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18.ソフィーの過去

 ハミルトン伯邸では、個室をあてがわれた。

 管理の行き届いたキレイな部屋だ。


 周りに誰もいないので、服も着替えずにドッとベッドに倒れ込んだ。


 フカフカだー。

 体がベッドに沈み込む。

 ここしばらく木賃宿に泊まっていたせいで、木の上に直接シーツを敷いているんじゃないかと思えるほど固いベッドで寝ていた。

 毎日、朝起きると背中が痛かった。

 こんなベッドで寝れるなんて、久しぶりだー。


 私は感動しつつも、こんなことで町娘として暮らしていけるのだろうかと、自信を失いつつあった。

 しかし、完全には信用をおけないフレディとの旅で、四六時中ソフィーの目の前にいたこともあり、誰の目もない個室の柔らかいベッドの上に寝ころんだ私は、一瞬で眠りに落ちてしまった。




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---------


「お嬢様。

 カトリーヌお嬢様」


 耳元で声がしたので、目を開ける。

 ソフィーだ。

「ソフィー、おはよう」


 あれ、私、どうしてこんな知らないベッドにいるの?

 ここは何処?


 っと、思い出した。

 逃避行の末に、ハミルトン辺境伯の家に泊めてもらったんだ。



「おはようでは、ありませんよ。

 夕食の支度が出来たそうなので、お呼びに参りました」


 夕食の時間なのね。

 何時に着いたのかは分からないけど、多分ある程度長時間眠りに落ちていたのだろう。

 私は、あくびをしながら荷物の木箱の一つを開ける。

 ここに、ドレス類をしまってあるのだ。


 ただ、町娘になるつもりだったので、ドレスといっても簡素なモノを一着持ってきただけだ。

 ソフィーに聞く。

「辺境伯の家にお世話になるのは、一泊だけだよね?」


「いえ。おそらく何日かは泊まることになると思います。

 何か問題でも?」


「貴族の家でお食事は、想定していなかったんですよ。

 町娘になるつもりだったので。

 ドレスは、これ一枚しか持ってきていません」

 ちょっと泣きそうな顔で訴えた。


「心配ありませんよ、お嬢様。

 辺境伯は、少し前まで娘さんが一緒に住んでいましたから。

 そのドレスをお借りすれば良いんですよ」


「そ、そうなの?

 まさか、娘さんがいたって、お亡くなりなったとか?

 そんなんじゃないですよね?」


「大丈夫ですよ。

 三年前に結婚して出ていかれたんです」


「そ、そう」

 私は、一安心した。



 食堂には、ハミルトン辺境伯夫妻とフレディが座って待っていた。

 辺境伯夫人は、うさ耳の獣人だった。


 私とソフィーは、三人に向き合って座った。



 前菜が運ばれてくると、ハミルトン辺境伯は嬉しそうにほほ笑んだ。

 そして語り始めた。

「ノエビア公爵のご令嬢であるカトリーヌ様、そして当代一の薬学の天才ソフィー様。

 お二人にお越しいただけて、本当に光栄なことです」


「当代一の天才?

 ソフィーが?」

 私は、挨拶もそこそこに思わず聞き返してしまった。


「知らなかったですか?

 彼女の偉大な功績を」


「功績?

 存じ上げませんけど……」

 いや、そう言えば、媚薬の研究で自分に惚れる薬を自分で飲んで、仮死状態になったとか言っていたな。

 媚薬の効き目もすごかったけど、そこまでやるのが凄すぎると、その時思った。


「ソフィー様はね、心を操る薬の第一人者なんですよ。

 異性に惚れる薬、何日でも眠らずにいられる薬、何日も眠り続ける薬、一時的に数日間の記憶を失う薬、記憶力を数倍に強化する薬など、多種多様な薬を自在に作れることで、知る人ぞ知る天才なんですよ。

 ノエビア家が公爵にまで上り詰めることができたのも、ソフィー様を使用人としてお迎えしてからだと言われています」


 それを聞いて私は、ソフィーに聞く。

「あなた、そんなにすごい人だったの?」


 大体私は、『カトリーヌの媚薬はメイドのソフィーが用意してくれた』と安易に設定を決めていた。

 でも、よく考えたら、あんな強力な媚薬を作れるなんて、天才じゃないと無理だ。

 そんな天才が悪役令嬢付きのメイドだなんて、私の考えた設定、穴が大きすぎだったようだ。



「いいえ、お嬢様。

 私は、薬を作ることが生きがいなだけです。

 ノエビア家にお仕えしてきたのも、自由に研究できる環境を用意いただけたからです」


 ハミルトン辺境伯は、残念そうな表情を浮かべる。

「そうなんだ。

 ソフィー様が魔法大学を卒業されるとき、各国の主だった貴族が争奪戦を繰り広げたんだが、なぜだかノエビア公爵がかっさらっていったんだ」


 ソフィーは、毅然と答える。

「他の貴族の方々は、私の薬を使って競争相手をつぶしたり、戦争の道具にしようとする方ばかりでしたから。

 みなさん、作った薬につき金をいくら払うとか、そういう交渉ばかりされました。

 薬を作ることにノルマを課さなかったのは、公爵様だけだったんですよ」


 辺境伯は、快活に笑う。

「つまり、自由に好きな薬を作ることを許されたから、ノエビア公爵のもとにいったわけだ」


「そうですね。

 でも、それだけでは無いですけど」


 辺境伯は興味津々だ。

「ほお、他に何があったのかな?」


「薬学者としてではなく、お嬢様の使用人メイドとして雇って下さるというところが最大の魅力でした」


 思わず、私から質問してしまう。

「えっ、そうだったの?

 私のメイドをすることが、どうして魅力に感じたのですか?」


「まず、かわいいメイド服を着てみたかったのが第一です。

 そして、幼いお嬢様のお世話係なんて、楽しいじゃないですか。

 今は幼くなくなってしまいましたけど」


 まさか、幼い女子を薬の実験台にしたかったとか?

 ちょっと勘ぐってしまう。


「稀代の天才が公爵令嬢のメイドになったのは、そんな理由だったんですか」

 辺境伯は、意外そうだ。

次回更新は、1月1日元旦の予定です。

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