表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/6

再構築

 僕は、朱く染まった廊下を歩いている。

 ここは……?

 蛍光灯は切れているのか、光を発していない。

 進む足が鳴らすリノリウムの床は、かつかつと音を発している。

 ……そうだ。ここは、学校。

 僕は……ここの教師。

 ……ああ、何も変わらない。何も問題は無い。

 「まったく、まだ二十歳なのに更年期障害か」

 はあ、と溜息を吐く。

 「……おっと」

 通り過ぎるところだった。

 頭上のプレートには、『保健室』の文字。

 「失礼します」

 ドアを開けて、中へ入る。

 どこか、薬品臭い部屋だ。やはり、夕焼けが目に染みる。

 白いカーテンに、白い薬品棚。ついでに部屋の主までもが白いはずなのに、朱い。

 本来、白で塗りつぶされてい るはずの部屋なのに、何故こうにも朱が目立つのか。

 ……簡単だ。単に、白は弱い。

 白は、すぐに消える。風に舞い、空へ消える天使の羽のように。

 故に、この世界には――。

 「やあ、おはよう貴礼」

 「こんばんわ、奈月先生」

 黒い縁の眼鏡。明るい茶色に染めたショートヘア。纏うは白衣。

 この部屋の主、奈月風花なつきふうかその人だ。

 保険医だというのに、その口にはキセルが咥えられている。

 ぽっ、と側に紫煙を吐き出して彼女は席を勧めてきた。

 それに甘えて、座らせてもらう。

 「あなたも一服すればいいわ」

 「そうさせてもらいます、奈月先生」

 これが目的で来たも同然なのだから、断る理由など無い。

 ポケットから、今朝買 ったばかりのタバコを取り出す。

 とんとん、と底を叩いて一本取り出し、先端部に火を点けた。

 「で、調子はどう?」

 「調子……ですか?」

 ええ、と彼女は頷く。

 こういう風に、こちらが話さなくても話題を振ってくれるというのは実にありがたいことだ。

 彼女のような人間がいてくれるが故に、僕のようにコミュニケーションが苦手な人間でも社会にに溶け込むことが出来るのだから。

 「高宮と波多野が、やっぱり手強いですね」

 「高宮?波多野?」

 不思議そうな目をこちらに向ける奈月先生。

 彼らのことは、ここの保険医なんだから知っているはずなんだが。

 「ええ、うちのクラスの問題児の双頭です。ご存知ありませんでしたか?」

 一応、補足する。これで、思い出してくれればいいが。

 「……ええ、知ってるわよ。高宮君に波多野君。こんな辺境の地でも耳に入るもの」

 ……ああ、よかった。会話を間違えたかと思った。 

 「白野みたいに優秀な生徒だけなら、教師としてもありがたいんですけどね……」

 「……白野さん、ね。白野典子しらののりこさんのことよね?」

 「ええ、そうですよ。天使みたいな女の子です」 

 今日の彼女は、少し疲れているのだろうか。この学校に白野という苗字は一人しかいない。

 しかも病弱だから、よくここを訪れているはずなのだ。

 「――あなた、教師よね?で、私は保険医」

 ……また、当たり前のことを訊く。

 「そうですよ、奈月先生。僕は新任ですけど、奈月先生は五年ほどここに勤めていらっしゃったはずで すよね?」

 彼女は、「そうだったわね」と素っ気無い返事を僕に返すと、椅子をくるりと反転させて、ペンを取った。

 「そこでゆっくりしていて。他の生徒さんのカルテを書かなくちゃいけないの。急ぐから、少しだけ待ってて」

 「いえいえ、邪魔するわけにもいきませんし」

 そろそろ、煙草も四分の一ほどが灰に変わる。

 手持ちの携帯灰皿に灰を落とし、煙草を握りつぶして席を立つ。

 「あらそう。……あ、日誌、忘れずにね」

 「わかってますよ。……では」

 扉を閉める。

 部屋の中から、はふう、と溜息が聞こえた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ