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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第三章~王宮~
32/99

~竜騎士~

 ガヤガヤと賑やかな声に目を開ける。

 日差しはちょうど正午あたりを差し出しているあたりだろうか。

「んっ……眩しい」

 日差しを遮りながら周りを見渡す。見渡す限りが人しかいない。

 いやまぁ、人は見飽きるほど見てきたけれど、歩くことすら困難に見えるほどの人だかりは初めて見る。

「おっ? 起きたか」

 声がした方向へと視線を向けると、人波をせき止めている防波堤のような感じでおじさんは商売をしていた。

 喧騒の中をものともしないで僕とお客さんを相手にしている辺り、やり手の大分やり手の商人だ。

 顔は涼しい顔をしているくせに、売買している時やお金の勘定をしている時の手の速さは異常だと思えてしまうほどに早い。

「すまんな、一応起こしたんだけどぐっすりと眠っていたからそのまんまにしちまった」

「いえ、ここまで連れてきてくれたのに、そこまで親切にしていただいたのに文句なんて言えません」

「………行くのだろ? 王宮に」

 僕は頷いて竜車の荷台から降りる。

「王宮だったら、あの建物を目指せばすぐに着くだろう。それじゃあ、達者でなアイン」

「ありがとうおじさん。僕、この恩は忘れないよ」

 それだけを言って僕とナーガは人ごみに紛れるようにおじさんの前から姿を消した。

「ありがとう…か、そりゃあ、俺の台詞だよ」

 ハバキは姿が見えなくなった少年との三日間の日々を思い出す。たったの三日間だったが、濃密な時間を過ごした気がしていた。

 アインは王宮に行きたいと言っていたので、俺はてっきり竜騎士になりたいのだと思っていたが、話を聞いている限りだとそれは違った。

“ある人に会いたい”それが王宮の人なのかと俺は問いただすと、返ってきた名前はあの大罪人の名前だったのだ。

 四代目竜騎士総長の称号を与えられた最年少の少女と世間は瞬く間に四代目総長アルマの名前が世に渡った。

 竜騎士の総長というだけでも世界に轟かせる名前になるというのに、アルマは何を思って王宮に逆らったのだろう。

 アインにはそこまでは何も話していない。会いたがっている人が大罪人と言うだけで傷つくかもしれないからだ。

 もしかしたら事情を知っているのかもしれないが。

「頑張れよ」

 姿が見えなくなった少年に届きはしないであろう言葉をボソリと呟いて、俺は商売に明け暮れた。




 見渡す限り、人、人! 人!! とにかく人が多い。

 世界の中心となる国家、王都というべきだろうか。王都あっての世界と言われているだけのことはある。

 王都に憧れて地方の村からは働き口を求めて王都にやってきたり、王宮の専属部隊、竜騎士に入団したいという人たちであったりと、色々な思いを持って王都にやってくる人が様々だ。

 かくいう僕だって、竜騎士に入りたいという訳ではないけれど、アルマのことを聞くとなると、一番近いのは竜騎士ということになる。

 おじさんの話を聞く限り、この月日の間は竜騎士の試験が開催される日なのだという。つまり、僕は運がいいということだ。

 試験開催近くにここにやって来られたのだから、運がいいとしか言いようがない。

「グルルルルゥ」

「ん? やっと起きたのナーガ?」

「グルルゥ」

「お腹が空いたって? ずっと寝ていたくせに、この食いしん坊さんめ」

 頭の上に乗っかっているナーガの頭を小突いたあと、自分のお腹から空腹の知らせが耳に届く。

「………」

「そんな目をしないでよナーガ」

 じとー、と鼻で笑うような感じで見てくるので根負けした。

 でもまぁ、ちょうどお互いにお腹が空いているということなので近くのお店にでも入ることにした。

「いらっしゃい、申し訳ねえけど、今満席なんだ。一時間くらい掛かるけどどうする?」

 ごつい体をしたお兄さんがそう言って満席のことを教えてくれた。

「そうですか、それじゃあ止めておきますね」

 席に座れないのだったら仕方がないので僕は次のお店に向かうことにした。

「いらっしゃいませ、申し訳ございませんが、ただいまお席の方が満席となっております。一時間ほどお時間を貰いますがいかがいたしますか?」

「いえ、止めておきます」

「いらっしゃい、ただいま満席ですが――」

「どーも」

 ご飯食べるだけで、なんでこんなにも疲れるのだろうか。入ったところ全てが満席だなんて酷すぎる。

 やはりお昼ごろだとどこも満席なんだろうなぁ。

「はぁ…」

 ため息を付いたところで目の前にあるお店で最後にしよう。これで入れなかったらもう少ししてからどこかのお店でご飯を済ませよう。

「いらっしゃいませ、お客様はお二人でよろしいでしょうか?」

「はい!!」

 あまりにも虚を突かれたので反応が興奮してしまい、少しだけ店員さんが困っていたけれど気にしない。腹が減っているからしょうがないと自分に言い聞かせながら、僕とナーガは支持された席に案内される。

 適当におすすめされたメニューを注文し、出された料理を頬張る。

 普段食べ慣れたものと言えば虫くらいだったので、こういうお肉というものを食べたことはなかったが、なるほど、都会の人たちはこういうものを食べるんだ。

 ガツガツと目の前に置かれたナーガの取り皿からは、勢い良く消えていき、挙句の果てには僕の取り皿からも奪おうとしたのでそれを阻止する。

 にやりとナーガの口角が釣り上がっているのがわかる。

「だめだよナーガ。言うこと聞かないと、メッ! だよ?」

 ナーガの口元に人差し指をあててやると大人しく座り、自分の皿を舐め上げる。

「意地汚いよ?」

 クスリと笑いながら自分の食事を再開する。

 さてと、これから何をしようか。

 いや、目的は決まっているのだから簡単だし、竜騎士の試験を受けて合格すればいいだけの話だ。

 試験とはどういうものなのだろうかと、食事後の苦い飲み物を啜りながら考えに耽る。

 そう言えば、この苦い飲み物も久しぶりに飲んだ気がする。

 ミーナが人間たちの飲み物の中で一番中毒になった飲み物だと言っていた。その時も同じような物を飲んだので舌が覚えていたようだった。

 黒くて苦い飲み物は、もう飲まないと思っていたけれど、こんなところで口にするとも思っていなかった。

 今頃ミーナは何をしているのだろうか。どうせまた旅でもしているとは思うけれど。

「―――――!!」

「ん?」

 ここから少し離れた席が騒がしい。怒声や罵声が飛び交っていて、だんだんと音はこちらに近づいてくると。

「俺に近づくんじゃねえ!! ちょっとでも近づいてみろ? このガキは死ぬことになるぜ?」

 えっ? 誰が? 僕が?

 状況を整理しよう。

 人の視線が集まっている。男の人が僕の首を締め上げて首にナイフを突き立てている。じりじりとお店の出口に向かっている。

「わぁ~お………」

 人質というやつだろうか、そうなのか。

 王都ってそういうのは無いものだと思っていたけれど、実は治安が悪かったりするのだろうか? 都会は怖いということを改めて教訓した。

 どうしよう、これくらいなら簡単に倒せる人だけど、さて困った。

「ナーガは…」

「おっと! 喋るんじゃねえ! おめえも死にたくはないだろう?」

 ナイフをちらつかせて脅しているのだろうけれど、竜と相対した身としては恐怖すら感じないので逆に困る。

 まぁ、放っておこう。誰かがどうにかしてくれる筈だし、どうにもしてくれなかったら自分でやるから問題もない。

 犯人と一緒にお店を出ると、騒ぎを聞いた野次馬たちがたくさんいた。ここから逃げ切るには、僕としては屋根伝いで行けば逃げられるけれど、この人がそんなことをできるとは到底思えない。

「おい、竜騎士は呼んだのか?」

「ああ、耳には入っているとは思うけれど、どうだろうな」

 チラホラと聞こえてくる竜騎士という単語。忘れそうになるけど、そういえばここは王都だったんだ。

 王都には王宮専属団体竜騎士が管轄しているので、他方の警備団体よりは優秀だとおじさんも言っていた。

「おらぁ! 道を開けねえか!!」

 興奮している男は届きもしないナイフをブンブンと振り回して人ごみに紛れようとするが、ぞろぞろと現れた五、六人の鎧をきた人たちを見て足を止めた。

「子供を離して解放しろ! お前はもう逃げられんぞ!!」

 周りの人たちが歓喜に喚く。なるほど、この連中が竜騎士なのか。

 体中の細部を覆う鋼の胸当てや、腕あてが輝いているが。なんだか、拍子抜けしてしまった自分がいた。

 竜相手に、そんな鎧は無用だ。一撃一撃が命の糸を簡単に寸断してしまうほどの強さなのだ。人の体なんて蒸発させることすら難しくない炎が襲うのに、人が作った鎧が、竜からの攻撃を防げるとは到底思えなかった。

「うるせぇ!! 竜騎士がなんだ!! それともなんだぁ? お前らはこれが見えないのかよ?」

 首元にナイフを突き当てて、薄らと刃を滑らした。つぅっと、首筋に伝わっていく血の線を犯人は僕の体を使って見せつける。

 僕はどう反応すればいいのだろうか? 泣き叫べばいいのか? 助けを求めればいいのだろうか?

「やめろぉ! 貴様、今すぐその子から離れろ!!」

「じゃあ、てめえらはどっか行きやがれ! 俺の前から消えねえと、このガキは開放しねえ」

 竜騎士たちは犯人の狂言に物怖じしながら徐々に後退りをしようとした瞬間。

「やめなさい、そのまま逃げたら私たち竜騎士の名前に泥を塗るわよ」

 凛とした声があたりを包む。それに続いて、竜騎士たちの間を縫うように姿を現したのは女の子だった。

 年は僕と変わらなさそうな外見で、栗色の髪の毛を束ねていた。

「そうそう、逃げたら後で痛い目にあうくらいは分かっているだろ?」

 女の子と同列に並んでいたのか、焦げ茶色の髪の毛で癖のある髪の毛を掻きながら、気だるそうな目で犯人を見つめている。

「おぉ! 二番隊の隊長と三番隊の隊長だぞ! これで安心だ!」

 周りは大騒ぎをしながら二人の登場に嬉々する。かくいう犯人もナイフを持っていた手をカタカタと震わしていた。

 竜騎士の隊長というのは凄いらしい。

「ったく、金が払えないなら、そのお店に入らなければいいんだよ」

 男の子が一歩全身すると、犯人も合わせて後ろに下がる。

「っく、くそぉ! なんで二番隊と三番隊の隊長クラスが!」

 独り言を呟いているが、近くにいる僕にははっきりと聞こえてしまうほどだ。

 だから、ボソリと犯人とは違う声が僕の耳に入ってくる。

「残念ながら、一番隊もいるんだけどな?」

「はっ?」

 犯人は背後の少年に顔を向けると、有無を言わさずに少年は犯人の顔を殴った。

 だが、逃げたいことに必死なのか、僕も犯人と一緒に吹っ飛ばされていき地べたを擦る。

「まさか、一番隊の隊長。ミリ・アーランバも来るなんて! どうしたんだ? 今日はやけに揃うじゃないか!」

 一番二番三番と竜騎士のトップレベルは揃わないと言わん張りの珍しさで野次馬たちは叫び上げる。

 どうやら、犯人はもう逃げられそうにもない。

 犯人もそれが分かっているのか、目が悟っていて、なんだか逆に決意をした感じにも見えた瞬間。

「畜生がぁ!!」

「えっ?」

 ドスりと、鈍い音と気持ち悪いくらいの滑らかさで異物が入ってきたナイフは、横一線に首を滑っていった。

 目の前が鮮血に塗れる。

 世界は真っ赤に染まり、野次馬たちの金切り声が上がって、僕の幕は閉じたのだった。


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