第5話 静かに芽生える疑念
翌朝、目が覚める。
――どうして、私は殺されたのか。
それを知るためには、まず自分に恨みを持つ誰かがいたかを調べなければならない。
記憶が戻れば、きっと手がかりが見つかるはず。
私は学校へ通いながら、屋敷の部屋や学校の談話室、図書室――自分が訪れたかもしれない場所を、ひとつずつ確かめて歩いた。
だが、何も思い出せなかった。
触れれば記憶が蘇るかもしれない——そんな小さな希望も、ひとつずつ消えていった。
どうしよう。殺されるのが卒業式なら、もう一年もないのに。
***
そんなある日。
「ルナ、今日うち来ない?最近あんまりゆっくりしてなかったし!」
リリーがいつもの笑顔を向けてきた。しずんでいた胸が少し軽くなる。
「……うん。行きたい」
「よし、決まり!」
リリーの家は広くて、家具や装飾も豪華だった。裕福な家庭だということが、すぐにわかった。
「ルナ、いらっしゃい」
玄関で出迎えてくれたのは、落ち着いた雰囲気の男性――リリーの父だった。
「お父さんね、いつもルナのこと心配してるの」
「ルナ、君のことはずっと気にかけているよ。君のご両親とは旧友だからね。困ったことがあれば、いつでも頼ってくれ」
私の両親を“旧友”と呼ぶ人に会うのは、初めてだった。
「……あの……私の両親は、どんな人だったんでしょうか」
問いかけると、リリーの父は穏やかに微笑んだ。
「お母さんのセレステは、とても優しくて強い人だった。
昔、私が周りから理不尽に扱われていた時、何度も助けてくれたよ。
亡くなったと聞いたときは、本当に……つらかった」
うっすら涙が光る。
「お父さんのサイラスは頭が良くてね。学年で常にトップにいるような青年だった。二人はいつも、眩しいほど仲が良かったよ。
...ごめんね。用事があって、そろそろ出なければ。また話そう、ルナ」
差し出された手に触れた瞬間――
バチッ。
小さな衝撃が指先をはしった。
胸の奥で、何かが“拒絶するように”震えた。
手を離すと、彼の指がわずかに紫がかって見えた。
冷たく、ひんやりとした硬さを帯びて。
「……静電気かな。失礼」
穏やかな微笑みとは裏腹に、その目の奥の感情は読めなかった。
玄関のドアが開き、彼は静かに外へ出ていく。
その背中を見送ったとき――
開いたドアの向こう、光の中に“誰か”が立っているのが見えた。
アダム――?
瞬きをすると、その影は跡形もなく消えていた。
「ルナ? どうしたの?」
リリーが覗きこむ。
「……ううん。なんでもない」
そう答えながらも、胸の奥に沈んだざわめきは消えなかった。
かすかな違和感――手に触れた瞬間、私のどこかが確かに拒絶した。
――リリーのお父さん……なにか、私の死と関わっている?
頭に浮かんだ疑念を振り払おうとしても、一度芽生えたものは胸の奥にしっかり根を下ろしていた。




