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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第二章~謎の竜使い~
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~誤解~

「あれ…なんで?」

 目を覚ますと僕は、はじまりの樹の入口付近で眠っていた。

「って、なんだこれ?」

 寝ぼけていた脳が一気に覚醒し、目が冴えてしまうほどにびっくりしたそれは、腕にすっぽりと入るほどの大きさで、その存在感を示していた。

 何かの卵だろうが、思い当たる生物が入っているのは一つしかない。

「竜の卵?」

 そう、僕が呟くのと同時に聞いたことがある笑い声が僕の耳に届く。ここに入る前、あまりにも印象的だったあの笑い声。僕は顔を上げると目のお前にはお爺さんが僕と卵を見下ろしながら不敵に笑っている。

「おめでとう、見事にはじまりの樹に住み着いていた竜を倒してきてくれたか。ふむ、それは稚児じゃな?」

 おめでとうと言われて僕は思い出す。

 確か、僕はあの竜と戦っていて。

―――炎に焼かれた筈だった?

「あれ………治っている?」

 右手を眺めてみたけれど、真っ黒になっていたはずの腕が普通になっていた。

 それだけじゃない。

 焼かれた服も、戦った後の傷も、骨が折れたと思っていた部分の痛みも全て消えているのだ。

 アーク村に居た頃は常人並みの回復力だったはずなのに、最近の僕の体は異常なほど再生が早い。

「久しいなシュクラ…」

 お爺さんは死に別れた家族と出会ったような雰囲気で話しかけてくる。

 だけど、僕の名前はアインだ。シュクラなんて聞いたこともない名前を言われたところで反応のしようがない。

「なんだ、知らないのか小僧? 貴様は竜人の生まれ変わりなのだぞ?」

「え、生まれ変わり? 竜人と人間の間に生まれたって聞いているけど……」

「ぬ? そうか、貴様はまだ気づいておらぬのか」

 お爺さんはそう言ってどこかへ行ってしまう。

 そういえば、ミーナにただいまって言わないとな。ちゃんと自分一人の力で…と言えるのかは分からないけれど、それでも、ただいまって言おう。

 立ち上がるとごろりと大きな卵が足元にもたれ掛かってきたので壁にもたれかけさせて様子を見る。

 本当に大きい。触ってみて感じた命の鼓動。もうすぐ生まれるのだろうか?

「アイン?」

 聞き慣れた女性の声。紛れもなくミーナの声だとわかったので振り向いてただいまと言おうとしたところで、ミーナの表情に出掛かっていた言葉が引っ込んだ。

「ミーナ?」

「なんでまたアンタが出てきた!」

 嫌悪、拒絶、怒り。三つの感情が入り混じっている声。驚愕から、鋭い刃先を喉元に突きつけられたような感覚。

 何日前かにお爺さんに叩きつけた殺気とは一瞥していた。

 救われる気がしない。助かる気がしない。そう、本能に訴えかけられている。脳が麻痺し、四肢を動かす神経が無くなったのではないのかと思えてしまう。

 ゆっくりとミーナが近づいてくる。

 なんとかしないと、どうにかして喋らないと。弁明しないと。何を勘違いしているのかはわからないけれど、とにかく違うと言わないと!

「違っ――!?」

 違うと、何を否定すればいいのかわからないのに、なぜか違うという言葉が出てきてしまった。

 でも、僕が喋るよりも早くミーナの動きは早くて、気が付けば押し倒されていた。

「喋らなくていい、ここでまた兄さんを封印してやる」

 左手で僕の口は塞がれており、天突に指を突き立てる。

 頚動脈を締め付けられるよりも苦しい。例えるならじわじわとなぶり殺しのように死が訪れてくるような感覚なのに、天突と呼ばれる部位。一時、ミーナに教わってもらった人体急所の一つ。

 鎖骨の部分より少し上部の位置にある窪み。この位置を突かれると指の一本で人が殺せると聞いた。

「―――っ!!」

 死にそうな目にあってきたのに、安全だと思っていた外でさえこんなにも危険なことが待ち受けているなんて、笑えない冗談だ。

 半ば意識が飛びかけてきた。これって本当に死んでしまわないのだろうか?

「馬鹿もん!! 何を血迷っているかぁ!!!」

 怒号が飛び交い、ミーナはお爺さんの声に体をびくつかせ、お爺さんに振り向いた。その瞬間、僕に掛かっていた殺気は薄れ、体の緊張が嘘のように無くなった。逃げるのなら今だと感じた僕は、動かなかった両腕をミーナの両手を振り払うことに成功した。

「何をするのよ爺さん!!」

「何をする? それはこちらのセリフじゃ!! 今、お前が何をしようとしたのか分かっておるのか!?」

 怒り狂うようにお爺さんは声を張り上げ、咳き込んでいた僕を指さす。

「この前の小僧と姿が違うだけで、小僧を殺めようとしたのじゃぞ?」

「嘘言わないで! あの白髪は竜人の証。覚醒したのだって、この竜角が感じ取ったのよ?」

「じゃからと言って、今の小僧の意識がシュクラのものだと分かっていたのか?」

 お爺さんの一言で、思い知ったようにミーナの体が大きく跳ね上がる。

「あ…あぁ…私は…」

 両手で顔を覆いながら、その隙間から現実を覗き見するように僕を見ていた。全てを理解したミーナはじりじりと僕達から離れていく。

「待ってミ――」

「いやぁぁぁ!!」

 認めてしまったのだろう、僕だと理解してしまったのだろう。だから、合わせる顔がないと思ったから逃げてしまったのだろう。

「ミーナ!!」

 すぐに追いかけようとした時だった。

「待て小僧!!」

「なに? 早く追いかけないと!」

「小僧がせっかく持って帰ってきた命をこのまま置いて行く気か?」

 僕の足元に転がっていた卵を顎で指し示す。

「行け、そして………旅立つ時だ」

 お爺さんは静かにそう言って背中を向け、オンボロの小屋に帰っていった。

 足元に転がっていた卵を拾い上げ、僕はこの場所に感謝の意を込めて頭を下げてミーナを追いかけていった。


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