第6話 囁かれる黒き噂
翌朝、胸の奥にまだ前日の違和感が残っていた。
他に手がかりはない。だから、あの拒絶を感じたリリーの父親のことを調べるしかない。
でも、あからさまに動くのは危険だ。
まずはアダムに、情報を聞いてみることにしよう。
***
「アダム、リリーのお父さんって、どんな人?」
アダムは目を見開き、驚いた顔をした。
「……また急に?」
「この前、リリーの家で会ったの。知らないままだと、失礼なことがあるかもしれないから」
アダムは少し息をつき、落ち着いた声で答えた。
「わかった。リリーの父について知っていることを話すよ。
一代で財を築いた人物で、街の病院や施設への寄付も積極的にしている。
街の評判も非常にいい人だよ。俺が知っているのはこれくらい」
「そうなんだ。教えてくれてありがとう」
ーー自分に関係しそうな情報はないか。
手がかりは、途切れてしまった。
***
家に戻り、思考が行き詰まる。
悩みながら部屋を行き来していると、使用人のマルレーヌが顔を出した。
「どうしたんですか、お嬢様?」
ルナは迷いながらも、問いかける。
「リリーのお父さんって、私の家に来たりしていた?」
家政婦は少し考え込み、ゆっくりと答えた。
「そうですね……お嬢様が生まれる前、よくセレステさまに会いに来られていました。亡くなられてからは、こちらにはいらっしゃっていませんが……。
ただ、リリー様のお父様には、あまり近づかれないほうがよいかもしれません。何かと黒い噂もありますので」
「黒い噂?」
「はい……内緒ですが、あまり治安のよくない道で売人と話しているところを目撃されているそうです。
お嬢様方が入るような道ではないので、家政婦たちの間で囁かれているだけですが……」
マルレーヌの言葉は、手がかりかもしれない。
胸の奥で、期待と警戒が入り混じった感情がざわめく。
――確かめに行こう。
どんな道でも、私は真実に近づきたい、生き延びるために。




