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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第二章~謎の竜使い~
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~心配ミーナ~


 アインがはじまりの樹に登ってから二日が経った。既に三日目の昼ごろに太陽も差し掛かっていて、私の気持ちは不安と焦燥で埋もれている。

「…遅い」

 このセリフだって何度言っただろうか。数えきれないほど言ったような気がする。

「聞き飽きたぞ、そのセリフ」

「うっさい、アンタは黙ってて」

 いつから背後にいたのかは分からないが、爺さんは不敵な笑みを絶やさずに浮かべている。

昔からそうだった。人の気持ちを見透かしたように話を切り出してくる。それで毎回イラつかせてくれるのがこの爺さんだ。

「んで? 主はあの小僧が帰ってきたら、別れるんじゃろ?」

「………」

 私は押し黙っていると、短く、さも愉快そうに笑い声をあげた。

 カラカラと乾いた笑い声は相変わらずで、発声の一声が勘に触る。

「ッカ!! カッカッカッ! まさか図星じゃったとわな。だが、ええのか?」

「なにがよ?」

「小僧を一人にすることになるぞ?」

「良いのよ。元々私の使命は、アインを独り立ちさせることだったから」

「ふ~む? それで?」

「なにが?」

「おいおい、何がとはないじゃろう? 小僧を独り立ちさせることが使命だったのなら、主は別れたあと、何をするつもりなのじゃ? また、行くあてもない旅に出かけるのか? それとも――」

「爺さん………それ以上、私の中に踏み込んでくるのなら――」

 顔を合わせたくなかったけれど、私は敢えて爺さんの顔をまっすぐ見つめて言い放つ。

「殺すわよ」

「………おぉ、怖い、怖い」

 爺さんはそれだけ言って私のそばから離れ、ボロ小屋に戻っていった。

 ため息をついてはじまりの樹を見上げる。

 あの子は今どこにいるのだろう。竜を一人で退治してくるというのは、私からしてみれば自殺に等しい。

 普通の人間なら、振り回された爪で体を寸断されるだろう。強靭な顎で食いちぎれるだろう。

 でも、あの子は普通の人間ではない。確かに半分は人間ではなくとも、ベースとなっているのは人間だ。人外の力を持っている竜人ではない。

 ましては十歳の子供だ。

 それを、たった一人で竜を討伐してこい? ふざけている内容だ。行けるのなら、今すぐに迎えに行きたいという衝動を押さえ込む。

 あの子は自分の意思で私に言ってくれたのだ。

 ――自分は変わりたい、と。

 それなら、信じてやるしかない。アインが大丈夫だよって、笑顔で言った言葉を信じるしかない。

 今思えば、二ヶ月か。十年も長旅をして、見つけた子供を一人で生きられる様にするのをたったの二ヶ月。私にとっては、それはあまりにも短すぎる時間だった。

 これまでのことを思い出す。

 アインが自分の血を覚醒したことや、私と初めて会った時の事。すべての思い出を引き出す。

「出会った時のアインったら、大変だったわねぇ」

 人の優しさなんかに触れたこともなかったアインは、自分以外の人間を拒否することで、その心を保ってきていた。

 来るなと叫んでいた時、あの子の目には何が写っていたのだろうか?

 村を出てからは、一日一日を楽しむように暮らしていた気がする。私との組手とか、一生懸命に取り組んでいた。

 最初から、体を動かすのは好きだったのだろう。というよりは、一人暮らしをしていた時のアインは、毎日狩りを勤しんでいたと聞いている。十歳という若さで普通の動物を仕留めるくらいなら、運動神経は類まれない才能といえる。

「楽しかったなぁ、本当に………」

 アインに潜ませている私の一部は、爺さんに見破られてしまい、アインの様子を見ることは出来なくなっているのだ。

「早く帰ってきなさいよ………もう」

 気が付けば日は傾き始め、東の空から徐々に夜がやってくる。このままでは三日目が終わってしまう。

 もし、一週間も帰ってこなかったら覚悟しよう。

 そう私は祈りつつ目を閉じようとした瞬間、私の竜角が強く反応した。

 竜人が近くにいるという反応。しかし周りを見渡しても皆がいるわけでもない。そして、一つ思い当たることが私の脳裏によぎった。

「まさか!?」

 大樹を見上げて思案する。その反応は、はじまりの樹からだった。


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