『空中回廊の街』
『じじばばにゃんこと異世界奇譚』
第一部『レヴァナスタシア』
翌朝。
オルグディアは、
今日も忙しなかった。
巨大魔導鐘が鳴り、
街中の浮遊回廊へ人が流れ込んでいく。
学生。
研究員。
技師。
荷運び用ゴーレム。
全部が、
朝から動き続けていた。
フィルニアが、
宿窓から外を見る。
「この街、
全然寝てなくねぇか?」
タマが、
眠そうに答える。
「夜中もなんか飛んでたしな……」
実際。
深夜でも、
空中輸送路の光が止まらなかった。
魔導都市そのものが、
常時稼働している感じだった。
⸻
朝食後。
リシェルが、
一行を迎えに来た。
今日案内されるのは、
図書院外部区域らしい。
フィルニアが、
少し嬉しそうになる。
「今日は本じゃねぇのか」
「半分は」
「半分あるのかよ」
リシェルは、
平然としていた。
⸻
まず案内されたのは、
中央浮遊回廊。
都市上層同士を繋ぐ、
巨大空中通路だった。
しかも。
下が見える。
遥か下層まで、
全部吹き抜け。
ユキが、
端を見下ろして固まる。
「高……」
フィルニアは、
普通に手すりへ乗った。
タマが、
即座に引っ張る。
「落ちんな!」
「落ちねぇよ!」
「信用ねぇんだよ!」
⸻
空中回廊には、
大量の店が並んでいた。
魔導工具店。
浮遊機械店。
古書店。
魔導菓子店。
しかも。
普通の商品説明が難しい。
フィルニアが、
光る球体を指差す。
「なんだコレ」
店員が答える。
「簡易記憶保存装置です」
「つまり?」
「忘れたくない記憶を保存できます」
フィルニアが、
真顔になる。
「怖」
タマも、
ちょっと引いていた。
「倫理観どうなってんだこの国」
⸻
ユキは、
別の店へ吸い寄せられていた。
透明なガラス瓶。
中で、
小さな光が漂っている。
「綺麗……」
店員が、
優しく説明する。
「記憶灯ですよ」
「人の思い出へ反応して、
色が変わるんです」
ユキが、
そっと覗き込む。
淡い水色へ変わった。
ミツコが、
隣で微笑む。
「優しい色やねぇ」
ユキが、
少し照れたように笑った。
⸻
その頃。
トシオは、
別方向で騒ぎになっていた。
原因。
橋。
正確には。
空中回廊補修用の巨大鉄柱だった。
技師達が、
運搬に苦戦している。
「浮遊制御が足りない!」
「下層へ落ちるぞ!!」
その横で。
トシオが、
普通に持ち上げた。
片手で。
技師達停止。
「……え?」
「浮遊術式無し?」
「筋力だけ?」
「怖……」
トシオは、
普通に聞く。
「どこ置く」
技師達が、
若干敬語になった。
⸻
昼前。
リシェルは、
一行を研究街区へ案内した。
そこは、
さらに異様だった。
巨大魔導装置。
浮遊球体。
自動筆記機。
空中演算陣。
全部動いている。
しかも。
建物内部から、
時々爆発音がする。
ボォン!!
フィルニアが、
即振り向く。
「また爆発したぞ!?」
研究員が、
普通に答える。
「成功率は上がってます」
「今ので!?」
⸻
研究街区中央。
そこには。
巨大な円盤状装置があった。
何十人もの研究員が、
周囲で作業している。
ユキが、
見上げる。
「これなに?」
リシェルが、
静かに答える。
「境界観測機です」
タマが、
嫌な顔になる。
「また境界か」
「現在、
オルグディア最大研究対象です」
装置中央には、
青白い光が揺れていた。
まるで。
空間そのものが液体化してるみたいだった。
ミーコが、
わずかに目を細める。
「……近い」
リシェルが、
少し驚く。
「分かるんですか?」
「境界の匂いがする」
研究員達が、
一斉にミーコを見る。
「匂い?」
「感知型?」
「王族系統か?」
フィルニアが、
小声で言う。
「学者の反応怖ぇ」
⸻
その後。
一行は、
研究街区食堂へ入った。
これも普通じゃない。
料理が、
自動搬送されて来る。
しかも。
浮いてる。
フィルニアが、
完全に警戒していた。
「……信用していいのかコレ」
「落ちません」
「今“たぶん”って顔しただろ」
「してません」
リシェルは、
無表情だった。
⸻
食堂では、
他種族も多かった。
鳥人族。
森精族。
海霊族。
様々な研究者が居る。
ユキは、
翼持ちの鳥人族を見ていた。
「ほんとに飛べるんだ……」
鳥人族研究者が、
少し笑う。
「君達も珍しい組み合わせだね」
「竜人、
獣人、
人族、
魔導都市観光?」
フィルニアが、
即答する。
「冒険中だ!」
タマが、
小声で言う。
「ざっくり過ぎる」
⸻
午後。
リシェルは、
再び図書院へ戻ると言った。
だが。
今回は地下だった。
階段を降りる。
かなり深い。
ユキが、
少し不安そうになる。
「まだ下あるの……?」
「あります」
「どこまで?」
「かなり」
「怖いよこの図書館」
⸻
地下区域は、
上層と全然違った。
静か過ぎる。
しかも。
本棚ではなく、
石碑が並んでいる。
巨大石板。
古代文字。
魔法陣。
ミーコが、
小さく息を止めた。
「……古い」
リシェルが、
静かに頷く。
「始まりの民時代の記録です」
タマが、
周囲を見る。
「紙じゃ残ってねぇのか?」
「古過ぎて、
大半消失しました」
「なので、
石刻化された物だけ残っています」
ユキは、
巨大石碑を見上げる。
そこには。
空へ伸びる巨大門が描かれていた。
そして。
周囲に七つの紋章。
獣。
竜。
森。
鳥。
海。
魔導。
巨人。
全部あった。
ミーコが、
静かに呟く。
「七種族……」
リシェルが、
石碑へ触れる。
「この時代は、
まだ分断前だったと言われています」
フィルニアが、
腕を組む。
「つまり昔は仲良かったのか」
「少なくとも、
今より交流はあったようです」
⸻
その時。
ユキが、
別の石碑で止まった。
そこには。
巨大な黒い円が描かれていた。
真ん中だけ、
完全に削られている。
ユキが、
少し不安そうに聞く。
「これなに……?」
リシェルが、
珍しく少し黙った。
やがて。
静かに答える。
「名称不明です」
「記録では、
“閉じる者”に関係するとされています」
ミツコが、
ゆっくり石碑を見る。
「消されてるんやねぇ」
「はい」
リシェルは、
削られた中心部を見つめた。
「意図的です」
「しかも、
かなり古い」
ユキが、
小さくミーコを見る。
ミーコも、
黒円を見つめていた。
その瞳が、
少しだけ険しい。
⸻
帰り道。
空中回廊から、
夕焼けが見えていた。
オレンジ色。
巨大都市全体が、
光っている。
フィルニアは、
手すりへ寄り掛かる。
「この街、
変なとこだな」
タマが、
苦笑する。
「今更か」
「だってよ」
フィルニアは、
都市中央白塔を見る。
「あんな派手なのに、
みんな妙に静かじゃねぇか」
その言葉に。
リシェルが、
少しだけ空を見る。
「……考え続けてるからです」
「この国は」
「世界が、
どう壊れていくのかを」




