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First chapter 1.背中にあざのある男
男は、脇のにおいをかぐ事が好きだった。好きだったというより、むしろ、やらずにはいられなくなっていた。いわば、一つの癖になっていた。男がそれを望まなくともいつのまにかその匂いで居心地を良く感じている。そんな感じだ。
考えた事はある。「どうして、そんな事をするのか。」
結局わからなかった。
何度だって考えた。それでも、分からなかった。人に聞こうにも内容が内容だけに、それはやりたくなかった。
男にはあざがあった。背中に大きなあざ。背中の左の中央辺り。なんだかコーヒーをこぼしたような形で大きさはB5の紙一枚で覆い尽くせる程度。
男がこのあざの存在を知ったのは、友人と一緒に風呂を共にした時だった。無性に背中がかゆくなったかと思うと友人は男の背中を指差して叫びだした。
男は見ようにも見れず、結局かゆみの引いた後、大鏡で確認した。なるほど、確かにあざのようなものがある。かゆみを伴うという事は一種の病気か。しかし、そのあと何の変化もない。