第2話 影と残された手がかり
カフェ「ルナリーフ」に残された謎は深まるばかりだった。
「スパイスの粉が落ちてるにゃ……。でも、どうしてこんな場所に?」
ラムが倉庫の奥にある木箱の前でしゃがみこみ、指でそっと粉をすくい取る。
「昨日の夜に誰かがここにいたのは間違いないな。」
シオンが腕を組み、冷静に分析する。
「でも、扉は鍵がかかってたんでしょ? それに、侵入者の痕跡もなかったにゃ?」
「そうなんだよねぇ……。」
店主セリオンは困ったように頭をかく。
「もしかすると、盗まれたんじゃなくて、誰かがどこかに隠した可能性もあるな。」
シオンは倉庫の中を見渡しながら言った。
「にゃ? それってどういうことにゃ?」
「単純に持ち去られたわけじゃないとすると、何かの理由でここにあるスパイスを一時的に移動させた可能性がある。」
「でも、そんなことする必要あるのかにゃ?」
「それをこれから探るんだよ。」
シオンが言うと、ラムは「むむむ……」と眉をひそめた。
その時——。
「そういえば……昨日の夜、ちょっとした物音を聞いた気がする。」
そう話したのは従業員のマリウスだった。
「閉店作業を終えて休憩室でぼーっとしてたんだけど……倉庫の方から何かが動く音がしたような……。」
「にゃ!? それ、もっと早く言ってほしかったにゃ!」
「いや、気のせいかと思ってさ。」
ラムがジト目でマリウスを見上げる。
「で、その物音ってどんな感じだった?」
シオンが尋ねると、マリウスは少し考えてから言った。
「うーん……何かが擦れるような音? 何かがぶつかったような音もしたかも。」
「それって……もしかして?」
ラムの耳がピクンと動いた。
シオンが懐から小さな魔法石を取り出し、そっと指先で光を灯す。
「倉庫の中をもう一度調べよう。何か見落としてるかもしれない。」
シオンとラムは改めて倉庫の中を調査することにした。すると、ラムが床を指差して叫ぶ。
「にゃっ!? ここ、何かが擦れた跡があるにゃ!」
「……誰かがここに立っていた形跡もあるな。」
「でも、人間の足跡じゃないみたいにゃ……。」
ラムの指が示したのは、爪で引っかいたような跡 だった。
「この跡……何か動物のものに見えなくもないな。」
シオンは慎重に跡を観察しながらつぶやいた。
「動物? でも、カフェの中にそんなものはいないにゃ!」
「そうだな……普通ならね。」
シオンは再び魔法石を灯し、倉庫の隅々まで光を当てる。
「おかしい。ここにこんな爪痕があるはずがない。もしも動物なら、一体どこから入ってきた?」
「もしかして、誰かが動物を連れてきた……? それとも……?」
ラムが首をかしげる。
「この爪の跡をよく見てみると……サイズ的に大きな動物ではないな。猫か、もしくはそれに近いものか……。」
「にゃ!? それってつまり……!?」
「まだ確証はない。でも、一つ確かなのは……」
シオンは倉庫の奥をじっと見つめた。
「この事件は、単なる盗難じゃないかもしれない。」
そう言った瞬間、外でカサリと何かが動く音がした。
シオンとラムは素早く顔を見合わせた。
「何かいるにゃ……!」
「行くぞ。」
シオンは素早く扉を開け、ラムも後を追う。カフェの外に出ると、夜の静寂の中に、何かが走り去る気配があった。
「逃げたにゃ!」
「……追うぞ!」
二人は素早く影を追ったが、暗闇の中でそれを見失ってしまった。
「にゃ〜! 逃げ足が速いにゃ!」
「だが、これは偶然じゃないな。何者かがスパイスを隠した理由があるはずだ。」
「うにゃ〜……そもそも、動物がスパイスを盗むっていうのも変な話にゃ……。」
「確かにな。ただの盗みなら、食べ物を狙うはずだからな。」
ラムはしばらく考え込み、急にハッと顔を上げた。
「……まさか、誰かがこの動物を使って何か企んでるんじゃないかにゃ?」
「可能性はあるな。」
「でも、それならその動物はどこに行ったにゃ? まだ近くにいるのかも……。」
シオンは周囲を慎重に見渡した。
「次は、この動物の正体を突き止める必要があるな。」
「にゃにゃ!? もしかして、これって普通の事件じゃなくなってきたんじゃ……?」
「……その可能性もある。」
シオンは静かに夜の闇を見つめた。
「何か別の目的があるとしたら……動物を使う理由も気になるにゃ。」
「そうだな。スパイスと動物……何の関係があるのか、考える必要がある。」
カフェ「ルナリーフ」に残された手がかりは、まだすべて解明されていない。
事件の真相に迫るため、シオンとラムの調査は続く——。
(続く)