『夜空列車ルミア』
『じじばばにゃんこと異世界奇譚』
第一部『レヴァナスタシア』
クロノヴァを出発した夜。
星海横断列車は、
いつもより静かに走っていた。
窓の外には、
無数の光の線。
細い線路が、
空中を幾重にも走っている。
上へ。
下へ。
遠くへ。
まるで。
星空そのものへ、
レールを敷いたみたいだった。
ユキが、
窓へ張り付く。
「すごぉ……」
ミーコも、
静かに外を見ていた。
星海の中を、
別の列車が横切っていく。
蒸気列車。
透明な車両。
巨大貨物列車。
色んな列車が、
別々の場所へ向かっていた。
タマが、
コーヒーを飲みながら呟く。
「完全に交通網だな」
フィルニアは、
座席へ転がったまま片目を開ける。
「こんだけ列車あんの初めて見た」
その時。
車内アナウンスが響く。
『まもなく、
夜空接続駅ルミア到着』
『停車時間、
十時間』
ミツコが、
小さく首を傾げる。
「接続駅?」
トシオが、
窓の外を見る。
「旅人集まる場所なんやろな」
⸻
到着した瞬間。
全員、
少し止まった。
広かった。
ホームの数が異常。
無数の線路が、
空中へ伸びている。
しかも。
全部光っていた。
青。
金。
白。
紫。
列車が通る度、
線路色まで変わる。
ユキが、
完全に目を輝かせていた。
「きれい……!」
ルミアは、
“駅だけの街”だった。
巨大ホーム群。
空中改札。
星灯回廊。
駅舎そのものが、
ひとつの都市になっている。
しかも。
旅人だらけ。
商人。
楽師。
学者。
冒険者。
色んな種族が行き交っている。
騒がしい。
でも。
嫌な騒がしさじゃない。
“出発前の空気”だった。
その時。
横から、
猛烈な勢いで台車が突っ込んできた。
「すみませぇぇぇん!!」
ガシャァァン!!
荷物崩壊。
大量の切符が舞う。
全員止まる。
倒れていたのは、
狐獣人の少女だった。
黒髪ポニーテール。
駅員帽。
作業服。
年齢は二十歳前後。
しかも。
切符を抱えたまま、
床へ突っ伏している。
フィルニアが、
真顔で聞く。
「生きてる?」
少女が、
勢いよく顔を上げた。
「生きてます!!」
元気だった。
彼女は、
慌てて切符を集め始める。
ユキも、
しゃがんで手伝った。
「はい!」
「ありがとー!!」
少女は、
ぺこぺこ頭を下げる。
「私はスズ!」
「夜間案内員です!」
「ようこそルミアへ!」
⸻
スズは、
とにかく忙しい人だった。
走る。
喋る。
転ぶ。
また走る。
タマが、
少し呆れ顔になる。
「よく仕事回ってんな……」
「気合いです!!」
「根性論だった」
ルミアでは、
“旅”そのものが文化だった。
各ホームごとに、
行き先が違う。
雪原方面。
砂海方面。
空中遺跡方面。
深海都市方面。
しかも。
ホーム毎に、
空気まで違った。
賑やかな場所。
静かな場所。
軍人だらけの路線。
学者ばかりの路線。
まるで。
世界中が、
ここへ集まってるみたいだった。
ミーコは、
少し古い線路を見ていた。
他より暗い。
錆びている。
その先は、
黒い霧へ消えていた。
スズが、
少しだけ声を落とす。
「昔の境界路線です」
「今は閉鎖されてます」
タマが、
眉をひそめる。
「危険なのか?」
「……帰って来ない列車が増えたんです」
その瞬間だけ。
ルミアの空気が、
少し冷えた気がした。
だが。
スズは、
すぐ明るく笑い直す。
「でも今は大丈夫!」
「安全路線だけ動いてますから!」
⸻
昼頃。
一行は、
中央駅市場へ来ていた。
凄かった。
世界中の物がある。
異国料理。
謎工具。
観測器具。
星海地図。
古い切符。
見てるだけで楽しい。
フィルニアは、
当然食べ歩きしていた。
肉串。
星魚焼き。
巨大饅頭。
タマが呆れる。
「胃袋四次元か?」
「旅はカロリー勝負だ」
「その理論まだ使うのか」
ユキは、
ガラス細工屋で止まっていた。
列車型ランタン。
小さな発車ベル。
星灯模型。
全部光っている。
店番のおじいさんが、
優しく笑う。
「旅の記念にどうだい?」
ユキが、
少し迷った顔をする。
その横で。
ミツコが、
小さな星灯ランタンを手に取った。
青い光。
柔らかい灯り。
「ユキ、
これ似合いそうやねぇ」
ユキが、
ぱっと笑顔になる。
「ほんと!?」
その姿を見ながら。
ミーコは、
少しだけ目を細めた。
⸻
午後。
スズは、
特別展望ホームへ案内してくれた。
一般旅客は入れない場所らしい。
そこから見える景色は、
圧巻だった。
無数の線路。
星海を走る列車。
遠くの停車駅。
発車する光。
到着する光。
全部が、
夜空へ繋がっている。
ユキが、
小さく呟く。
「いっぱい旅してるんだね……」
スズが、
少し笑う。
「毎日、
誰かが来て」
「毎日、
誰かが旅立つんです」
風が吹く。
遠くで、
汽笛が鳴った。
ボォォォ――――……
トシオが、
静かに空を見る。
「別れも多そうやな」
スズは、
少しだけ考えてから頷いた。
「はい」
「でも、
また会う人も多いです」
「だからルミア、
嫌いじゃないんです」
ミツコが、
優しく笑った。
「ええ場所やねぇ」
⸻
夕方。
ルミアの景色が、
一気に変わった。
駅灯が消える。
次の瞬間。
星灯が点いた。
柔らかい青光。
線路まで光り始める。
しかも。
全列車の窓灯も変わっていた。
まるで。
空に、
星が増えたみたいだった。
ユキが、
完全に見入っている。
「……すごい」
フィルニアですら、
少し静かだった。
「なんか、
綺麗だな」
タマが、
少し笑う。
「素直かよ」
「たまにはな」
ホームでは、
次々列車が出発していく。
旅人達が、
笑って手を振る。
泣いている人も居る。
でも。
どこか前向きだった。
ルミアは、
“終わりの駅”じゃない。
“次へ行く駅”だった。
⸻
夜。
発車時刻。
スズが、
ホームまで見送りに来ていた。
相変わらず忙しそう。
でも。
ちゃんと笑っている。
「また来てくださいね!」
フィルニアが、
即答する。
「飯うまかった!」
「感想そこですか!?」
タマが吹き出した。
ユキは、
新しい星灯ランタンを抱えていた。
嬉しそう。
ミツコも、
その姿を優しく見ている。
汽笛が鳴る。
ボォォォ――――……
列車が、
ゆっくり動き出す。
その瞬間。
周囲のホームから、
色んな列車の汽笛が重なった。
長距離列車。
夜行列車。
貨物列車。
全部の音が、
夜空へ響いていく。
まるで。
旅立ちを見送っているみたいだった。
ユキが、
窓から大きく手を振る。
スズも、
全力で振り返していた。
星灯駅ルミア。
そこは。
世界中の旅が交差する、
夜空の停車駅だった。




