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記憶をなくした私は、春の死へと向かう  作者: 星々路
第1章 春に戻った少女

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9/11

第9話 裏庭に残る跡

借りた禁止魔法の本と防衛魔法の本を抱え、帰る途中の廊下は夕暮れの光で静かに染まっていた。

ふと窓の外に目を向けると、学校の裏庭の一角がやけに気になった。


その瞬間、胸がざわつき、足元がふらりと揺れた。

理由はわからない。ただ――“あそこに行かないといけない”と身体が訴えていた。


***


裏庭に出ると、土に半ば埋もれるように黒く焦げた跡が広がっていた。

明らかに、強い魔法が放たれた痕だ。


私は跡にそっと触れた。

ひやりとした時、視界が白く弾けた。


ーー「これで最後の契約だ」

「分かっている。早く!早く戻してくれ!」

「ヒヒ…なにが変えられるんだか…」


声が聞こえる。

見えるのは誰かの足元だけ。

けれど、背筋が凍る気配だけは、はっきり伝わってきた。


視界が戻った瞬間、私は大きく息を吸い込んだ。

一瞬だったのに、全身が震えていた。


(今の…記憶?

 私、ここで死んだ?)


確信めいた予感が、喉の奥で重く沈んだ。


そのとき――


「ルナ?」


背後から名前を呼ばれ、振り返る。

アダムが立っていた。


いつもの穏やかな顔。けれど、焦げ跡へ視線を落とした瞬間、彼の表情がほんの一瞬だけ固まった。


「こんなところで何してるの?」


「…ただ、散歩してただけ」


震えを悟られないように声を押さえた。

アダムは私の腕に抱えている本を見て、軽く目を細めた。


「それ、禁止魔法の本だよね。授業で必要だったから、僕もこの前借りたよ」


「…そうなんだ」


(昨日は“詳しくない”ように見せていたのに…)


そのとき、アダムの右手が視界に入った。

袖口から、薄く紫色に染まった痣がちらりと覗く。


(紫の痣…)


禁止魔法の代償。

その言葉が、冷たい何かのように胸に落ちた。


「アダム、その痣……」


「え?」


彼は反射的に手を隠した。


「ちょっと怪我しただけ。大したことじゃないよ」


笑顔は浮かべたままなのに、どこかぎこちない。


「もう遅い時間だよ、帰らないと」


アダムはそれだけ言って背を向け、歩き出した。


私は一歩遅れてその背中を見つめる。


(アダムは…何か隠している?

 リリーのお父さんを追いかけたときもそこにいて、

 本も同じものを借りてて、

 焦げ跡を見て固まって、

 そして、あの紫の痣…)


偶然だけでは説明のつかないつながりが、胸の奥に重く積もっていく。


――彼は、味方なのか。

――それとも。


夕暮れの鐘の音が響く校舎で、私はひとり立ち尽くした。

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