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6.話す犬

 王子の飼い犬フレディは、苦しそうにうずくまっている。


「い、今、この犬、しゃべったわよね?」

 私は、驚きのあまり素で聞いてしまった。


「ああ。そんな風に見えたな。

 おい、フレディ。

 今、しゃべったのは、お前か?」

 王子が、フレディに近づいて聞いた。


 フレディは、苦しそうな表情で王子を見上げるが、無言だ。


 さっきのは気のせいだったのかと思い直した私も、念のために聞いてみる。

「フレディさん。さっきお話したのは、あなたですか?」


「そ、そうだ」

 今度は、返事が返ってきた。


 私は、動揺が隠せない。

「どういうこと?」


「ワシは、王子の動向を探るためと、時が来たら王子を暗殺するために送り込まれたスパイなのだ」


「俺を殺すために送り込まれたスパイだと?

 誰が送り込んだんだ?」

 王子は、ちょっと声が裏返っている。


「そんなことを答えるわけがないだろう」


 疑問に思った私は聞いてみる。

「じゃあ、どうしてスパイだってばらしたの?」


「なぜか、あなたの言葉には逆らえないのです」


 ゲッ、これは、さっき水に混ぜた媚薬のせいか。

 バレたらまずいな。

 何とか誤魔化さないと。


「あ、あのー、暗殺するって、すごく物騒なんですけど。

 王子が邪魔だってことですか?」


「そうです」

 私への返事は、丁寧だ。


「俺が邪魔?

 ってことは、王位継承権を持つ王族の誰かか?

 それとも、隣国が我が国の侵略を狙っているとかか?」

 また、王子が詰問する。


「そんなことを軽々しく答えるわけがなかろう。

 ワシは、王子のもとに単騎で送り込まれるスパイなのだぞ。

 スパイとしては、超一流なのだ。

 それなのに、どうして……」


「クソッ、俺の質問には答えないのか。

 おい、カトリーヌ。お前が聞いてくれ」


「ええっ、私が?」


「だって、さっきフレディが、お前の言葉には逆らえないって言ってたじゃないか」


 仕方がないので、聞いてみる。

「ねえ、どうしてあなたは犬なのに話が出来るの?」


「それは、ワシが誇り高き狼の獣人だからだ」


「狼の獣人?

 でも、完全に犬の姿に見えるんですけど」


「それは、ワシが犬の姿に擬態しているからだ。

 ワシらは、高速で移動できる四足歩行形態と前足で道具を使用できる二足歩行形態の間を好きなように行き来できるのだ」


「へえ、すごいのね」


「すごいだろう。

 どうだ。ワシと子を設けてみる気はないか?

 きっと、素晴らしい能力の子となるぞ」


 な、何を言っているの? こいつは。


 今にもとびかかってきそうな犬と私の間に、王子が割って入る。

「カトリーヌは、俺の婚約者だ。

 そんなことは、させないぞ」


 さすが王子、行動もイケメン!

 と思ったが、それどころじゃないぞ。

 子を設けるとか、まさに媚薬が効いているみたいだ。

 王子は、ネズミの行動を見て媚薬の存在を疑った。

 犬がこんな風に魅了されたら、あの話よりももっと分かりやすいんじゃないか?

 これは、ヤバい。

 なんとか誤魔化さなくては。

「あのー、フレディさん」


「なんだ?」


「擬態しているってことは、元の姿にも戻れるんですか?」


「もちろんだ」

 言うが早いが、フレディの体が光に包まれたかと思うと毛むくじゃらの狼男が姿を現した。

 いきなり私の方に飛びかかりそうになるが、王子が進路をふさいだので回れ右して、走り去っていった。


 まだ、何の騒ぎにもなっていない今なら逃げ切れる。

 そう判断して、王子の命を奪うよりも逃げることを選択したのだろう。



「フ、フレディがスパイ……」

 犬が走り去った後、王子は茫然自失だ。

 まさに飼い犬に手を噛まれるとは、このことだろう。


「今まで可愛がってきたのに、悲しいことですね」

 私は、心にもないことを残念そうに言った。

 心の中では、媚薬のことがバレる前に逃げてくれて良かったという安堵の心と、飼い犬がスパイだったという自分の設定には無かったような話の流れに困惑していた。

 しかし、飼い犬はいなくなった。

 ひとまず、ネズミに懐かれて怪しまれる事件は起きないはず。



「とにかく、フレディを俺に贈ってくれたハミルトン辺境伯に話を聞こう」

 気を取り直した王子がつぶやく。

 この世界の作者である私も知らない名前だ。


「ハミルトン辺境伯?

 その方がスパイを送り込んだ犯人ですの?」


「分からない。

 でも、一昨年おととしの誕生日プレゼントに、彼から贈られたのがフレディなんだ」

 よっぽどフレディのことが気に入っていたのだろう。

 ブライアンの目に涙が浮かんでいた。


次回更新は、水曜日の予定です。

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