表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/153

竜王の使者…

『じじばばにゃんこと異世界奇譚』


第一部『レヴァナスタシア』






ガルディア砦の朝は、

いつもより慌ただしかった。


飛竜達の鳴き声。


兵士達の怒号。


鍛錬場から響く金属音。


だがその空気の奥には、

どこか張り詰めたものが混ざっていた。


昨夜の集会鐘。


老竜人による“始まりの民”の宣言。


そして、

空へ現れ始めた黒い異変。


兵士達は平静を装っている。


だが。


不安は確実に広がっていた。


そんな中。


ガルディア砦の食堂だけは、

妙に平和だった。


「おかわり!!」


フィルニアが木椀を掲げる。


朝から三杯目だった。


タマが呆れる。


「朝から食いすぎじゃない?」


「成長期なんだよ俺様は!!」


「昨日も聞いたそれ」


ミツコは笑いながら、

炊き立ての米をよそう。


「いっぱい食べんとねぇ」


その横では。


トシオが焼き魚をほぐしていた。


炭火で焼かれた川魚。


香ばしい匂いが広がる。


竜人兵達が、

ちらちらこちらを見ていた。


完全に食堂へ通うようになっている。


「……あの白いの何だ」


「米らしいぞ」


「うまいのか?」


「知らん……」


こそこそ話す兵士達へ、

ミツコが笑顔を向けた。


「食べる?」


数秒後。


「「「お願いします!!」」」


即落ちだった。


タマが吹き出す。


「竜人族ちょろくない?」


「飯は正義だ」


フィルニアが真顔で頷く。


グランヴェルは、

深くため息をついた。


「お前は少し王女らしくしろ」


「腹減るだろ」


「そういう問題じゃない」


だが。


どこか呆れきれない。


それを見ていたミーコは、

少しだけ微笑んでいた。


最初は恐ろしかった。


竜人族。


戦いの種族。


だが今は違う。


笑う。


食べる。


騒ぐ。


自分達と変わらない。


そんな空気が、

少し嬉しかった。


その時だった。


──ゴォォォォォッ!!


突然。


外から、

飛竜の咆哮が響いた。


兵士達が一斉に立ち上がる。


グランヴェルも即座に表情を変えた。


「敵襲か!?」


だが。


次の瞬間。


見張り兵の叫びが響く。


「伝令飛竜!!

帝都からです!!」


空気が変わる。


グランヴェルが眉をひそめた。


「……早いな」


フィルニアが、

露骨に嫌そうな顔をする。


「あー……

絶対面倒なやつだ」


「お前は少し黙っていろ」


「なんでだよ叔父貴」


外では。


巨大な飛竜が、

砦中央へ降下してきていた。


漆黒の鱗。


赤い装甲。


帝国紋章。


そして。


その背に立つ一人の男。


銀の長髪。


黒い角。


細身。


だが。


異様な威圧感を纏っていた。


兵士達が一斉に膝をつく。


「帝都親衛隊!!」


「白銀騎士団だ!!」


男は、

ゆっくり飛竜から降り立った。


冷たい目。


鋭い顔立ち。


感情が見えない。


だが。


フィルニアだけは、

嫌そうに顔をしかめた。


「うわ……

セレスかよ」


男――

セレス=ヴァルグレイドは、

静かに一礼した。


「グランヴェル守護将閣下」


「セレスか。

竜王陛下からの使いだな」


「はい」


短いやり取り。


だが。


空気は重かった。


セレスの視線が、

ゆっくり周囲を見る。


そして。


トシオ達で止まった。


沈黙。


兵士達の空気が張り詰める。


セレスは、

静かに目を細めた。


「……なるほど」


その瞬間。


フィルニアが、

ずいっと前へ出る。


「おいセレス。

変な空気出すな」


「第二王女殿下」


「俺様は今飯食ってんだよ」


「そうですか」


「無視すんな!!」


タマが肩を震わせていた。


「この人達、

会話の温度差すごいな……」


セレスは、

再びトシオ達を見る。


特に。


トシオを。


まるで、

何かを測るように。


その視線へ、

トシオは普通に返した。


「飯食うか?」


沈黙。


周囲が凍る。


カリヴァが頭を抱えた。


「あはは……

もう慣れましたけどね私は……」


セレスは、

数秒黙った後。


「……頂きます」


座った。


即落ちだった。


フィルニアが吹き出す。


「お前も落ちるの早っ!!」


ミツコは、

にこにこしながら椀を差し出した。


「今日は焼き魚もあるよぉ」


「……魚?」


セレスが僅かに反応する。


フィルニアがニヤニヤした。


「こいつ魚好きなんだよ」


「余計な事を」


「図星だな?」


珍しく。


セレスの眉が動く。


その様子へ、

周囲の兵士達がざわついていた。


「おい……

セレス隊長が普通に座ってるぞ……」


「信じられん……」


白銀騎士団。


帝都最強。


その副団長。


氷みたいな男。


それが今。


普通に朝飯を食っていた。


しかも。


「……うまい」


小さく呟いた。


フィルニアが爆笑する。


「落ちたな」


「黙って下さい」


「顔赤いぞ」


「気のせいです」


タマが吹き出した。


グランヴェルは、

深くため息をつく。


だが。


どこか空気が緩み始めていた。


その時だった。


セレスが、

静かに口を開く。


「陛下より勅命です」


空気が止まる。


食堂が静まり返った。


セレスは、

真っ直ぐトシオを見る。


「始まりの民を、

帝都ヴァルグランへ招け」


その言葉。


兵士達の顔色が変わる。


グランヴェルが目を細めた。


フィルニアは、

少しだけ真顔になる。


ミーコは、

静かに息を呑んだ。


ついに。


竜王が動いた。


セレスは続ける。


「世界の異変について、

竜王陛下自ら会談を望まれています」


静かな声。


だが。


その重みは、

誰にでも分かった。


トシオは、

焼き魚を食べながら答える。


「遠いか?」


全員がズッコケそうになる。


セレスですら、

一瞬固まった。


「……馬で五日ほどです」


「遠いのぉ」


「そこ!?」


タマが叫ぶ。


ミツコは、

少し困った顔をした。


「お魚持ってけるかねぇ」


「そこ心配なんですか!?」


食堂に笑いが漏れる。


だが。


その笑いの奥で。


セレスだけは、

静かに考えていた。


この二人。


本当に。


伝承に語られる、

“始まりの民”なのか。


それとも――


もっと別の何かなのかと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ