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記憶をなくした私は、春の死へと向かう  作者: 星々路
第1章 春に戻った少女

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第7話 影を追う日

まずは確かめなくてはならない。

リリーの父が本当に“売人と話している”のか。

話している場合、何をしているのか。


とはいえ、どこのエリアに行けば売人と会うのか見当もつかない。

なら、彼の行動を追うしかない。


***


翌日。

私はリリーの家の近くでひっそりと待機していた。


ほどなくして、屋敷の門からリリーの父が姿を現す。

スーツ姿で、いつもの穏やかな表情を浮かべていた。


(まずは日常の行動を追ってみよう……)


距離を取って後をつける。

彼は街の大きな事務所に入り、仕事をしているようだった。


一時間、二時間……。

そのあと出てきた彼は、そのまま病院へ向かった。

寄付活動の一環だろうか。誰かと話し、礼を交わし、穏やかな表情を崩さないまま帰路につく。


私はさらに後を追い、彼が家に戻るのを見届けた。


(怪しい動き……ない。これじゃ噂は、ただの噂みたい)


肩の力が抜け、帰ろうとしたときだった。


――カツ、カツ、と違う靴音。


門の影から、黒いコートを羽織ったリリーの父が現れた。

さっきのスーツとは違う。まるで“別の目的”のための姿。


(……え? 今、帰ったはずじゃ……?)


私は咄嗟に追いかけていた。


***


街の灯りが少なくなる。

街はどんどん治安の悪い気配をまとい始め、空気が肌に刺さるようにざらついている。

一人でここにいることに不安を覚え、胸が強く脈打つ。


リリーの父は路地の奥で、誰かと会っていた。

黒いフードをかぶった男。

その手には――禍々しい光を帯びる石。


(あれ…黒い...魔法石…?授業で黒い魔法石なんて見たことがない。)


石は暗闇の中で、淡い闇色の光を脈打つように揺らめいていた。

リリーの父はその石を受け取り、フードの男と短く言葉を交わしている。


(本当に……売人……?)


そう思った瞬間。


「なんでここにいるの?」


耳元で声がした。


「っ!?」


振り返ると、アダムが立っていた。


「アダム!? そっちこそ、なんで……!」


「あとで説明する。とりあえずここを出よう。リリーの父親がこっちへ来る!」


アダムに腕を引かれ、私たちは路地裏を走った。


***


街灯のある通りに出て、ようやく足を止める。

アダムは荒い息を整えながら言った。


「ルナ、あのエリアは危険なんだ。行っちゃだめだよ。……何してたの?」


私は咄嗟に、違う理由を口にしていた。


「この前、リリーのお父さんの手が紫色に変色してたの。心配になって……様子を見に行っただけ。そしたら慌てて出てきたから、気になって後を追ったの」


自分でも苦しいと思いながらも、表情だけは自然を装う。

一息ついてから、私は問い返した。


「でもアダムは?どうしてあんなところに?」


「俺は...珍しい魔法具を探しに行ってただけだよ。…そしたら、ルナが見えたから追いかけたんだ」


アダムの言葉には、どこか曖昧な影があった。

でも、私も嘘をついている。

これ以上アダムから質問されないためにも、彼の言い分をそのまま飲み込む。


アダムは家まで送ってくれた。


「ねぇ、アダム。さっき、リリーのお父さん、黒い魔法石を売人みたいな人から受け取ってたんだけど。黒い石って…何に使うの?」


「それ、本当……?」

アダムの声がわずかに低くなる。


「黒い魔法石といえば、禁止魔法に使われるって聞いたことがあるけど……見間違いじゃない?」


「そうかも。教えてくれてありがとう」


別れの挨拶をし、アダムは帰っていった。

ドアを閉めた瞬間、心臓が早鐘を打つ。


(禁止魔法……?

 あれは黒い魔法石だったと思う。

 禁止魔法って……何をする魔法?

 そしてリリーのお父さんは――何をしようとしているの?)

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