三、
「はいっ。俺は、舞ちゃん・・舞岡君がいいと思います!」
「賛成!」
「俺も賛成!舞岡のチアなら見られる!つうか、見たい!」
「衣装もすっげ可愛くしてさ。ウィッグとか着けちゃう!?はあ、楽しみ!」
「スカート!舞岡なら、ミニでもいける!」
「どっかでレンタル・・・いや、作るでもいいな」
「なっ!てめえら全員ふざけんな!俺は、絶対に、やだ!やらねえからな!そんなもん!」
クラスのほぼ全員が前のめりに賛成と叫ぶなか、薫はひとり反対だと叫び続ける。
「舞岡のチア姿か。いいな。俺も見たいが。舞岡は、どうしても嫌か?」
そして、何かとクラスメイトに気を配り、個人の意見も尊重しつつクラスをひとつに纏めるという偉業を果たしている門脇でさえ、進行役を熟しながら、そんな風に問うて来る。
更に言うなら、書記の役目を果たしている副委員長も、同感同意、大賛成だという目を薫に向けていた。
「薫がチア・・絶対に可愛い。他の奴も見るとか業腹だけど、背に腹は代えられない。ごめん、薫」
そのうえ、いつも薫にぴたりと寄り添い、薫の気持ちを最優先にしてくれる将梧も、今は何やら呟いて戦力にならない。
「門脇?涼しい顔して『どうしても嫌か?』じゃねえよ!嫌に決まってんだろうが、そんなもん!」
しかし、これぞ四面楚歌というこの場面においても、薫は絶対に諦めるつもりが無かった。
そんな薫に、門脇は尚も畳みかける。
「そうは言うが、体育祭の必須項目なんだ。クラスのためと思って、引き受けてくれないか?」
「い、や、だ、って、さっきから言ってんだろ!大体、なんで俺限定なんだよ!じゃんけんだっていいじゃないか!それに、そんなんが必須項目とか。おかしいだろ!」
六月に行われる体育祭の出場種目を決める。
ただそれだけの筈だったのに、どうしてこんな目に遭っているのか、チアを選出するなどということが、何故に必須項目となっているのか。
更には、どうして俺以外の候補はいないのかと、薫が息を荒らげた。
「おかしいって言われてもな。もとは、自分達のアンケートなんだから、文句の言い様も無いだろう?」
「・・・・・あのアンケートか」
諭すように門脇に言われ、薫は苦い気持ちでそのアンケートを思い出す。
昨年の暮れ頃、来年度は理事長の交代があると告げられた薫達は、何故か学校行事についてのアンケートを受け取った。
それは、体育祭や学園祭についてのものだったのだが、薫もクラスメートと一緒に悪乗りして、色々書いたのは覚えている。
「舞岡。その顔を見るに、アンケートのことも、その内容も、覚えているんだろう?」
「うん・・・そりゃ、覚えてるけどさ。みんなだって、悪乗りしてたじゃん」
男子校だから潤いが無い、なら作ればいいじゃんとか言いながら、確かにチアなんて言葉も書いた記憶のある薫は、やや声のトーンを落とした。
「悪乗りというか。確かに、みんなの総意だったな」
「だろ!?だったらさ、みんなでチアやりゃいいじゃん。他の奴らは学ランで硬派な応援団なのに、そんななかひとりだけチアなんて、罰ゲームじゃん」
確かに総意だったと、うんうん頷く門脇に勝機を見出した薫が、ここぞとばかり前のめりになって力説する。
そうだ。
それならやってやると意気込む薫に、けれど門脇は首を横に振った。
「いや、そうじゃなくて。あのな、舞岡。あの時から、俺らの総意だったんだよ。もしこのアンケートが通ったら、うちのクラスのチアは、舞岡って」
「・・・・・」
門脇の言葉に、信じられない思いでクラス全員を見渡した薫は、そこに味方のいないことを知る。
「ほら。二年から三年にあがる時って、クラス替えが無いだろう?それをみんな、分かっていたから」
「舞ちゃん、やってよ」
「舞岡なら、絶対可愛いから!大丈夫!」
「メイクは、僕がしてあげる!得意なんだよ?」
「衣装も、可愛いのを作ろうろう?ちゃんとサイズ計って」
「だあああ!俺は、好きな子に、可愛いなんて思われたくないんだよ!」
クラスメイトが盛り上がるなか、薫は椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がった。