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記憶をなくした私は、春の死へと向かう  作者: 星々路
第1章 春に戻った少女

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第10話 夕陽が照らした青い瞳

アダムの後ろを歩きながら、沈みゆく光の中を進んでいく。

急にアダムが足を止め、振り返る。


「見せたい場所があるんだけど、これから行ってみない?」


突然そんなことを言われ、思わず足を止める。

さっきの痣のことも、焦げ跡の反応も気になる。

何か聞き出せるのかもしれない。


「……わかった」


短く返事をすると、アダムは安心したように微笑んで歩き出した。


***


入り組んだ坂道を登りきると、急に視界が開けた。

眼下に広がるのは、どこまでも続く海。


夕陽に照らされた水面は、溶けた金色のように揺れている。


「……きれい」


思わず声が漏れた。


アダムは少し得意げに言った。


「ここ、穴場スポットでさ。気晴らししたい時によく来るんだ。

 ルナ、思いつめた顔してたから、見せたくて」


「穴場なのに教えていいの?ありがとう。ほんとに、きれい」


海風が髪をそっと揺らす。

アダムの横顔も、夕陽の色に染められていた。


しばらく沈黙が降りたあと、アダムが口を開いた。


「実はさ、俺とルナって、この前初めて話したわけじゃないんだ」


「…え?」


胸が小さく跳ねる。


「高校に入って、ルナを見たとき…かわいいって思ったんだ。

 それで、話せそうなタイミングを見つけては、声をかけたりしてた。

 ルナは全然気にも留めてなかったと思うけど」


かわいい。

その言葉に思考が一瞬止まる。

でも、浮かれた素振りを見せるのはなんだか恥ずかしくて、平静を装った。


「そうなんだ…。私はどんな人だった?」


アダムは懐かしむように目を細めた。


「明るくて、優しくて、ちょっとおっちょこちょい。

 俺は、ルナとほんの少ししか話せてなかったけどね」


「明るかったんだ、私...」


最近の自分からは想像もつかない。

生き延びる方法を探すことばかり考えて、必死で、余裕なんてなかった。


アダムは続けた。


「ずっと元気がないから…心配だったんだ。

 そりゃ記憶喪失なら、元気をなくすのは当然だけどさ。

 この前みたいに危ない場所に行ったり、魔法の勉強を無理に頑張ったり……

 疲れることだけじゃなくて、休む時間もちゃんと取ってほしい。

 何かあったら、俺に頼ってよ」


胸が少しだけ温かくなる。


「……ありがとう。心配かけてごめん」


たしかに、焦りすぎていた。

時間がないと思うほど、周りが見えなくなっていたのかもしれない。

少しの違和感だけで、リリーのお父さんやアダムでさえ疑っていたのだと思うと、胸が痛む。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか」


沈む太陽の光が映るアダムの青い瞳と目が合った――その瞬間。


ふっと、視界が揺れた。


***


「やっぱりここでルナと過ごすとすごい落ち着く。

 帰っても父さんのプレッシャーがきつくてさ。

 母さんも、父さんがいると、ほとんど何も言えないし」


「そうなんだ、アダムのお父さん厳しもんね...。私も、この時間好きだな」


「また来よう」


夕陽の海。

寄り添う気配。

並んで座る影。


まるで私が、確かにここで彼と過ごしていたかのような映像だった。


***


視界が戻る。


私は思わず立ち尽くしていた。


(私、ここに、前にもアダムと来たことがあるの?

 そんなに、親しかった……?)


胸が高鳴る。

その理由が、思い出した記憶のせいなのか、

夕陽色になったアダムの横顔のせいなのか、自分でもわからない。


「ルナ?帰らないの?」


アダムに声をかけられ、はっと我に返る。


「ごめん、帰る」


海から離れ、二人で歩く帰り道。

胸の鼓動は、今までのどれとも違う速さだった。


家の前に着くと、私はふり返り、アダムに手を振った。


「じゃあね」


***


ルナを見送り、ひとり残った夕闇の中でつぶやいた。


「今度こそ…俺は…」


最後のチャンス、次は絶対に失敗できない。

第一章、ここで一区切りです。

ルナの死に戻りの人生はまだ始まったばかりですが、少しずつ物語が動き出しました。


読んで楽しかった、気になった、と思っていただけたら、ぜひ評価や感想をいただけると励みになります〜!

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