-第五章- 俺、何気にファンだったんだけど
さてとー……あの窮屈な学院からは脱出したわけだし、とりあえず寝ますかっ!!
「おい、君。私を差し置いて寝ようとはなんという失態だ?」
水哉女王様。いい加減に寝させろやコノヤロー。
「女王様…?それはどういう意味だ。私は女王ではないのだが?」
あれ、コノヤローって方には反応しないんだ。……ま、いっか。
俺らは現在、だだっ広い学院のキャンパスを歩いている。そこからしばらく歩けば駐車場に着くらしいが、いっこうに着かないのが現状だ。水哉の言う『しばらく』が信用ならない。
「……着いたぞ」
水哉がそう言ったのは、それから十分程経った後だった。……って広くね!?これ駐車場かよ!!?
「ん?駐車場とはこういうものを指すのではないのか?」
こいつの価値観、オカシイんじゃないか?だってこの駐車場、だだっ広いどころか彫刻とか噴水とかがあるし。宮廷とかにありそうな庭園に見えるし。
「庭園?庭がこんなにちんけな訳があるまい」
……ダメだこいつ。
「…まあいい。確かに一般的な価値観というのは…私には理解できないしな」
そう言った彼女の言葉は、いつもより歯切れの悪く聞こえた。平凡な暮らしより、彼女のような暮らしの方が良いに決まっているのに。
「うわっ…!?」
水哉が珍しく声を上げた時、突然、俺らの視界がブレた。
「貴様、何をするっ!!!」
必死で足掻くが、温室育ちのお嬢様が相手の力に敵う訳もない。
「チッ……。おい、翔!!私と代われ!!!!」
初めて名前で呼ばれた!!?
「早くっ!!!!」
っはい!!!!!
「……柔道三段&空手二段の腕、ナメんなよな…!!」
とにかく、相手から逃れる事が先決だぞ。それが賢明のようだしな。このような時、殆どの場合は仲間がいるだろう。
「はいはい……ま、戦う場じゃ基本だしな。自分より相手が強いと見定めたら迷わず逃げるべし…と。んじゃ…いくぜっ!!」
身体が軽い。胸がある分重心がいつもと違う。難しい。
「っらぁ!!!!!」
よし、抜けたっ!!蹴り一発でKOとは…流石だな。
「おっしゃあっ!!さっさと逃げるぜ!!!」
車か何かで追ってくるやも知れん。山に逃げるぞ。
「おう!!……ってあれ?なんで俺が走ってんの?」
当然の事だろう?何故に疑問にもつ必要がある?
「いやいやいやいや……普通疑問にもつよな?」
君はそれが役目だろう?
「あ、そっか……じゃねぇよ!!!!!」
とか言っていると…ほら、聞こえるだろう?このエンジン音。
振り向くと、そこには数台の車があった。どれも黒塗りで、ナンバープレートが剥がされている。
「ってこれ、あからさまにヤバくねぇか!!?」
だろうな。恐らく、私を人質にして身代金を要求しようとでもいうのだろうな。
「なるほど……。っつーかお前さ、走んねぇならナレーションやれよ。読者さんらが困るだろ?なにやってんのこいつらー?とか呟いてんだろうしさ…な?」
何故私がそんなことをせねばならない?第一、今逃げているという現状に変わりはないのだぞ?それに、きっと彼等も分かるだろう?この状況は逃げている以外の何物でもない、とな。もっとも、君のような馬鹿には理解し得ないだろうがな。ついでに言うと、こんな小説を読もうというのは相当の暇人だけだろうしな。
「うわ、なんだその毒舌のオンパレード……。俺どころか読者さんにも飛び火してんぞ?っつーか作者も含めて被害被ってんだぞ!?」
五月蝿いな、君。君への飛び火はどうでも良いだろう?
「お前の機関銃並みな毒舌攻撃よりマシだろ。それにどうでも良くねぇよ」
………。
「あれ?なんで沈黙?」
……くぅ…。
「って寝てるんかいっ!!!」
…ぅあ……?うー……あー………私の安眠を妨害するにゃぁ…………。
「……寝ぼけてる…」
山…着いたら知らせて……私の隠れ家………案内す……る…。
「分かったけど……もう着いたぜ?」
う…?
「山に着いたんだけど?」
むー……山…?
「うん、山」
…?なんで山にいるの…?
「……大丈夫か?」
……………もうちょっと寝るの……。
「………………うんそっか」
うん、おやすみー………。
「ってのは困るんだよ馬鹿!!!!!!」
…………あ?…ああ、なんだ……君か。
「目、覚めたか?」
ああ……最近、寝ていなかったものでな。君のいる場を創るのに、無駄に時間が掛かってしまった。
「そっか…ありがとな」
だから、せいぜい私に尽くすんだな。
「うーん……それはちょいお断りかもな」
で、だ。この山道を真っ直ぐ進んでくれ。
「真っ直ぐなー…」
そこを左……じゃない、右。
「右ー…」
…………そこの左っ!!
「左っ!!」
痛いっ!!?
「あ、ごめん…樹にぶち当たっちゃってさ」
…おお。これだ、これ。
「確かに、梯子みたいなロープあるな……」
それを伝って登れ。上にツリーハウスがある。
「……それってあれじゃね?マ○ックツリーハウス的な?映画化したあれじゃん。俺、何気にファンだったんだけど」
そうか。では実体験してこい。
「おうっ!!なんかヤル気出てきたぜ!!!」
この時間に投稿…私的には珍しいんですが、不健康なのは良くないですね。ちょっと反省。
早寝早起き。これ何気に大事ですよ!!
というわけで、今回も読んでくださった方や初めましての方、ありがとうございましたっ!!!