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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第三章~王宮~
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~王宮~下

「ここが受付場よ。と言っても、王宮の入口なだけだけどね」

 やれやれといった動作で肩を竦めていると、フィンの登場により、今回の竜騎士試験に出ようとしていた一般人がザワザワとどよめいた。

 これが、竜騎士の隊長クラスの知名度ということだろう。それほどまでにフィンの――竜騎士というのは認知度が高いのだ。

「は~い、ごめんなさいね、ちょっと前を通してね~」

 フィンは住民の波を掻き分けていくので、離れないように後ろについて行く。終点に到着した僕は、いつの間にか受付人と交渉しあっていたフィンが「ちょうどよかったわ」と言って、僕の方をチラチラと見ながら受付人も書類を見比べるように視線が僕と書類を行き来していた。

「はい、これで受付おしまい。これが貴方の番号よ」

 手渡された札を手に取る。番号は一番とわかり易いほど大きい文字で描かれていた。

「あれ? 僕が一番なの?」

「そうよ? だって受付は後数時間後の予定だから、アインだけ予定を早めてもらっただけ。一番だからわかり易いでしょ」

 自信満々にそう言われても反応の仕様がないだろうに…

 一番の札を持っているのが歯がゆい。だって、ここまで並んでいた人たちの時間を無碍にするような行いをフィンは悪びれもせずにやったのだ。

 イライラという文字が僕の後ろから流れて来そうなほどのプレッシャーが、一番先頭だった人から感じてくる。

 用事がなくなったフィンはさっさと王宮の中へと帰ってしまいそうだったので、続くようにそそくさと受付会場から離れていった。



 王宮の隅々まで案内してもらった僕は、今日だけフィンの部屋でひと夜を共にすることを提案されたのだ。

 医療室はもう使えないので、どこかで野宿をするよりかは大分マシなのでありがたく使わせてもらうことにしている。

「うぁ、今日は疲れたわ~」

 部屋に入るなり、自分の寝床にダイブして枕に顔を埋める。

「うん、ごめんね? 本当なら隊長としての仕事があったんでしょ?」

「う~ん……実はそうでもないのよね。この時期はこういう行事があるから、逆に私たちは外に出歩くわけでもなく、王都の巡回くらいよ。地方に出回っているのは五番隊からだしね」

 テーブルの近くの椅子に腰を掛ける。医療室から連れ出してきたナーガはまだ眠っているので、部屋の暖かそうな場所に寝かせておいた。

「それにしても、アクセスに一発入れるとはね。実は凄腕の達人なの? アインってさ」

「どうだろう、僕はただがむしゃらに投げ飛ばしただけだから、正直何があったのかなんて覚えていないよ」

 嘘だ。

 勿論嘘だ。

 確かにアクセスの一発は早い。ただ、僕にとっては遅かっただけのこと。

 ミーナとの組手の成果が出ていたのだろうか。知らない間に培われていた技術に感謝だ。

「そう言えば、アインは総長に何を言われたの?」

「ん?」

 フィンに言われてふと思い出した。

 ちょうど扉の向こう側にいたフィンは、僕が総長に呼び止められていた時を見ていたのだろう。

 だからと言って、何かを言われたというわけでもない。

「あ…」

「なによ?」

「フィンってさ? スーリヤっていう人を知ってる?」

 そう、フィンに問うと、顔が豹変する。

 その名前を、なぜ知らないのかと、田舎者を見るような目で僕を見る。

「アインってば、本当に何も知らないのね? いい? スーリヤっていうのは、私たち竜騎士の初代総長だった人なのよ」

 そんなこと言われても…知らないものは知らないのになぁ…。

 話を切り出したフィンはもう止まらなかった。竜騎士の歴史から今に至るまでの経緯を語っていく。

 こうして聞いていて思ったのが、意外とフィンは歴史とか好きなんだなってことだけ。

 スーリヤ総長。

 竜騎士が創立した時、王宮から任命されたこの男性は、記述で綴られた人物背景によると、人以外の言葉を聞くことができたのだという。

 そして、世界を救った英雄と言われていたようだ。

 総長スーリヤは、まだ竜と人間が争っている情勢だったにも関わらず、竜と共存をしていたらしい。

 今の世界だとそんなに珍しくもない風景だが、どうやら僕が生まれるより前はそんなにも壮絶な世界だったようだ。

 ある任務の際、自分の竜が寄生竜に蝕まれていたらしく、世界の崩壊を止めるために、たった一人で寄生竜“パラシトゥス”を倒したのだという。

「ま、ざっとこんなもんかな?」

「それだけ?」

「それだけよ。後はこの人の最後がどうなったのかは書かれていないし、行方を眩ませたって感じなのかな?」

 もし、行方を眩ませただけで、今の総長が僕をスーリヤと言って引き止める理由としては薄すぎるだろう。

「ふ~ん?」

「さてと、それじゃあ夜も更けて来たし、さっさとお風呂に入って寝ましょうか?」

「うん」

 フィンは自室に設置されていた浴室のドアを開けて入る。僕も一緒に脱衣所に入るが、困ったことに、どうすればいいのか忘れてしまった。

「どうしたの?」

 フィンは来ていた服を脱ぎながら聞いてくる。

「こういうところ久しぶりだから、どうすればいいのかわからないんだけど、服を脱げばいいの?」

「うん、そうよ? 何言ってるのよアイン。お風呂に入るのに服を着たまま入る人なんていないわよ」

 クスクスと笑いながらフィンは上着を脱ぎ、下着を外そうと腕を背中に回したところでピタリと急に体を止めた。

「………」

「どうしたのフィン?」

 ちなみに僕は上着一枚だけを脱ぐだけで裸なので、それほど時間がかからない。それよりも、なぜフィンはこっちを見たまま固まっているのだろうか?

「ちょっと待ったアイン………ズボンを脱ぐ前に、聞きたいことがあるわ」

 手にかけていたズボンから手を離してフィンに向き直る。フィンは前かがみになったままずっとこちらを警戒するように伺っていて、その額にはちょっぴり汗が滲んでいる。

「アンタさ? 男?」

「…男?」

「なんでそこで疑問に思うのよ!? えっと、なんていうの? 付いているか、付いていないかよ」

「あ~、それのこと? だったら僕は男だよ?」

「………そう、ありがとう」

 そう言ってフィンは脱いだ僕の上着を手にとってこちらに投げつけると。

「出てけええええええええ!!!??」

 怒鳴り散らされた勢いで脱衣所からほっぽり出されてフィンの部屋に後戻りだ。

 それにしても、初めて怒鳴られたなぁ。大体、男と女って別れているのは一応分かるけれど、拒絶するほどの反応は初めてだ。

 ミーナも女性ということなのだが、フィンみたいにヒステリックになるほどでは無かった。寧ろ、喜んで一緒に風呂に入ったこともあったっけ。

「あ、そっか、僕と同い年だったっけ」

 それじゃあ駄目だ。ミーナが言っていたっけ。

“いいアイン? 私はもう七百歳だからいいけれど、アインと近い年齢の子供とは慎重に付き合いなさいよ? 精神がまだ不安定な状態なんだから割れ物でも扱うように接してあげなさいね? まぁ、女の子だけだけどね? 男の子の場合? それは知らないわよ。アインが思うように行動すればいいだけだし”

 今思うと、最後の方は酷いことを言われていたような気がする。全国の男の人は御免なさい。

 ちょっと失敗してしまったか。反省、反省。

 窓際まで歩いて空を見上げる。月が少しだけ欠けてはいたが、地表を照らすには十分すぎる程の明るさだ。

 今頃アルマは何をしているのだろうか? 僕と同じようにこの空を眺めているのだろうか? 世界は広くて狭い。裏を返せば世界は狭くて広い。

 ………何言っているんだろ。

 窓の外には大きな木が、裏庭の大半を占めている。暗がりで見えにくいけれど、ここからだったら受付の会場にまで降りられると思ったけれど、ここは地上から離れた五階の部屋だ。

 ここから飛び降りるものなら、相当覚悟をしていかないと怪我をしかねないだろう。

「おまたせ」

 何処かよそよそしい感じな声で風呂から出てきたので、二言返事で応答してから脱衣所に入ろうとする。

 フィンの体からは湯気が上がっていて、肌が高揚していた。束ねていた髪の毛は解かれ、下ろした髪の毛の長さは背中までだ。

 ミーナやアルマとは違い、胸の膨らみは無いが、スラッと体のラインが綺麗だと思った。

「…なんか、フィンって髪を束ねていなかったら大人のお姉さんみたいだね」

 ふと、言葉が漏れてしまい、それを聞いたフィンは動揺を見せながら。

「へっ? う、うるさい! さっさと入ってきなさいよ!」

「うん、分かった」

 脱衣所に入った僕は久しぶりの浴槽に体を沈める。溜まっていた疲れとか色々な物がお湯の中に溶けていくようだ。

 獣みたいに唸りながら首まで浸かったところで明日のことを考える。

 竜騎士の試験。

 バトルロワイヤルによる一人だけの生き残りが次の試験に進むことができるのだという。

 ひとつのブロックに百人を集めて、一斉に行われるのだが、僕はその中で生き残ることができるのだろうか。

「だろうか…じゃなくて、やるんだよ…ここまで来たんだから…ね?」

 ボソリと自分を奮い立たせるように呟く。

 本番は明日だ。チャンスは一度しかないのだ。この一回に僕の全てを注ごう。ダメだったら、ダメで違うところでアルマの情報を掴んでいこう。

 風呂から上がり、体の汚れを落としてからもう一度お湯に浸かる。今日だけしか入れないかもしれなかったので、長くこの時間を楽しむようにお風呂の中で時間を潰した。

 浴室から上がった僕は、竜騎士専用の服が綺麗にたたまれていた姿であったのでそれを着ることにした。

 ずっと来ていた服より普通のサイズだったので手首が見えるようになっていて、なにか変な感じだ。

 脱衣樹おから出ると、よっぽど疲れたのだろう、ベッドの上では静かに横たわって寝息を立てていたフィンがいた。

 僕は部屋を照らしていた灯りを消して、フィンのベッドの中に入り込む。

「今日は、ありがとうね。おやすみなさい」


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