~試験の朝~
決戦の朝が来た。
決戦といっても、大それた内容では無いのだが、それでも、まぁ、僕にとっては大事な行事の一つだろう。
アルマと出会ったあの日、聞き流す程度に王宮の住人だと言っていたのを、今更ながらに思い出した。
自分が何処にいるのかを整理するが、もう、僕は王宮に到着してしまっているので思い出すのを遅すぎるくらいだろうか。
「起きろ~、起きないと遅刻するわよ~アイン」
ペチペチと軽く頬を叩かれて目を覚める。なんだか新しい起こされ方をされたので、真新しい感覚に陥る。
「あ、おはよう。フィン」
「おはよう、じゃないわよ。全く自分の立場のことを考えていないんだから」
寝起きはあんまり強いほうではない。だから、フィンが言っていることを理解するまでにだいぶ時間がかかった。
「え?」
呆けていた僕の顔を楽しむように、フィンの口角が釣り上がる。小悪魔じみた笑顔に、僕は部屋に立てかけてあったはずの時計を見ると、時刻は八時五十五分だった。
ちなみに、選手は九時までに昨日行った受付会場で点呼をしなければいけないのだが、今から行けば間に合うわけがなかった。
「さて、どうするのアイン? 遅刻者には速攻退場が命じられるけれど?」
フィンの尾骨から悪魔の尻尾でも生えていそうだ。なに? 僕を陥れたいのだろうか? それともただ面白がっているのだろうか?
僕は飛び起きて、寝間着替わりにしていた竜騎士用の服を脱ぎ、いつも着ていた服を着る。今思えば、この服は僕の体には少々大きいのだ。
手だって、ギリギリ指が出る位の裾の長さだし、なんでこんな服をずっと大切そうに着ているのだろうか?
細かいことは気にしない方が無難だし、そもそも考えている時間でさえやばい。あぁ! もう一分が過ぎている!
「ナーガ! 行くよ!」
僕はクッションに包まっていたナーガの尾を引っ張り、窓へ一直線に走った。過ぎ去ったフィンの驚愕した声に耳を傾けることなく、僕は窓を開けて跳んだ。
昨日、大きな木が中庭に生えていたのは知っていた。だから僕は、この木を伝いながら受付会場にまでいけるのではないのだろうかとも、夜のあいだにも考えたりもした。
だけど、止めておくはずだったのだが、自分に置かれた状況を理解している今では、なりふり構ってはいられないし、空を飛んでいる状態では引き換えすこともできない。
近場にあった木の枝を掴むと、激しく揺さぶられて折れてしまった。人を支えられるほどのしなやかさではなかったようだ。
折れた反動で、次の標的に狙いを定めて腕を伸ばす。手のひらが摩擦で焼けそうになる。何度も同じ作業をしながら、落ちる速度を弱めていきながら地上を目指すといった方法なのだが、怪我を免れることは出来るのだろうかと、少しだけ不安になりながら、残り五メートル付近にまで近づいたことをいい事に、安堵してしまったのがいけなかった。
「あ、しまっ!?」
掴もうとしていた木の枝を掴み損なった僕は、真っ逆さまに地上に激突してしまう格好になった。
これは、死のコース一直線だなって、他人ごとのように思っていると、ふわりと、背中に翼でも生えたかのように、ゆったりと空中を漂っていた。
バサバサと翼を羽ばたかせていたのはナーガだった。久しぶりに起きた姿を見た気がするが、人の体重を支えられるほどにナーガはまだ大きくない。
そのためか、ゆったりとした勢いは、空中に垂らされた人形の糸を切ったように、僕らはもう一度落下を開始した。
「よいしょっと!」
ナーガのおかげで少しの時間ができた分、崩れていた体勢を整える猶予ができた。くるりと後転をして、地面に滑りながら着地をした。
周りの人たちは空中から突然現れ、しかも地面を滑ってきたんだからポカンと口を開けて唖然としていた。
遅れてくるように僕の背中にしがみついて、もたれ掛かるナーガは、今の一件で疲れたのか、小さく鳴いて目を閉じた。
「え、また寝るの!?」
さっき起きたのは本当に偶然だったのか、気まぐれで僕の事を助けてくれたのだろうか。それはそうと、寝すぎではなかろうか?
ふと、しがみついているナーガの体重に違和感を覚えた。
「重くなった?」
呟くようにナーガに問いかけるが、どうせ聞いていないだろうと思っていた僕は、軽くお尻を叩かれた。
「痛っ!? なに、起きているの?」
ふんっと、鼻息を鳴らしているナーガ。こいつ、起きているな。
「まぁ、いいけどさ。寝る子は育つって言うし」
人差し指でナーガの顎を掻いてやる。
「それでは時間となりましたので、本日の竜騎士試験に参加の皆様はこちらを見てください」
礼台の上に登ってきた受付のお姉さんは、腕を上げて後ろまで並んでいる群衆までに届きそうな声で、本日行う竜騎士の試験について説明をする。
「まずは皆様には百人ひと組の団体に一括りします。一番の人から百番の人まで、そして百一番の人から二百番の人までの団体を作ります。今回の受講者は千人単位ですので本選に勝ち上がれるのは約十人です」
ざわつく受講者の人たち。何回も来たことがある人はこの試験のことを分かっているからだろうか、ざわついている人たちのざわめきをうるさそうに眉間に皺を寄せていた。
本選に上がれるのは十人程度。つまり、百人の中で、本選に上がれるのは一人だけということだ。
「本選の説明は、本選に先行された方のみでの説明ですので、それ以上は説明しません。次に、予選の説明をします」
お姉さんの声は予選の説明が終わるまで、一回も息を切らすことなく、簡単に説明をしてくれた。
百人で行われるバトルロワイヤル。尚、一人になるまで終わらない。
竜を交えてのバトルロワイヤルなので、僕とナーガでひと組という計算で行くと、二百もの数となる。
どうやら、竜との相性判断も見られているというので、油断していると退場をくらうらしい。
過去の出場者の中でもそういうのがあったようだ。
質問の時間に入るが、誰も挙手をする人はいない。こういうのを一連の流れというのだろう。分かりきっている流れに逆らう者はいないし、誰もが早く試験をやらせろと急いている。
異形な気配に、僕は気がつかないうちに手のひらに汗が滲んでいた。
なぜだろう? 普通なら激しく動いてやっと汗が出るくらいなのに、たかが気配を察しているだけで、僕は汗を掻いている。
不安を感じているのか? それとも、ただの緊張なのだろうか。
質問の時間は終わってしまい、昨日渡されたエントリー番号を読み上げられた僕は、ぞろぞろと百番台の人に混じりながら、竜騎士の人に闘技場へと案内された。




