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20.主人公の主人

 様々な交渉の末に、私のマクラン王国での処遇が決まった。

 そうとなれば、私の身柄は一刻も早くマクラン王国まで届けられることとなった。


 ハミルトン辺境伯領にいることが知れれば、直ちに王国はハミルトン辺境伯に宣戦布告してくる可能性がある。


 反面、私たちの居所がマクラン王国なら、そう簡単には宣戦布告できない。

 軍事力に差があって、勝てる可能性が低いからだ。


 だが、いずれにせよ、どちらかに宣戦布告された時点で、マクラン王国は参戦する。

 秘密裏に辺境伯とは同盟を結んでいるからだ。

 そういう意味では、私たちを辺境伯領に置いておいて、辺境伯相手の宣戦布告をさせてしまうのは、マクラン王国にとっては好都合だ。

 

 ただ、その選択肢は取らないようだ。

 そのままマクラン王国も巻き込んで戦争になれば、マクラン王国は最前線に軍隊を送り込まないといけない。

 その場合、私たちに構ってなどいられなくなる。

 私たちは、単なる戦争の引き金としてだけ使われることになる。


 それに何より、マクラン王国内も戦争派と不戦派の争いがあるそうだ。

 私とソフィーを手に入れたことで、戦争をせずとも獣人たちを解放できる可能性が高まった。

 それで、不戦派が力を大きくしているようだ。



 そういうわけで、私たちは辺境伯のお屋敷を出発した。

 モッフー王子たち特使団とその護衛も一緒だ。

 王子たちと私たちを別々に移動させたら護衛も2倍必要になるのだから、一緒なのは合理的だ。

 ふと、ブライアン王子はこういう時、合理性よりも見栄えとかを重視したなあと思った。


 ここでの生活は何不自由なくて良かったんだけど、人質なわけだし、こんな生活がいつまでも続くはずがないのは、分かっていたことだ。

 まあ、仕方ない。


 道中、マクラン王国での人質生活がどうなるのか不安でいっぱいだった。

 ただ、四六時中モッフー王子は紳士的で優しかった。

 ネコ耳のせいで種族の違いは感じるけれど、惚れてしまいそうだった。



 約ひと月近い旅路の末に、私たちはマクラン王国の首都ピローズに到着した。

 まずシーツ王に謁見したが、本当に挨拶だけだった。


 その後、私は王宮の傍の宮殿に連れて行かれた。

 ここで、賓客として暮らすように言われた。

 ソフィーとは、ここでお別れとなった。


「ソフィーと一緒じゃなくなるなんて、心細いですわ」

 私は、ソフィーの手を握りながら別れを惜しんだ。

 元々一人で町娘として暮らしていくつもりだったのに、すっかりソフィーに依存してしまっていた。

 本心から心細く思った。


「お嬢様とは、ここでお別れです。

 今後、私の助けはありませんが、代わりに優秀な者が付くことと思います。

 お元気で」


 ソフィーが、別れ際に耳打ちしてきた。

「もう、媚薬を使った補助も出来ません。

 でも、モッフー王子に仕掛けておきましたから」


「えっ、モッフー王子に?」


「ええ。お嬢様が、モッフー王子に並々ならぬ視線を送っておられたので、気を利かせておきました。

 お嬢様の方にその気がなくとも、損にはならないでしょう」


「えっ、私が視線を?

 それって……」

 そんなこと、したっけ?

 無意識にしていたのかしら?


 戸惑っている私をよそに、ソフィーは意味深な微笑みを残して、風のように去っていった。




 用意されたお部屋は、やはり豪華な作りで少し安心した。

 ここでも、いい待遇が期待できそうだ。

 また、フカフカのベッドに体を投げ出したかったが、今日は国王と謁見したので、超正式なドレス姿だ。

 自分一人では、脱ぐことも出来ない。



「カットリーヌさまーーっ」

 聞き覚えのある声に振り向くと、メイド服を着たエリザベスが立っていた。


「あなた、どうしてここに?」

 さっきのソフィーのモッフー王子への媚薬の話といい、突然のエリザベスの登場といい、想定外の連続だ。


「私が安全に逃げられる先は、マクラン王国しかなかったんですよ。

 ブライアン王子が敵視していたのはマクラン王国でしたから、マクラン王国と同様に嫌われている私をかくまうと、王家と対立することになってしまいますから」


「いえ、あなたがマクラン王国にいることは不自然ではないのですが、このお屋敷に、しかもメイド服で待っていたのが驚きだったのですけど……」


 エリザベスは、ニッコニコの笑顔で答える。

「私がマクラン王国の庇護下に入るのに特に問題は無いようでしたが、私にはカトリーヌ様のような高い地位も、ソフィー様のような特殊技能もございませんので、ちゃんと働くことを要求されました。

 そんな時、カトリーヌ様たちがこちらにいらっしゃることを知ったんです。

 もう、嬉しくて嬉しくて、すぐにいろんな方にお願いして、カトリーヌ様のお付きのメイド役を勝ち取ったのです」


「勝ち取ったって、そんな大げさな」


「大げさじゃありませんよ。

 たくさんのライバルを蹴落として、獲得したんですから」


 うーん、本当かなー。

 ちょっと分からない。


 とにかく、エリザベスを筆頭に数名のメイドたちにドレスを脱がせてもらって、部屋着に着替えた。

 さて、ベッドに寝転がってやろうと思うと、他のメイドは部屋を出て行ったのに、エリザベスだけ残っている。


「もう今日は国王との謁見も終わりましたし、このお部屋でゆっくりできるみたいです。

 なので私、もうベッドで横になって休もうと思っているんですけど」


「そうですね」


「そうですねじゃなくって、私ここで寝ちゃおうかなって思ってるんですけど」


「ご安心ください。

 私が見守っています。

 ウフフフ、カトリーヌ様の寝顔が見れるなんて役得じゃないですか」


「ベッドに入ってきたりしないでしょうね?」


「ええっ? 入っても良いんですか?」


「ダメですっ」


 エリザベスが、ガッカリしている。

 ちょっとどういうこと? と抗議したい。

 あなたはこの舞台の主人公なのよ。

 私の寝顔を眺めたり、ベッドにもぐりこもうとするような変態の役どころじゃないんですから。


 しかし、私を死に追い込む主人公が私の使用人なわけだ。

 ブライアン王子からも逃げきったっぽいし、フラグブチ折りまくりじゃない?

 少なくとも、もうブライアン王子に殺されるストーリーラインには行かない。


 色々と想定外な出来事に襲われまくりだけど、私、大勝利って言っても良いんじゃない?

 やっぱ、ダメかなあ。

 こっから先、何が起こるか、どうなっちゃうか、全然分からないもんね。

次回更新は、来週水曜日の予定です。

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