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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第二章~謎の竜使い~
15/99

一週間前

 それはたったのひと夜にして、竜人の血は覚醒した。

 私が見たときの状況として一つ挙げるとしたら、目の前に広がっていたのは“怒り”という二文字の単語が具現化したような惨状だった。

 まず、アインの身に何が起こったのかは一目瞭然、部屋が個室という点で全てが物語っている。

 いい年した大人の男が、男の子と一緒に寝ようなんて正気の沙汰とは思えないが、そこはまぁ、アインの顔がどっちとも捉えれるような顔立ちをしているからしょうがないと思ってはいるのだが。

 大人は一人だが、その行為の最中に殺されたのだろう。首と胴体が縦に割られて即死。下半身の部分だけが繋がっていたので、行為の最中に殺されたと推理したまでだ。

 返り血を浴びたアインの体は生まれたままの姿で立っていて、可笑しそうに顔が歪んでいた。優しかったあの子じゃない、弱々しいあの子じゃない。邪悪に顔を染めるのはアインではない。

 そうやって心の中で私は言い聞かせながらアインの姿を見つめる。

 金色だった髪の毛は脱色されて真っ白になり、蒼穹な瞳は、血のように真っ赤に変化していた。これがアインの本来の姿なのだと私は直感する。

 アインは手元に広がる真っ赤な血を見てはにやりと笑い、男の血液を体内に取り込もうとした瞬間に私は行動をしていた。

「ダメよアイン、そんな下種な血を飲んだら」

 アインの手が上がらないように腕に力を入れて止めさせる。

 それでもアインの腕には力が入っており、ものすごい力で血を飲もうとしていた。あまりにも私の抵抗が鬱陶しかったのか、初めて竜人のアインが口を開いた。

「……誰だお前。喉が渇いてるんだ、好きにさせろよ」

 その言葉使いは人間だった頃のアインとは程遠く、もう一人のアインが代弁しているかのようにも思えた。

「ダメといったらダメ。血を吸うのは愛した人だけにしなさい。だから、そんな男の血を取り込むのはダメ」

 アインの目が憎悪に満ちる。

「ふ~ん?それじゃあ、あんたが俺の欲求を満たしてくれるの?」

 殺してやると、肌に感じる殺気。十歳の男の子には出すことが出来ないであろう闘気に似たものに私は気圧されていた。これが同じ竜人としての力なのか。

 だけど、私とて負けるわけにはいかないし、引くことは出来ない。このアインを元に戻すことが最重要なのだから。

「良いわよ?ただし…」

 私は掴んでいた腕を変化させ、アインの体全体を縛り上げた。

「っぐ!?」

 床に転がってこちらを睨みあげるアインを担ぎ上げる。たった二ヶ月だけど、初めて会った時よりは重くなっていることに少しだけ安心した。成長しているのだと実感が直に伝わるから尚更いい。

「私たちの部屋でね?」



 街に来たのは二週間前で、その間に私は、はじまりの樹に向かうための準備をするために情報を集めていた。そのためアインと会う時間は朝の鍛錬と夜の寝る前ぐらいだ。

 ちなみにアインがその間に何をしていたのかは分からなかったのだが、竜人特有の気配が私には察知できる。竜角が一番敏感であるため、私には匂いや視覚で捉えることは出来ない。

 逆にアインの竜人としての血が覚醒したのが幸いだったのかもしれなかった。

 人の時の、つまり通常のアインだと何も感じないのだ。どこにいるのかなんてもってのほかだ。五人の竜人の中だと一番人探しには向いていないのかもしれないという笑い話。

 さてと…

 拘束したままのアインをベッドに下ろして様子を見る。血の気が多いのかと踏んでいたが、ここに来てからは暴れなくなった。例えるなら嵐の前触れのようにも思えて少しだけ警戒する。

「なぁ…?」

 竜人のアインは口を開く。

 口調がいつもと違うためになんだか変な感じがして気持ち悪い。

「なに?」

 空返事をしながら返答する。

「これ、ほどいてくれないかミーナ?」

「嫌よ、ほどいたら真っ先に私を押し倒そうとしてるもん」

「っは!当たり前じゃないか。久しぶりの外なんだ。楽しみたいことは楽しむのが世の中の理だ。お前だってそうだろミーナ?人間との俗物と相入れようと、俗世を楽しもうとしたじゃないか」

 見てきたような物言いでアインは言う。

「確かに私は……」

 楽しんでいた。人間の男の人と繋がろうとしたこともあった。だけど、そうなる前に私の隣にいた男性は殺されたのだ。同じ人間の手によってだ…

 肌身離さずに持ち続けているこの野太刀も生前の彼の物だ。

「どうだ?俺の言葉はまだ残っているんだろ?まぁ、俺も驚いたけどな。まさかソーマが人間の子供を産むなんてよ」

 “でもまぁ、そのおかげで俺はこいつに宿ったんだけどな”

 独り言をベラベラと語る竜人のアインは楽しそうに、愉快そうに、可笑しそうに、蔑むように、人と関わった私たち二人を嘲笑う。

 見ていていいものでもない。ただ、気がかりだったのはこの竜人は私たちを知っているということだ。

 ―それはつまり

「白竜……」

 ボソリとつぶやく声に白竜はにやりと笑う。

「やっと分かったか、バカな妹よ」

 自分の立場を弁えた上での発言だとしたら白竜は馬鹿だと公言したい。だけど、白竜には私たち五人姉妹の竜人の力さえ凌駕する竜人だ。

 世界を作り出した父さんの血を色濃く受け継いだ、最初で最後の長男。

 白には有無を。

 黒には軽重を。

 緑には時空を。

 銀には媒体を。

 赤には灼熱を。

 青には波動を。

 そうして私たちはこの世に生を落とした。

 しかし、生まれ持った力が強すぎたが為に、兄さんは実の父である竜神の手によって殺された。完膚なきまでに、生まれ出てきたしまったわが子自分の手で葬った時はただ泣くことしか出来なかったと、私たちは聞かされてきたが真相は父さんと兄さんの間中なので語ることは何もない。

 そもそも、私たちが生まれる前の出来事を知る由もなく、反省を踏まえたうえで父さんは力を与えたんだと思う。

「おとぎ話のようなものなのよ兄さんの存在なんて。ただ、今回分かったことは一つあったけどね?」

 白竜は興味深そうに眉を釣り上げて問いただしてくる。

「ほう?どんなこと?」

 私はうつ伏せ気味になっていた白竜の体を仰向けに転がして馬乗りになる。二重に拘束をしなければいけないなんてどれだけ警戒しているのだろうと少々自傷気味になるが。

 “再生と破壊”

 これが、白竜の能力といっていい。

 もともと父さんは自分と似たような能力を授けることによって引き継がせようとしたんだろう。でも、白竜はそうしなかった。いや、出来なかったのだろうか?

 自分で壊してまた直す。壊したら直して、また直したら壊す。都合の良い能力は衝動的な欲求として兄さんを支配した。自分管理も出来ないものには死を持って罰せられたのに、なんでまた、こうして私たちの前に出てきたのか。

 私は指の腹を噛み千切った。

 赤い液体が糸のような細さで垂れ流れていくのを白竜は不思議そうに見ている。

「それはね?」

 私の血を白竜もとい、アインの体に呪禁として書き綴る。

「兄さんがね?すごく死に損ないなんだって事」

「おい…まさか…」

 白竜は青い顔をして見上げているがもう遅い。

「竜封印!!」

 “封”と書いた私の手のひらに形として集まってくる白竜の思念体。ただアインが産まれた時から白竜が住み着いていたのなら、体を乗っ取られないように時間稼ぎをしているようなものだ。

 そのためには、速くアインを強い子にしないといけないと思いながら、頭の中でがんがんと警鐘のように喚く白竜の声を我慢する。

「畜生が、俺の計画が全て貴様のせいで壊された!」

「どうせいいじゃない。兄さん…しぶといんだから」

 鼻で笑いながら私は右腕に白竜の思念を収集させ、肩の付け根から右腕を外した。最後に断末魔を喚き散らしていき床に転がった右腕を拾う。

 今ので私の体大半が持っていかれてしまったのでどこかで補充をしなければいけないなと思いながら右腕は消却させた。

「はぁ…」

 どっと疲れが表に出てきてので私はベッドに突っ伏すように倒れ込む。

 まさか竜人のアインがあの白竜とは思ってもいなかった。それ以上に予想だにしていなかったことなのでため息しか出てこない。

 横目でアインの寝顔を眺め、ふと思う。

 ――いつになったら、私たちは幸せになれるんだろう。

 さてと。それじゃあ白竜のせいで疲れた体を癒すために補充をするとしますか。

 ベッドの上で這うように動き、可愛い寝顔をしているお坊ちゃんに狙いを定める。

 安らかな寝息を立てているアインの喉元に口元を近づけて軽く合掌し。

「それじゃあ、いただきまーす」

 こうして、私の夜食が始まった。

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