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アルタ・ダーナ ~巡る運命~  作者: 元帥
第一章~竜人との出会い~
13/99

十一

 それは、激しい雨だった。

 “ザァァァァァ”

 体を包んでいる布に雨の雫が滲んで所々冷たく感じる。周りは闇。何も見えないただ虚無感しかない暗黒。上を見上げても黒いシルエットの人が、自分を運んでいるのだとなんとなくだが分かった。

 手を見やるとすごく小さな手の平。これは自分の過去。

 まだ生まれたばかりの自分の夢を見ているのか。

 こんな昔なこと、全然覚えていないのは当たり前だけど、この黒いシルエットの人がすごく懐かしい人だとなぜか思えた。やがて僕の体は木の根元に置かれ、何かぼそぼそと黒いシルエットの女性は呟き、次には額に温かいものが触れた。

 女性は一度僕の事を振り返って見て、涙を流しながら森の奥に消えてしまう。

 ――そんな、夢を見た。

 目を覚ますとひどい臭いが鼻を貫き、あまりの激臭に気分が悪くなる。

 体を起こして部屋を見渡す。部屋は薄ぼんやりと月の光に当てられて影となって見えづらい。毎日部屋が明るい村の人たちとちがって、僕の目は夜目が効く。だから、今そこにあるのが何なのかと調べるが、見たところ原型を保っていないナニかがそこにあった。足とか腕の形が部分的にあることから、それは人なのだと理解に陥りながら部屋をキョロキョロと、見渡す。

 そういえば、なんで僕は眠っていたのだろうか?

「うっ!」

 キーンと耳鳴りと共に激しい頭痛が襲う。

 頭の中で嵐のように目まぐるしく映像が流れていく。瞬間瞬間の出来事ばかりで大半が読み取ることができなかったけれど、一つだけ分かったことがある。

「僕は・・・刺された?」

 ボロボロの服の上から自分の容体を確認したが、お腹の傷は何事も無かったかのように塞がっていた。元からそんな傷はないと知らしめんばかりに強調されている。

 人の死体の他にも気になったことは部屋の約半分を埋め尽くす巨大な生き物。ただしその生き物は、首を根元から寸断――というよりは、噛み千切られたようにも見える。

「あれ・・・そういえば、ミーナは?」

 ふと、数時間前まで一緒にいたはずの女の人がいなくなっていることに気がついた。

 竜人という、人外な人がなぜか僕を助けに来たらしいけれど、理由は分からずじまいだ。そんなミーナは先ほどまでは一緒に話をしていた筈なのに・・・この騒ぎで外に逃げたのか?

「助けに来たって言ってたくせに・・・」

 死体を横切りながら家の外に出ると、いつもと同じ風景、同じ道の筈だった。なぜ“筈”等と曖昧な答えが過ぎったのか。外に出た瞬間、肌を撫でた空気がいつもより違いすぎたからだ。

 じめっとしているのに、どこか乾いているという矛盾。無風な世界は音を聞き取ることすらも出来ず、恐怖感を煽る。

ここは一体何処なのだろうか。

「ミーナ?ミーナ!?」

森の中で自分の声が反響する。波のように跳ね返ってくる自分の声がいろいろな方向から返ってきて、この世界にいるのは僕一人なのだと感じた。怖くなった僕はとにかく走った。村に行けば誰かがいると思い、そんなに走ったことがなかった僕でも風のように走っているのだと勘違いしてしまいそうだ。

 会いたい。会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい!!

 誰でもいい、人に会いたい。自分がどれだけ嫌われているからといって嫌悪されてもいい。誰かに合わないと精神が壊れてしまいそうだ。

 森の道を抜け、村の公園の広場に出てくる。やはりここにも人の気配はない。

 なんておかしな世界だ。夢なのか?

「痛い・・・」

 自分の頬を強くつねってみるけど夢から覚めた感覚はない。痛みは現実で、頬はヒリヒリと訴える。

 やがて雲から月の光が顔を覗かせた。

「今日は・・・いい月だなぁ」

 ぼそりと呟く。空を眺めるとまん丸なお月様がこの世界を照らしている。まるで太陽と同じくらい明るく、注いでくる月光は体の靄を浄化してくれる。

 僕の足は勝手に歩き出し、村一番の噴水の広場にやって来た。

 ここにも誰一人として村の住人はいない。だが、村の住人はいなかったけれど一人の女性が空を見上げていた。その姿は静止画として収めてもいいくらいに綺麗で、幻想的だった。

 女性はこちらに気がついたのか、顔を僕に向けてきた。

「おはようアイン」

 にこやかに笑う女性は両手を広げる。その動作はまるで世界を見せているようにも思えた。

「あなたは感じた?この村には人がいないって」

 確信的な問いから入ったミーナは、目覚めてから疑問に思っていた問題の答えを既に知っていると言わんばかりだった。

「うん・・・なんで村の人はいないの?」

 だから僕は何故なのかを聞いた。でも・・・答えはなんとなくだけど分かっている。今目の前にいる女の人がこの村の人を消したのだと。だが、それよりも気がかりなのは、僕の家にいた死骸は形として残っているのに何故この村には死が痕跡としてないのかだ。

 血痕が疎らに残ってるぐらいだったらまだ良い。しかし、この噴水に来るまでは血痕すら一つもなく、生き物がいないだけの村だ。

 ところがどうだろう?村には死が蔓延している。雰囲気が、空気そのものが死んでるのだ。感じたのは目が覚めた時に人の死体を見た時からだ。死んでいる村に生きている人間がいたらそれはそれで例外なのだが。

「全員私が食べたからよ。あんまり美味しくもなかったけどね」

 衝撃の事実のはずなのに、その答えはあまりにも分かりきっていた答えだ。問いを投げた僕の質問自体が馬鹿らしくなってくる答えにはただ黙殺するだけになる。

「驚かないんだねアインは」

「うん、なんか・・・分かってたから」

「そっか。それじゃあさ」

 ミーナは言葉を切って両手を自分の腰に宛てて立つと。

「貴方を脅かす人たちは全員居なくなって、貴方を縛り付けていたこの村も無くなった。それを踏まえて聞くね?」

 僕は頷き、ミーナはそれを確認すると口を開く。

「あなたはこれから何をしたい?」

 答えられなかった。答えることが出来なかった。このアーク村が僕を縛り付けていたとしても、自分の命をつなぎとめてくれていたのはこの村だ。

 何度も酷いことをされてきた、強姦もされてきた。でも・・・それでも僕は懸命に生きてきた。

 だからミーナの質問はすごく意地悪だ。

「わからない・・・・わからないよ。僕が今、何をしたいかなんてわからないよ・・・」

 ミーナは僕の答えをわかりきっていたかのようにクスリと笑うと。

「だったらさ?私と一緒に来る?」

 ミーナはそう言って、僕に手のひらを差し出してくる。

「えっ?」

「まぁ、拒否権はないんだけどね?言ったでしょ?私はもともとこの村からアインを連れ出すことなんだって。私はアインが独り立ちを出来るまで一緒にいてあげる。家族になってあげる。何がしたいかなんて、外の世界を知ってから決めればいいじゃない」

「あ・・・・」

 ふわりと、ミーナは僕の体を優しく抱きしめてくれた。その暖かさも、家族といってくれたミーナの言葉が何よりも嬉しかった。

自分の頬には知らないうちに流れてくる涙。

 ああ――なんだ、僕はこんなにも、感情があったんだ。

 満月の下、僕は初めて世界を知ることになる。そして、これから世界を知ることになる。目的も何もないのに外に出ていいのだろうかと不安にもなる。でも、ミーナの言ったとおり、徐々に自分のやりたいことを見つけていこう。

 僕はミーナの抱擁を返すように強く抱き返し耳元で囁く。


“これからよろしくね、ミーナ”



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