第1話 私は"死の記憶"を見る
――まぶしい。
目を開けた瞬間、私は硬い机の上に突っ伏していた。
魔法薬の甘い香りと、魔法陣を起動する小さな音が聞こえる。
ここは、魔法学園の教室。……たぶん。
(……あれ? ここ……どこ?)
体を起こして、周りを見渡した
周りは活気に満ちた生徒たち。魔法で紙飛行機を飛ばす子、召喚獣を水槽に戻している子までいる。
見慣れているはずなのに、どの顔にも見覚えがわかない。
黒板には《三年次・魔法応用学》の文字。
(……わたし、三年生……?)
疑問がどんどん増えていく、記憶は真っ白のままだった。
(自分の名前が思い出せない……)
自分が誰なのかすら分からない、頑張って思い出そうとする。
その瞬間、脳に黒いノイズが走り、映像が流れ込んできた。
――卒業式の日。
私は学校で何者かに刺されて倒れた。
血の匂い、白くなる視界、誰かの叫び声。
そして、光が遠ざかっていく。
息が苦しくなる。心臓が跳ねる。
私は“殺された”。
その確信だけが、鮮明だった。
(……どうしよう……)
生きたい。
でも誰を頼ればいいのか分からない。
誰が味方で、誰が敵なのかも分からない。
窓の外を見つめながら、必死に涙を我慢していると。
「……大丈夫?」
近くから柔らかな声がした。
顔を上げると、ひとりの少年が立っていた。
金色の髪が光を反射してきらめき、青い瞳は澄んだ水みたいに透き通っている。
制服の着こなしは品がよく、清潔感のある雰囲気。
(……きれいな子……)
知らない人のはずなのに、なぜか胸がざわつく。
不安と、変な安心感が同時に押し寄せてくる。
「気分悪い? 顔色、かなり悪いよ」
「あ……えっと……」
言葉がまとまらない。
「無理に話さなくていいよ。保健室に行こう、立てる?」
「……うん」
手は差し伸べ、見守るように立ち上がるのを待ってくれる。
優しくて、押しつけがましさのない態度に、胸が少しだけ軽くなった。
「あ、そうだ。俺はアダム。クラスメイトだよ。君はルナだよね?」
たしかに自分の机に目をやると、ノートに「ルナ」と書いてある。
「そうだと思う……」
「じゃあ、ルナ。よろしく」
アダムは微笑む。
その笑顔が綺麗すぎて、思わず目を逸らした。
知らないはずの人なのに、こんなふうに優しくされるのが怖い。
そのとき、ふと視線の端に影が揺れた。
窓の外から、誰かがこちらをじっと見ている。
黒いコートに身を包み、顔が見えない。
(……誰?)
なぜか全身の毛が逆立つほどの恐怖が走った。
「ルナ?」
アダムの声で我に返る。
「……なんでも……ない……」
そう言ったけれど、心臓はドクドクとうるさい。
私は知らない世界に放り込まれ、理由もわからない死の影に追われている。
そして、その全部を思い出せない。
生きたい。
その願いだけは、鮮明だった。
私は絶望にのまれながら、震える指先でアダムの手の温度を確かめていた。
それだけが、今の世界で唯一確かなものだった。




