~記憶の断片~
その日のことは、正直に言うとあまり思い出したくない部類に入る。
自分の旅の目的を与えてくれた人に、感謝したかった。感謝しなければいけなかった。だから僕は、ずっとアルマにもう一度会えたのなら、ナーガを見せて、一緒に旅をしたかった。
でも、それは叶わない願いになった。夢想していただけの儚い想いで、手に掴む事さえ出来ない望みにだ………
その時の僕は王宮の竜騎士に入隊し、三人の同じ年齢の子と友達にもなった。皆強くて、大人顔負けの強さだったのに、アルマは他の竜騎士、それと、竜騎士を束ねる総長さえも凌駕している。
正直、僕だったら止められるのではないのかと、そんな浅はかな考えを持っていた自分が馬鹿だった。
アルマの強さは、世界中の強い人を集めても勝てないと、僕はアルマの………お姉ちゃんと手合わせをして、そう感じた。
たしか、あの日は雨だった気がする。
誰かの気持ちを模したように降り注ぐ雨は、僕の体温を徐々に奪っていく。
いつの日か、あの湿原で迷子になった時と同じような気分になった。
だからと言って、今回はアルマが助けてくれたわけではない。むしろ、僕たちを殺しに来た敵だと断定してもいい。
靄がかかる意識、霞む視界にはアルマが写っていた。
雨にうたれながら、アルマは僕の頭を優しく撫でる。母の愛情を注ぐように、姉弟という、家族間での愛情を最後だと堪能するように。
不意に雨がまぶたに一粒落ちてきて、目の脇を通って頬に雫が線を引く。
雨かと思っていたそれは、アルマの涙だった。
「お姉ちゃんは……嘘つきだ……」
僕はそう言ってアルマの泣き崩れている顔に触れる。
アルマの冷たい手のひらの感触が伝わる。
「ごめんなさい……」
アルマの声は上擦っていて、何を言っているのか少しだけ判断に迷った。繋いでいた手のひらは離れて、アルマが立ち去っていく足音が、意識を失うまで僕の耳元で永遠と繰り返していた。




