第2話 保健室で告げた秘密
保健室のベッドに座る。
水を口に含みながら、心臓の鼓動がまだ落ち着かない。
アダムはそばで静かに立ち、心配そうに見守ってくれていた。
「……あの……わたし、何も覚えてないの」
思わず口から出た言葉に、自分でも驚いた。
アダムがどんな人かも知らないのに、つい言ってしまった。
「え……」
頭がおかしいと思われたとしても、不安で言葉が止まらない。
「急にごめん、信じられないよね。でも本当に自分が誰かも覚えていなくて...。
だから今私がどんな状況なのかを教えてほしいの。」
声が震える。思わず涙が一粒落ちた。
アダムは息を飲み、一瞬視線を逸らす。
すぐに微笑み直したが、どこかぎこちない。
「……そ、そうなんだ……」
アダムは少し考えてから、手を握ってくれた。
「まずは落ち着こう。焦らなくていい、なんでも教えるよ」
その言葉に安堵し、「何故こんなにすぐ信じてくれるのか」という疑問は心にしまっておいた。
今も知らない世界に囲まれているはずなのに、アダムの手を握ると少しだけ落ち着く。
そのままアダムは知っている限りの私のことを教えてくれた。
私の名前はルナ・ヴァレンティナ、高校2年生になったばかり。
両親はすでに他界しており、今は残った屋敷で使用人と暮らしている。
特別な能力はなく、魔法植物を使った医療魔法を勉強している(私が通う魔法学校は、通常、特別な能力がある人しか入れないが、何故か私は能力がなくても入学できたみたいだ。意欲が認められて?らしい)。
いつも一緒にいる友人・リリーは、今日はたまたま体調不良で学校を休んでいるらしい。
とにかく自分が何者かが少しでも分かって安心した。
「何も覚えていないなんて、変な話してごめんね。でも色々教えてくれて、助かった」
「正直、まだ信じ難くはあるけど、助けられたならよかった。
あとで病院に行ったほうがいいと思う、なにか記憶を戻せる治療が見つかるかも知れない。
でも、とりあえず今は休みな、顔色が悪いよ。」
「ありがとう。たしかにすごく体が重いから、このまま眠らせてもらおうかな」
私は保健室のベッドで横になり、一瞬で眠りについた。
再び卒業式で死ぬイメージが見える。
血、痛み、叫び声。
その時気がついた。死ぬ時に聞いた叫び声はどこか、アダムの声に似ている――。
ハッと目が覚めると、ベッドの隣の椅子で、アダムが眠っていた。
また心臓の鼓動が大きくなるのを感じた。




