ。
ただし、殺してはいけないが、竜の攻撃で死んでしまうと責任は無くなるという話だ。
人同士の攻防で殺してはいけないが、竜でのダメージで死んでしまえば責任は自分になるということか。
「大丈夫だよ坊主、殺しはしないからよ」
「ありがとうございます」
営業スマイルのようになったなぁ、これも。
「それでは始めます!」
お姉さんが告げると、会場のどこかにあったのだろう、ドラムの音が全域に響き、竜騎士は手持ちの刀剣を抜いた。
「聞いているだろ? これはショーだからうまくやってくれよ?」
ゆっくりと縦に剣が振られてくる。
「嫌だ。やるからには最後まで勝ち抜いてやるもん」
服を掠め取るかのギリギリで避けて竜騎士の懐へと入り込む。竜騎士は唖然と兜の中からでも読み取れる表情をしていた。
鎧の上からでも迷いなく腹部、胸部、頭部へと三段蹴りを当てさせると、面白いくらいに竜騎士は昏倒した。
どうやら、今の一撃で一人目は終わってしまったようだった。
「い、一本……」
お姉さんが勝ちを宣言し、無様に倒れている竜騎士を医療班が担架で運んでいく。
続いて二人目、三人目と竜騎士が出てきたが、全員を屠ってやった。時間の無駄だとも思えたが、これも王宮側の流れなので逆らうわけにもいかないだろう。
「それでは、四人目の竜騎士の方、出て来てください」
門が開かれる。
ゆっくりとその姿を現した竜騎士は鎧を着ていなかった。
闘技場の真ん中まで歩いてきた少年は、二番隊の隊長、アクセス・フロイミーダだ。
「よぉ、昨日ぶりだなアイン」
気軽に挨拶を交わすようにアクセスは手を振る。
「あれ? 隊長なのに四番目なの?」
「本当は五番目なんだけど、お前ともう一度戦ってみたくて四番目の奴と交代しちゃった」
ニンマリとアクセスは笑いながら柔軟運動を始めた。
「これまでの戦い方から見ると、お前の武器も素手だからよ? 一本勝負だけじゃなくて、倒れるまでの戦いがしたくてな」
準備運動が終わったのか、動くのをやめたアクセスは跳ねてリズムを取る。
「それじゃあ、さっさとやろうぜ?」
アクセスはお姉さんに開始の合図を促し、四回目のドラムがなる。
先手を打ったのはアクセスだ。音が鳴り止む前にアインとの距離を詰めると、勢いを流すように自分の拳をアインへと叩き込んだ。
「っ痛!」
顔面を捉えていたアクセスの拳はアインの両手で受け止められていた。だが、想定内だったアクセスは、次の行動を始めている。
両手で塞いでいたアインに受け止めるすべがない為、側頭部を刈り取ってくるもう一つの拳に対応が出来なかった。
避けられなかったアインはアクセスの攻撃をモロに食らう。
「っく!」
好機を逃さないようにアクセスは体勢が流れたアインに次々と猛攻を浴びせようとするが、アインは一気に後方へと逃げた。
「逃すかぁ!」
追い打ちをかけるようにアクセスは逃げるアインを追いかけに行くと、アクセスの行動を阻むように三本の細剣が突き刺さり、アクセスの足が止まる。
肩で息をしていたアインは、アクセスに殴られた頬を摩りながら微笑を浮かべた。
目の前にいる少年は強い。確信したアインはこれまでに無かった高揚とした気持ちを抑えられなかった。
自分と同じ年齢の子が、自分と同じくらいに強い子なのだと。存分に殴り会える輩は誰一人として出会ったことがなかったアインはずっと退屈していた。
王宮に着くまでの三年間の旅では、腕試しも出来なかった。というよりは襲われてばかりだったので存分な闘技ということもしたことがない。
生きるか死ぬかの攻防でしか生きていなかったアインに、同じジャンルでの死合ができることは、ただただ嬉しかったのだ。
「ごめんナーガ、ちょっと外して?」
「クルルゥ…」
ナーガもわかっていたのだろう。今この瞬間の自分は必要とされていないことを。主が目の前にいる少年に対して笑顔を浮かべたのも、自分が邪魔だと思われたからだ。人同士の争いに干渉してはいいというルールであるが、アインはそれを望まないというのも感じ取っていたのだろう。
ナーガはアインから離れて邪魔にならなさそうな場所で主人を見守ることにした。
「さてと………やろっかアクセス」
枷を外したようにアインは軽く飛び跳ねて体の感覚を確かめる。息を嘆息に吐ききっって深呼吸を始めた。
細剣の壁を乗り越えたアクセスは既にアインの懐へ潜り込み、動作に入っている。
「俺はもうやる気満々だ!!」
背後からなぎ払うように繰り出されたアクセスの回し蹴りを、アインは受け止めずに身を屈めて交わした。
地面を擦れるようにアインの体位は回転しながら、軸になっていたアクセスの足を払う。
「ぅお!?」
大きく崩れたアクセスの体を、先ほどの回し蹴りのお返しというようにアインは体の上下を逆にして連続に蹴り薙いだ。
アインの蹴りを鬱陶しそうに防御し、攻撃が止んだところを狙ってアクセスは地面に向かって拳を振り下ろした。
亀裂が入って盛り上がった大地の領域から跳んで離脱したアインを逃すアクセスでもない。
「逃すかよ!!」
次も躱すだろうと思ったアクセスはアインの襟元の服を掴んで頭突きをした。
あまりにも奇行な行動だったために避けることができなかったアインは向い打つという意識をしていなかったために気張ることができなかった。
「うっ…」
意識が吹っ飛びかけたアインは顔を振って我に返る。
すごい、面白い。正直昨日の組手では失望すら感じたけれど、試合をしてその思いは百八十度反転した。
これなら、ミーナに教えてもらった技も使えるだろう。躱すばっかりの攻防も飽きてきたし、アクセスの気持ちにも答えたい。
「はぁ!!」
真っ直ぐに伸びてくるアクセスの拳を避ける訳でもなく、アインは払いのけた。それも、自分の襟を掴んでいたアクセスの腕に軌道を反れるようにだ。
反れたアクセスの拳は、勢いが止まることもないまま自分の腕にブチ当たった。
「ぐおっ!?」
何かに突き飛ばされたかのようにアクセスの左手はアインの襟から離れる。
攻守交替、反動を制御できず仰け反るようになったアクセスの顔面に、手の平を打ち付けた。
仰向けに倒れそうになったアクセスは受身を取りながらアインから距離を取る。顔を拭うと手が赤色に染まっていた。
「ふ、ふははは! 俺が血を流すなんて久しぶりだ!! いいぜ、アイン。お前最高だ!」
アクセスは一目散に走る。すべての攻撃を耐えるように奥歯を噛み締めて体に力を加える。
それは玉砕覚悟でアインを打ち取るつもりの一撃だった。しかし、玉砕覚悟の攻撃を加える前にアインはもう、懐へと入り込んでいた。
両手を重ね合わせて一撃目の攻撃がアクセスの硬い腹部を襲う。
「っぐ、がはっ!!?」
胃液が込上がり体外に吐瀉したアクセスは、虫の息に近かった。それでもまだ戦いの意思は折れていない。
「だらぁぁあぁ!!」
「うっ!?」
体を動かすのも辛い作業だったが、アインに最高の一撃を当てられたアクセスは勝ちを確信した。
そして自分の目で見てしまうだろう。
世界にはまだまだ各上の奴はいるのだと。
「―――大蛇!!」
次の瞬間、目の前から逆巻く風に突き飛ばされるかのようにアクセスの体は後方へと跳び、壁に激突して試合は幕を閉じたのだった。




