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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第三章~王宮~
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~試験前夜の会談~

 誰もいない武道場に一人の少年が佇んでいた。

「っくそ!!」

 少年は目の前に立てかけてある木で作られている人形を一発で粉々に砕く。自分の力を再確認するように見られたその行為は、何度も何度も繰り返したのだろう。

 少年の周りには何十体もの人形が散乱していた。

「俺は………油断していたつもりは無かった」

 少年は走り出して、次なる標的を目指して跳躍し、踵を人形の頂点から叩き落とす。

 人形の頭から真っ二つに裂かれた人形は分かれるように崩れ落ちる。これが人だと思うとゾッとする一撃だ。

 少年は竜騎士に所属する中で、数少ない項目の武術で隊長にまで競り上がったのだ。片手剣や槍と比べると、当然のようにリーチが短く、殺傷能力も低く、あまり竜騎士達の間では好まれる対象ではない。

 それでも少年は、長物を使うよりは、殴打という道を選んだのだ。自分には一番適している物が、自分の体だけだと思っていたからだった。

 だが、数時間前の組手で、少年のこれまでやって来た成果が一瞬にして崩れさり、少年のプライドは引き裂かれてしまった。

 投げ飛ばされた時の感触が、頭から離れられなかったのだ。

 一切、無駄の無い力で投げ飛ばされた感触。流動するような動きに、少年は惚れてしまっていたのだ。

「畜生!!」

 少年――アクセスは、荒れ狂う嵐のように木偶人形を屠っていき、次なる標的を殴った瞬間、自分の拳が誰かの手によって止められる。

「相変わらずのパンチだなアクセス」

「……ミリか」

 ミリはアクセスの手を離してプルプルと手首を気にするように小芝居を打つ。

「前よりだいぶ強くなったんじゃないのか? だいぶ芯にくるし」

「………さぁな」

 普通であれば、アクセスは褒めると調子に乗るタイプだと、昔からの馴染みで付き合っているミリには、アクセスの反応が薄いことに疑問に思う。

「どうしたんだ? 何かあったか?」

「お前さ? 竜騎士の中で俺しか素手を使う奴っていないじゃん?」

「まぁ、そうだな」

 他の人には出来ないことをやりたいという考えを持っているアクセスは、武器を使うことを嫌っていた。そもそも本人が長モノを扱うことに長けていなかったから、落ち着いた主武装が素手という形で収まっただけなのだ。

 実力で隊長クラスまで上り詰めるまでは苦難の道だ。ミリも今では一番隊を受け持てるほどの実力を持っているから、同じようにアクセスも努力をしてきたに違いない。

 だが、その努力を上回っている実力者と手を合わしてしまったアクセスは、落ち込んでいたのだ。

「俺より…強い奴がいた」

「ん? 俺のことか?」

 冗談交じりにミリは自分のことを指名してみる。だが、冗談は拾われることなくアクセスは話を続けた。

「昨日、助けた野郎がいただろ?」

「………まぁ、そう、だな」

 内心会話をスルーされたことに、アクセスの心境は冗談を言えるほどの気分ではないとミリは察したが、スルーされたことには少々傷ついていた。

「あいつ、強いわ…」

「ふ~ん?」

 ミリ自身はまだ手を合わせたことがないから、あの金髪の少年がアクセスを投げ飛ばしたたという噂は嘘だとは思っていた。しかし、アクセスのいまのへこみ具合から行くと完膚なきまでに叩きのめされたという事実を理解する。

「どれくらいボコボコにされたんだよ?」

 傷を抉るような行為だが、それぐらいしか出来ないことをミリはわかっている。だが、相談ができる相手は自分かフィンぐらいしかいないだろうが、女のフィンにアクセスの事を癒せるとは思えない。

 この二人が良い関係だというのは分かっている分に、逆効果だと思えたので、残るは自分だけという結果になる。

 それでも、打ち明けるのは本人の意思なので、話せないと言われればそれだけだが。

「一発だよ」

「………はっ?」

「一発で投げ飛ばされたんだよ」

 顔には出ていなかったが、ミリは驚いていた。アクセスの武術は我流なので、基礎がなっていない分むちゃくちゃな型だ。

そのため、逆に型通りでやって来ているモノたちにとっては、自分に向かってくるアクセスの拳は予測不可能の起動なのだが、それを予測して投げ飛ばすというのは達人の域にまで行っている程だ。

アクセスの我流武術を相手にできるのは、自分の父親、ミド・アーランバと四代目のアルマ元総長くらいしか相手にならないと確信していたが、上には上がいるということだろう。

「投げ飛ばされた気分は?」

 ミリは問う。自分のこれまでを覆される相手にぶつかった時、アクセスはいつも落ち込んでいたのを知っている。そして努力を怠らない。この時間まで木偶人形を相手にしている事がいい例だ。

「気持ち悪かった」

「気持ち悪い?」

 アクセスは近くにあった木偶人形を裏拳で、その頭を粉々に粉砕する。木で出来ている人形を簡単に屠る一撃を改めて再認識せざるを負えない。

「気がついたら俺は地面を背中に空を仰いでた。気がついたらだぜ?」

 投げ飛ばされた感覚が無かったと、アクセスは感じたのだろう。ミリは見ていたわけでも無いので、想像でしか状況を思い浮かべないが、多分アクセスはその金髪の少年に一発殴りに行ったのだろう。

 それを最後にアクセスは投げられたということだろうが、相手が感じる前に一本を取るなんて自分にはできないと、ミリは考える。

「んで? アクセスはどうするんだよ?」

「なにが?」

「明日の試験、もう一度戦ってみたいかどうかだよ?」

「………俺は」

 竜騎士の試験。

 バトルロワイヤルを勝ち抜いた選手には、こちらから選抜された五人の竜騎士がその選手と竜を合わしての二対二の闘技をするのだ。

 ちなみに、五人目の相手は竜騎士の隊長がその選手と相手をするというお約束であり、五人連覇を阻止されるというシステムだ。

 一般人が、隊長クラスを倒してしまえば、王宮の面目が丸つぶれになるため、こういう裏事情が飛び交っている。

「あの野郎に一発入れなきゃ、気がすまねえ。同い年に負けるなんて気分が収まんねえ」

「了解、もしもその金髪君が本選に上がってきたらお前に任せてやるよ」

 ミリはそう言ってアクセスの手を取る。アクセスはニヤリト笑って、ミリに懇願した。

「頼んだぜ、ミリ」


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