4.また失敗
私は、何をやっているのだろう。
フォ、フォローしなくちゃ。
「すみません、王子。
言い過ぎたかも知れません。
でも、あなたの健康のことを考えているからこそ、体に良い物を食べてほしいんです」
一生懸命、笑顔を作る。
まあ、媚薬は体に悪いけどなー。
「でもなあ。
俺は王子なんだぞ。
玉ねぎはともかく、女に命令されて食べるものを決めるなんて、王族として失格だろ?」
「命令なんてしていません。
体に良いから食べてくださいって、お願いしているんですよっ」
「ほらっ、命令口調じゃないか」
「うっ、それは……」
「だから、食べたくなくなったんだよ」
「じゃあ、お願いします。食べてください」
「うーん。もっと色っぽくいってくれないかなあ」
コイツ、調子に乗っているな。
でも、仕方ない。
「ウッフーン、王子い、食べてくださいなあ」
「ハッハッハ、なんだそりゃー」
膝を叩いて、大喜びだ。
くっそー、頑張ったのにい。
「ここまでさせておいて食べないなら、私にも考えがありますからね」
「考え? どうするつもりだ?」
「どうもこうもありませんよ。
私には、王子をどうこうできませんし」
私は、舌打ちしそうになったが、やめておいた。
王子は、しばらくの間考え込んだ。
「そうだなあ。
お前が食べさせてくれるなら、食べてやっても良いぞ」
何だ、コイツ。
わがまま王子かよ。
「分かりました。
食べさせて差し上げますよ」
私が立ち上がると、机が揺れたのか花瓶が倒れた。
「ありゃあ、花瓶が倒れて花びらがスープに入っちゃったぞ。
お前が立ち上がった振動で、花瓶が倒れたんだろ」
「えっ? 私、机に当たっていませんけど」
「まあ、なってしまったものは仕方ないな。
おーい、給仕さーん」
王子は、手を上げて給仕さんを呼んだ。
「はい、なんでしょうか?」
「花瓶が倒れて、スープが飲めなくなってしまった。
交換してくれ。
その時は、玉ねぎの入っていないスープをお願いする」
私は、黙って見ているしかなかった。
私が立ち上がった瞬間だったけど、テーブルに当たった覚えはない。
王子が揺らして花瓶を倒したんだと思う。
「どうだ。
俺は、悪くないぞ。
花瓶を倒したのは、お前なんだからな」
やられた。
玉ねぎはどうでもいいけど、結局媚薬の入ったスープを交換されてしまった。
私は、ちょっとムスッとしてしまった。
王子は、私の方を見てやりすぎたと思ったらしい。
突然機嫌を取りだした。
「王族は、相手に屈してはいけないんだ。
分かってくれよ」
私の邪魔をしたことは腹が立つけど、イケメンなのよね。
ハーッとため息をついた。
でも、それより私は、また媚薬が無駄になったことで、ソフィーに何と言い訳しようかと考え込んでいた。
正直に話すしかないか。
今回は、玉ねぎが嫌いだった王子の策略にやられたわけだし。
「おい、おい、カトリーヌ。
機嫌を直してくれよ」
ハッ、また王子を無視して自分の世界に入ってしまっていたようだ。
「別に怒っては、いませんわよ」
「いいや、怒っているな。
でも、俺の体のことを考えてそんなに怒ってくれるなんて、少し嬉しいかも知れないな」
「ですから、怒っていませんって」
ただ、ソフィーは怖いけど。
「おお、そうだ」
突然、王子が声を上げる。
「どうかされましたか?」
「今週末に、母上がご自慢のバラ園を貴族の諸侯に披露する催しがあるんだ。
良かったら、来ないか?」
「それが、さっき花瓶をこかしたお詫びだと?」
「おいおい、こかしてないぞ。
それは、お前だろ」
「まあ、別にいいですけど」
また、舌打ちしそうになる。
「そう言わずに、機嫌を直してくれよ。
宮廷のパティシエたちが、自慢のスイーツを披露するそうだ。
俺がアテンドするからさあ」
「うーん、どうしよっかなあ」
令和のコンビニスイーツ好きとしては、宮廷のパティシエの自慢のスイーツには心が動きそうになったが、今の私は貴族のマナーとかが怪しい。
元々のカトリーヌの体に染みついていることは期待できるが、頭では理解できていない。
だから、あまりパーティーの類には行きたくないのだ。
少なくとも、この世界に来て最初のパーティーが王室のモノだなんて、無理がありすぎだろう。
やっぱりお断りしよう、と決心した時だった。
「なあ、頼むよ。
俺が、頼んでいるんだぞ。
俺が、お前に来て欲しいんだよ」
王子は、ジッと目を見つめてくる。
だ、ダメよ。
こいつは、恋にあこがれる女性が憧れる碧眼金髪の超イケメンだけど、私が作ったイケメンサイボーグなんだから。
で、でも、惹き込まれる。
つい、答えてしまった。
「分かりました。行きます」
次回更新は、明日の予定です。