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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第三章~王宮~
33/99

~王宮~上

 どうして追いかけているんだろうか?

 何を求めているのだろうか?

 あのお姉さんを追いかけようと、アルマと一緒に旅をしたい等と、どうして僕は考えたのだろうか?

 自分にとってはあの時出会っただけの見知らぬ女性だ。だったら、追いかけようとか思わないはずだ。

 でも、僕はこの三年間をアルマに注ぎ込んでいた。それはもうぞっこんに。

 僕は知らないあの人。しかし、何かを知っていそうなあの人。僕の名前を聞いた時、確かに顔をしかめたのだ。

 名前で顔をしかめる程の反応なんて早々ないに決まっている。だからアルマは僕の事を何か知っていて、僕もアルマのことを何か感じ取っていた。

 初めて会った筈のあの木の下で、おかしい話だけど、アルマとはどこか出会ったような気がしてならなかった。

“アインはお姉ちゃんが守ってあげるよ”という言葉を、僕は聞いたことがある。

 記憶の彼方、遠く、遠い過去の話し。でも、僕は知らないという矛盾。

 あはは、変なの。



「………んっ」

 体がだるい、力を入れても一向に体は起き上がろうとしなかったので、唯一動かすことができた首を起こして、キョロキョロと視線だけを流す。

 白い部屋。体中にはよく分からない器具が刺さっていた。

「ああ、そっか。切られたんだっけ?」

 首筋に感じる違和感はついさっき起きた事件の名残か。

「うっ…んっ…」

 無理やり腕を動かすとビリビリと電流が流れるような痛みが走るがあんまり気にしないで起き上がると。

「なんだ、いたんだナーガ」

 お腹のあたりで包まって眠っていたナーガはぴくりと耳を動かし、ゆっくりと目を開けた。

「クルルルル!」

「わっ!? くすぐったいよナーガ」

 ぺろぺろと顔を舐めてくるナーガを離さないように抱きしめる。なんだか大きくなった気がした。

 じゃれ合っているところにガチャりと部屋のドアが開かれ、白衣を着たお姉さんが入ってくるなり、先生!! と叫びながら颯爽と部屋から出ていった。

 バタバタと廊下側からメガネを掛けたおじさんが入ってくると。

「ど、どういうことだ!? 回復不可の傷だったはずだぞ?」

 おじさんは慌てながら僕の服を手にとって、捲し上げようとした瞬間。ナーガが白衣のおじさんの手に噛み付いた。

「あぁいたたたたた!!!?」

 ブンブンと腕を振り回してもナーガの顎はおじさんの手のひらからは離れようとしなかったので、ナーガに声をかけてあげた。

「ナーガ! ダメだよ! 離してあげて?」

 言った瞬間にナーガは噛み付くのを止め、体が宙に舞う。くるりとその体を反転させて地上へ着地させ、しゅたしゅたとベッドに上がってきて僕のそばで体を包ませると、また眠ってしまった。

「あぁ、すまなかったね。あまりにも驚きすぎて我を忘れてしまったよ」

「気にしないでください、慣れていますから」

 一瞬、二人の顔がしかめっ面になったけれど、僕の言ったことは軽く流してくれて、本題に入った。

「一応自己紹介をしよう。私は王宮直下の医者だ。こちらは私の相方だ」

「よろしくね」

 ぺこりと頭を下げて会釈をする。僕も会釈をし返す。

「僕の名前はアインです。この子はナーガ」

「うん、よろしくねアイン君」

 お互いに握手を交わして、医者は僕が気を失うまでの経緯を話してくれた。

 どうやらあの後、犯人は駆けつけた竜騎士の三人に身柄を半殺しの状態で拘束。僕は命の危機に陥るほどの傷を負っていたらしく、すぐに王宮の医療室に駆け込まれた。

 手術は完璧だったらしいが、後は僕の気力だけだったらしい。

 ここまでで、五時間の時間が過ぎていたのだが、う~ん、ちょっと時間が勿体無かった。

「さてと、一応傷だけを見せてもらおうかね?」

 看護婦が僕の後ろに回って首元の包帯を外した。ちょっときつかったので息が楽になった。

「………馬鹿な!? そんな、どこにも傷が無い!?」

 触診して何度も首筋を探るのでこそばゆいのを我慢しながら終わるのを待った。

「とりあえず………今日はここでゆっくりしていなさい」

「はぁ、分かりました」

 医者はブツブツと呟きながら室内を後にすると、看護婦がさり際に。

「ちょっと、人を呼んでくるわね? 貴方のことを心配していた子がいたから」

 そう言って看護婦もこの室内から去っていった。

 ナーガも眠っていて話し相手がいない状態はすごく暇だった。

 外を眺めると王都を一見できる。医者の言うとおり、ここは王宮の中なんだ。潜入と言うと言葉が悪いので、侵入に成功した。

 う~ん、これも言葉が悪いような………

 日も傾き始めて西の空は夕焼けに染まっていく。炎を連想させるように真っ赤だ。

 座っているだけというのも退屈すぎる。体はいまだに気だるさを感じるが目が覚めた時ほどに動けないというわけではなくなっている。

 ベッドから身を乗り出そうとして足先を靴に合わせた時だった。

 ガチャリとドアが開かれ、中をそろりと覗き込むように入ってくる女の子に、僕は見覚えがあった。

「うわぁ、本当に生きている」

 視線が合った瞬間、まるで化け物扱いをするような言動に少しだけムッとした。

 僕が人質になっていた時に、野次馬たちからかき分けるように登場した一人の女の子。

 たしか、竜騎士の隊長と言われていたような気がする。

「酷い言い方をするんだね」

 靴を合わせて立ち上がる。医者が言うには今日はここで寝泊りをしてもいいということなので、ナーガを置いていっても問題はないだろう。

「ごめん、ごめん、私も内心吃驚しているんだから許して?」

 両手を合わせて頭を下げる女の子。

「まぁいいけど………ねえねえ?」

 顔を上げた女の子はきょとんとした目で僕を見ると。

「話し相手になってよ。ちょうど暇だからさ」

 女の子は拒否することなく、ベッドの傍らに合った椅子に座った。僕らは見合うように視線を交わす。

「いやぁ、でも本当に驚いたわよ。あの傷から生還できるなんてね。普通だったら即死よ?」

「ふ~ん? 運がよかったのかな?」

「どうだか? ここの医療って世界一って言われているけれど、実のところあんまりって感じだし? 王宮が凄いって言われるのは竜騎士の戦闘だけだから、他のことは一般と同じくらいよ」

「でも、僕は生きているよ?」

「そこよ!」

 びしっと女の子は指を突きつける。

「他の二人には教えなかったのだけれど、君の体を抱き起こした時に、傷の様子を見たのよ? そしたら何が見えたと思う?」

 知っている。自分の体のことは自分がよく知っている。多分、傷は治癒しかけていたんだと思う。

「傷がもう塞がっていたのよね? これっておかしいと思わない?」

「そんなものじゃないの?」

「いやいやいや、普通にあなたの首、半分パックリしていたからね?」

 ジェスチャーを交えながら女の子は喋る。

「掠ったような切り口の訳が無かったから、ずっと不思議に思っていたのよ」

 女の子は身を乗り出して僕を押し倒し、首元の包帯を脱がした。

「傷が………無い? 看護婦さんが驚いていた通りだわ」

 ああ、そう言えば、二人とも驚いていたっけ。

「う~ん、まぁ、良いんだけどさ? ちょっと………近いよ?」

「へっ?」

 まじまじと首元を見られていたし、何故か両腕とも彼女の手の平でガッチリと拘束されていたので、傍から見れば襲っている様子にも見られるだろう。

 しかも、一番被害者となるのは僕ではなく彼女だ。

「ご、ごごごごご御免なさい!!」

 女の子は猛烈なスピードで座っていた椅子に戻りながら顔を両手で被っている。耳まで真っ赤にしながら、頭からは湯気が出てきそうなほどで、少しだけ、可愛いと思えた。

「別に良いんだけどさ。あのさちょっと聞いていい?」

「うん、なに?」

 頬が染まっているのか、それとも夕焼けに染まっているからなのかはわからないけれど、彼女は顔を上げてこちらを見る。

「どうやったら竜騎士に入れるの?」

 彼女はさっきまで照れていた顔が一気に引く。

「貴方、本気なの?」

「僕は本気だよ?」

 女の子は少しだけため息を吐いて日が落ちた空を眺めながら。

「死ぬかもしれないのよ?」

「そうなの? 試験の内容も知らないでここに来ちゃったからよくわからないのだけど、一体どういうの?」

「………バトルロワイヤルって言ったほうがいいかしらね。普通だったら私たち竜騎士が止めに入るけど、それでも死人がでる過酷な競技よ? さっきまで死にかけていたあんたが、合格できるとは思えないのだけれど、本当にやるの?」

 何度も確認する彼女は、心底僕の事を心配してくれているのだと思う。けれど、僕は引くことは出来ないのだ。

「やるよ、そのために僕はここに来たのだから」

 そうやって言うと、女の子はもう聞くのをやめて立ち上がる。

「それじゃあ、一応自己紹介ね? 私の名前はフィン・ミーアナード。王宮特別警備団体。別名、竜騎士の三番隊隊長よ。よろしくね」

 僕は彼女の手を握りしめて立ち上がり、自分の自己紹介をする。

「僕の名前はアイン。よろしくねフィン」


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