ディストピア ジャパン
母子家庭に育った一人息子の進に、ある日朗報が届きました。
幼い頃から、何に対しても引っ込み思案で消極的。この世の不幸を全て背負ったかのような表情は、陰気で近寄りがたい。低身長で目立たず冴えない性格は、友達も少ない学生時代であったと思い返します。
というのも収入の少ない我が家には余裕もなく、いつも貧乏めいて身だしなみにも無頓着。思春期であるはずなのに、不潔と噂されるほどの風貌で平気な顔をしていました。
かといってクラスからいじめを受けている訳でもなく、今でいうならコミュニケ―ション障害と判断される類いの息子だったのかもしれません。
「母さん、やったぜ! 第三希望だけど……○○会看護専門学校に合格したよ!」
「よかったわね……進……」
思わず涙ぐんで感無量となりました。というのも息子は、いつも弱い者の味方で優しい性格。
早くに離婚し、子を抱えながら家計的に苦しい私の苦労する姿を見て育ったせいか、いつも口にしていた忘れられない言葉がある。
「早く大きくなって母さんを助ける」
この言葉に私は何度救われた事か……。
その口癖は、いつしか人助けしたい、人のために働きたいという希望に変わり、高校に提出する進路希望にも、看護学校という文字が見られるようになりました。本当はさっき言った言葉も、
「お医者さんになって母さんを助ける」
でしたが、学業の成績も母子家庭の収入からも医科大学への道は、とうの昔に閉ざされていました。ですが医療従事者となり、病気や怪我で苦しんでいる人達の手助けができるのならば、本人の希望と何も違うものではないでしょう。
「さあ、進が頑張って結果を出したんだから、母さんも頑張らなきゃね!」
「もう歳なんだから、あまり無理すんなよ」
そうは言ったものの、息子から手渡された合格通知に同封されていた入学金その他の費用には、思わず震えがくるような額面が記載されていました。……これから3年もの間、この額を払い続けなければならないのか……。
「どうしたの? やっぱウチの家計的には無理なのかな?」
「何言ってんの! こうなりゃ親戚一同から借金してでも、進を一人前の看護師に仕立て上げなきゃ」
匂ってくるような潰れたニキビが目立つ赤ら顔に重たい前髪が被さり、笑顔がボヤけていたが、かろうじて口角から見える黄色い歯並びで、それが分かった。
「母さんこそ、何言ってんのさぁ……!」
ささやかながら確固たる息子の夢……だが、看護師、ひいては医療職全般がコミュニケーションが第一に必要とされる職種なのは言うまでもない事。
息子のコミュ症も世間の荒波に揉まれ続けていれば、やがて有無を言わさず改善されるもの、と思い込んでおりましたが……。