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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
~プロローグ~
2/99

~ミーナ~

 ある日突然のことだった。

 予想外のことが起きると人はあんなにも驚くんだなって、自分のことながら他人のように思えてしまいそうなほどだ。その時の私はいつものようにのんきに歩いて世界の旅をしていた。なんの目標もなく、行くあてもない。行き当たりばったりの世界一周旅行をもう何週目ぐらいかは忘れたけれど、確か夜だった気がする。

 新しい月の始まり、新月の日だったからよく覚えてる。その日は焚き火をしていたおかげで夜空の星が炎の明るさのせいで見えづらかった。

 ちょうどいい時間にもなったので火を消して空を眺め、星の観察をしている所に急に現れたのがラーミアだったのだ。

「よお、久しぶりミーナ」

 それはあまりにも久しぶりの訪問というか、姿を現したというか、私の前に現れた人に少しだけ驚いた。私たちの前にはもう姿を出さないと思っていたからだ。

「どうしたの?あんたがこんな所に来るなんてっていうか、よく私がいるところがわかったわね?姉さんぐらいよ、私を探せるの」

「ああ、そうだろうな。だから探すのには手間取ったよ俺は」

 私は体を起こして火をつけようとしたが、ラーミアが薪に息を吹きかけて火が灯った。

 紅竜ラーミア。私たちの中で唯一火炎袋かえんたいが人の形態でも使える竜人。私たちも一応火炎袋を備わってはいるが、それは竜形態の時だけ。だから火を起こすときは原始的な方法で火をつけるのだが、こういう時は楽の一言に尽きる。

「それで?私に何のようだったの?あんまりいい情報とは思えないけど」

「回りくどいのは嫌だからな、単刀直入に聞くけど、王宮の事件て知ってるか?」

「あのねぇ、風来坊の私にそんなことを聞かないで欲しいわ?知ってるわけないじゃない」

 私は、傍らに置いてある円柱型にかたどられたカバンから水と鍋を取り出して、焚き火の上に鍋を置き水を敷いた。私のその行動にラーミアは虚を突かれたように鍋を見ていた。

「なんだ・・・・それ?」

「知らないの?鍋だよ?」

「あ~いや、それくらいは知ってる・・・俺が言いたいのは・・・・もういいや、なんかめんどい」

 ラーミアはそう言ったきり頭を抑えていた。ボコボコと煮えてきた水の中に私は黒い粉と白い粉を入れ、かき混ぜる。火元から離して私は二つのコップに注ぎ、私に一つ、ラーミアに一つ差し出した。

「それね、人間が朝とかによく作る飲み物なの。ちょっと苦いけど、なれるとクセになるよ?」

 ずずずと音を立てて飲む私の姿を真似てラーミアも同じようにカップに口をつけて啜った。飲んだ瞬間に顔をしかめているところを見るとやはり昔の私と同じような顔をした。始めはだれだってこんな顔をする。

「苦いなぁ・・・・なんだこれ?」

「えっと・・・確か珈琲って言ってたような」

「ふぅん?」

 ずずずと二口目に入ったラーミア。どうやら苦いとは言っているが、飲めないと言うわけではなさそうだ。さてと、ラーミアが言いたいことはさっきのこととは違う事だろうと思ったので、早めに私は話を切り出した。

「それで?」

「ん?」

 ラーミアは飲み終わったのか、カップを置いて私に向き直った。

「私に何の話だったの?」

「・・・・実は最近な?」

 そう話を切り出し、ラーミアは私が知らないことを話しだした。

「つい最近、人の観察を始めるために王宮に潜入したんだ。一応年数は五年前になる。一時、王宮の強い奴と出会ったから、一番お強い奴と手合わせも兼ねて行ったんだけど、実はもう総長は辞任して新しい総長になっている奴がいたんだよ。それがまた、俺を王宮に駆り立てたやつだったから、意気消沈しながら渋々姉さんの真似事を続けたんだよ。

 そしたら、ある時王宮の作戦に近場の森に特攻という話が来たんだ。俺はどうせ平兵だから無理矢理行かされたんだけど、そん時に姉さんに出会ったんだ。

 姉さんはいつの間にか人間と仲良くなっていてさ。

 竜人の力を欲した馬鹿な総長は俺たちに喧嘩売ったんだよ。どうせいつものように姉さんが勝つと思っていたら。姉さんの能力が聞かなかったんだよ。

 信じられないだろ?姉さんの能力って、俺たちの中でもダントツにずば抜けていたのに、その能力が消えてるんだ。だから、ただの弓矢が姉さんの体を貫くところまで見ながら――」

「もういいわ、ラーミア。吐き気がする・・・」

 ラーミアは私の言葉に淡々としゃべり続けていた口を閉ざした。

 なんで姉さんの能力が消えていた?バカな話があるか、あれは、父さんと母さんの加護のようなものだ。姉さんは万物からの攻撃は遮断される筈。だが、ラーミアの話を聞いている限り、加護が無くなっていたということだ。父さんが私たちを見放すがない、母さんが見限るはずがない。

 ふと、何かが引っかかった。

「ねえラーミア?」

「なんだ?」

「もしかして・・・・姉さん、その日に何かやったとか?」

 ラーミアは思い出すようにその時の情景を整理しているのか、顎に手を当てて考えていた。

「あぁ、あったわ」

「それが何かわかる?」

「確か、赤ん坊だったと思う。あの小ささからすると、姉さんの子だなあれは」

 合点がいった。多分姉さんの加護が消えていたのは、出産のせいだ。私も詳しくは知らないが、出産直後は著しく体力ともにま力が低下する。そのおかげで姉さんのかごも消えていたのだとしたらつじつまが合う。

「姉さんの居場所は?」

「次元の狭間だろうよ・・・愛するものをすべてバラバラにされたんだ。塞ぎ込むのも無理はないよ・・・」

 その気持ちは痛いほどわかる。私だって彼を目の前で死なれては、怒り心頭でそこにいた人間を食い漁ったこともある。そのあとの虚無感といったら、今でも続いてる。

「ありがとうラーミア。私、目的ができたわ」

「はっ?」

 あまりの突然のことにラーミアは素っ頓狂な声をあげて私を見上げる。

「姉さんの子供を探す。私たちの家族なんだもん。探すのは当たり前でしょ?それに、最初から私に赤ん坊のことを探させようとしたからここに来たんだろうし」

「・・・・・ごめん。ありがとう、ミーナ」

「ううん、いいの。ラーミアだってその子を探したかったんだろうけど、王宮を出れないからここにいるんだろうし」

 私はバッグを抱えて立ち上がると、追いかけるようにラーミアも立ち上がった。

「それじゃあ、名前と姉さんがそこに行ったと思う場所にを教える」

「うん、助かる」

「あの方角だと、アークっていう山脈帯だと思う。村はアーク村かもな」

「アークか・・・ちょっと、遠いかなぁ」

「なんで?飛べば早いだろう?」

「あのね、歩いてそこまで行くっていうのだけは譲れないから」

「そ・・・そうか。んじゃぁ、名前な?」

「あ、うん。危ないところだったわ」


 ――アインっていう名前だってさ。

 ――ふうん?始まりアインかぁ、姉さんらしいや。


 私はそれだけを言って南の方角へ足を運んだ。

 目指すはアーク村。そこに、私たちの希望がいる。私たちの家族がいる。

 すこしウキウキ気分になりながら、ここからだとどれくらいかかるか歩きながら計算して、目を見張るほどの数字を叩き出した。


「五年かぁ・・・こりゃあ長旅だぞ!!」 





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