Third chapter 2.大きな剣を持つ男
通りで殺人事件が起こる少し前の事である。一人の男が『ガーディアン』に拘束され本部まで連行されてきた。男は大きな剣を持っていた。立派な銃刀法違反である。
「どうして、こんな大きな獲物をもっているのかな?」
男は答えようとしない。それどころか、口も開かない。
「君はこの街の人間ではないよね。」
沈黙は続けられる。男に対して職務質問をしていた『ガーディアン』の男は大きくため息をついた。
「こいつを拘束しておいてくれ。」
男は小さな小部屋に案内された。優しそうな『ガーディアン』の男は小声で言った。
「すまんな、これがこの街の約束事で。手荒なまねはしたくないからここでおとなしくしててくれよ。後でクッキーでも持ってくるからさ。」
素直に小部屋に入るとそこにあった椅子に腰かけた。持っていた大きな剣は『ガーディアン』の保管庫にでも入れられてしまったようだ。
別に手足を縛られているわけでもなかったが、何もしようがないので動かなかった。小部屋は白く塗られてあり、小さな小窓が一つ鉄格子の向こうにあった。それ以外は外の様子を知る手掛かりとなるようなものはなく、いかにも、牢屋って感じで、客人に向けられた作りにはなっていない。
名はロキと言った。大きな剣の話はまたいずれするとして、とりあえず今は名前だけ。
『ガーディアン』の内部がやけに騒がしくなった。かろうじて聞こえる声を一つ一つ拾って組み立てて見る。
何やら、人が殺された。と、言っているようだ。詳しい事は分からないが、ただ事ではないことは何となく予想はつく。血相変えてあわてているものの声がする。
ロキは混乱に乗じて小部屋から脱出を試みた。もちろん、部屋にかぎは掛けられており、正攻法では出られそうにもない。
「使いたくなかったけど、仕方ないか。」
懐から少量の火薬、それからライターを取り出した。更に呪術で使われる布を下に広げると、火薬をその模様に沿って広げ始めた。
「さて、と。」
ライターで火をつける。火は火薬の上を燃え広がり、一気に呪術紋章を作り上げた。パチパチという音を立てながら、布は燃えていく。紋章が完成した時、風が吹く。
「何か用?」
ロキは風の精霊シルフを召喚することに成功した。大きさはロキの半分くらい、ぼろぼろの服にぼろぼろの帽子。ふわふわと浮かんでいる。
「あの、ここから出して欲しいんだけど。」
「そういう事はもっと力持ちの精霊に頼んでくれない?」
「もしかして、出来ないの?」
「僕に出来ない事なんてないよ。みてて。」
シルフが指をさすと、ドアが自然と開いた。風で鍵穴を通したのだ。
「えっへん、どんなもんだい!!」
その言葉も聞かず、紋章を足で消してその部屋を去った。