第1話 消えたスパイスと探偵助手にゃ!
森の奥深く、小さなカフェ「ルナリーフ」は静かに朝を迎えていた。木漏れ日が柔らかく店内を照らし、心地よい香りが漂っている。
「ふにゃ〜、いい香りにゃ〜!」
ケモミミ獣人の少女、ラムは鼻をクンクンと動かしながら、カフェの扉を開けた。
カフェの店主セリオンが、カウンターの奥でコーヒーを淹れていた。しかし、彼の表情はどこか冴えない。
「おはよう、セリオン。何かあった?」
シオンが淡々と問いかける。
「それが…大切なスパイスが、今朝消えていたんだ。」
「消えた?」
シオンの目が鋭く光る。
「うにゃ!? それって大事件にゃ!」
ラムが飛び上がるように驚き、大きな瞳をキラキラさせる。
「いや、大事件っていうほどじゃ……」
「だって、食材が勝手になくなるなんておかしいにゃ! これは、探偵助手の出番にゃ!」
「誰も探偵なんて頼んでないけど?」
シオンが呆れたように言うが、ラムの興奮は収まらない。
「証拠はあるにゃ!? 侵入者の痕跡は!?」
「……いや、特におかしなことはなかった。扉も窓もちゃんと鍵がかかっていたし、何者かが忍び込んだ形跡もない。でも、スパイスだけが消えていたんだ。」
「不思議にゃ…」
ラムは腕を組んで「うーん」と唸る。
「なるほど。侵入者の可能性が低いなら、内部の人間が持ち出したか、あるいは……」
シオンが推理を進めようとしたその時、ラムの鼻がピクンと動いた。
「……にゃ? なんか変な匂いがするにゃ。」
「変な匂い?」
「うん…なんか、スパイスとは違う、でもどこか懐かしい感じの……」
ラムがクンクンと嗅ぎまわると、カウンターの奥、セリオンの寝室の扉の前で立ち止まった。
「ここからするにゃ!」
シオンとセリオンも顔を見合わせる。
「そういえば、最近よく眠れなくてな…枕元に月眠草を置いて寝るようにしたんだ。」
「月眠草?」
「安眠効果があるって聞いて、知人に勧められたんだ。」
シオンの目が細まる。
「月眠草……ね。」
「何か知ってるにゃ?」
ラムがシオンを見上げる。
「いや、まだ仮説の段階だけど……少し調べる必要がありそうだ。」
その時、カフェの扉が開き、従業員のエルナとマリウスが出勤してきた。
「おはようございます、セリオンさん。あれ、何かあったんですか?」
エルナは不思議そうに店内を見渡し、マリウスはあくびをしながら言った。
「なんか、朝から騒がしいなあ。昨夜は特に変わったことはなかったよな?」
「そうね。でも、ちょっと気になったことがあるのよ。」
「気になったこと?」
シオンが尋ねると、エルナは少し考え込むように話し始めた。
「昨夜、閉店後に倉庫を確認したんですけど、そのときは何も問題はなかったんです。でも、朝になったらスパイスがなくなっていて…本当に不思議なんです。」
「確かに、それは変にゃ。」
ラムが頷く。
「そういえば、僕は閉店作業の後、奥の方で何か物音がしたような気がしたんだけど、疲れてたから特に気にしなかったんだよね。」
マリウスが思い出したように言う。
「物音にゃ?」
ラムがピクンと耳を動かす。
「うん。でも、誰かがいたわけじゃないし、気のせいかなーって思ってた。」
「気のせいかもしれないけど、それが何かの手がかりになるかもしれないね。」
シオンが静かに言った。
ラムは腕を組んで考え込んだ。
「うにゃ~、これはますます気になるにゃ!」
「まずはカフェの中を詳しく調べてみよう。」
シオンが冷静に提案する。
「そうですね。誰かが気づかないうちにスパイスを移動させた可能性もあるし…」
エルナも頷いた。
「ボク、奥の倉庫をもう一度チェックするにゃ!」
ラムが勢いよく走り出す。
「慌てないで、ラム。慎重に調査しないと。」
シオンが後を追いながら、冷静に促した。
ラムは勢いよく倉庫の扉を開けると、じっと床を見つめた。
「んにゃ……? なんか、ここだけ埃の付き方が違うにゃ!」
シオンが横に立ち、慎重に観察する。
「確かに……誰かがここに立っていた形跡がある。」
「それに……この木箱、微妙にずれてるにゃ!」
ラムがそっと木箱を動かすと、そこにはほんのわずかなスパイスの粉が落ちていた。
「これは……手がかりになるかもな。」
シオンがつぶやいた。
その時、ラムがさらに床を見つめる。
「にゃっ!? これ、誰かがひっかいた跡にゃ?」
「……動物の爪跡にも見えるが、カフェの中にそんなものがいるはずはないな。」
「つまり……犯人は人間じゃない可能性もあるにゃ?」
事件の謎はさらに深まっていくのだった——。
(続く)
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