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15.逃亡するヒロイン

 ひとまず、辺境伯領を通って、マクラン王国には逃げられそうだ。

 そこで、絵描きとして生きていくとしよう。

 画材とかだけ準備して、絵の練習だけは始めておこう。



 さて、公爵家から逃げるとなると、怖いのはソフィーだ。

 彼女は、私のメイドというよりも、ノエビア家のメイドだ。

 彼女に惚れる効能のある媚薬を飲まされたら、どんな悪辣なことを命令されても逆らえない。

 公爵家から逃げられないだけでなく、漫画のストーリーのまま、王子に媚薬を飲ませてエリザベスを排除しようとして、殺されてしまう未来が待っていそうだ。


 それで、毎日少しずつ逃げる準備をした。

 学校帰りに王都の外に出て、公爵家の騎士団の詰め所に行った。

 絵の道具とか、庶民を装う衣服など、色々なものをそこに隠した。


 使用人たちに見つからないようにフレディとも話し合って、細かい逃走経路を詰めていった。



 着々と準備を進めていったある日、登校した廊下でエリザベスに呼び止められた。

「少しお話を聞いていただいて、よろしいでしょうか?」


「ええ。かまいませんわ」


「では、中庭ででも」


 というわけで、少し前にエリザベスとブライアン王子が密談をしていた場所に来た。

 ここは、確かに誰にも話を聞かれない。

 ただ、この間のように廊下から話をしているのが見えるのよね。



「カトリーヌさまー」

 二人きりになると、エリザベスは、いきなり胸に飛び込んできた。


「ど、どうしたのかしら?」


「お別れの時が来てしまったのです。

 カトリーヌ様と二度と会えないかも知れないと思うと、悲しくて悲しくて……」

 エリザベスは、涙を流している。


「えっ? どういうことですの?」

 私は、動揺を隠しながら胸にうずまっているエリザベスに聞く。

 カトリーヌの胸は、大きい。

 片山ノエルの時には、全く無かったのに。

 元々コミュ障女子だったこともあり、大きな胸は邪魔で仕方ない。

 いくら漫画だからといって、大きく描きすぎたかと後悔していた。

 ずっと、もう少し大きければなあなどと悩んでいたのに、勝手なものである。


 それはさておき、エリザベスは私の質問に答えた。

「今から私は、王都を離れます」


「王都を離れるって、どういうことですの?」


「この前の王城で行われたパーティーを覚えていますか?」


「それは、忘れるわけありませんわ。

 私は、変な薬を飲まされて気を失ってしまいましたし。

 エリザベスさんが助けてくださらなかったら、どうなっていたことか」


 気を失ったままエッチなことをされていたことは、想像に難くない。

 まあ、結婚するんだから、問題ないという考え方もあるでしょうけど。

 でも、あの一件で私は、急激に王子に嫌悪感を抱くようになってしまった。

 なんだか気持ち悪く感じる人と結婚するのは、やっぱり嫌だ。


 エリザベスは、私の目をジッと見ている。

「そうですね。その点は良かったです。

 でも、実はあのパーティーは、王家に対する裏切り者をあぶりだすことが目的だったそうなんです」


 そう言えばそうだった。

 王子は、そのために心が読める魔法使いまで連れてくると言っていた。


「まさか、エリザベスさんがそれに引っ掛かってしまったとか?」


「そうなんですよ。

 王子の邪魔をしたから」

 エリザベスは、悔しそうだ。


「でも、王家の婚約者を守ったわけでしょ?」


「王子の魔の手から守ったわけですから。

 王子からしたら、王家に敵対する行為なわけです」


 確かに、女の子を薬で眠らせて酷いことをしようというやからだ。

 邪魔する者には、卑劣な言いがかりをつけるのは間違いなさそうだ。


「それで、王都から逃げるということなんですね?」


「はい。

 カトリーヌ様に会えなくなることだけが、心残りです」


「でも、実家に逃げ帰るだけでしょ。

 ほとぼりが冷めたら、また王都に来れば会えますわよ」


 エリザベスは、うつむいて小声で答えた。

「実家には帰れません。

 王家への反逆者の汚名を着せられたわけですから。

 実家の両親も、家を守るために、私とは無関係だと言い張っているのです」


「そ、それは酷いですわね。

 どこか、行くあてはあるのですか?」


「いえ。

 ただ、すぐにでも逃げないと、間もなく憲兵隊が私を捕まえに来ると思います。

 さようなら、カトリーヌ様。

 お元気で」

 エリザベスは、涙を手で拭うと、走り去っていった。


「待って、エリザベスさん」

 一瞬、私は自分が逃げるために準備していることを告げて、一緒に逃げることを提案することも考えた。

 私は、逃げる彼女を追いかけていくが、走る速度が全然違う。

 ドンドン離されていく。


 エリザベスは裏門に向かって走っていくと、裏門の鉄製の扉をヒラリと飛び越していった。


 な、なんという身の軽さだろう。

 そして、スカートの中が丸見えだった。

 ヒロインらしからぬ行動だ。

 あと、あんな身体能力を持っているなんて、そんな設定した覚えはない。



 エリザベスが走り去ってしまった後、私は呆然と立ち尽くしてしまった。


 もしかして、ヒロインがいなくなったから、私の破滅ルートも消え去った?

 いや、そんなはずはない。

 頭の中でグルグルと考えが巡る。


 私の考えたストーリーでは、パーティでカトリーヌに陥れられたエリザベスは、確か今頃に王都から逃亡したはずだ。

 一旦は、ヒロインの命を狙うカトリーヌの放った追っ手を振り切る。

 だが、王子の追っ手に捕まってしまう。

 でも、そこで王子は媚薬の呪縛から醒めて、エリザベスのことを好きだと告白するのだ。

 そして、すべてがカトリーヌの仕業だとなって、婚約破棄に突き進む。


 ここから、すべてが私の仕業となるか?

 それは、無理がありすぎだろ。


 しかし、私はストーリー上では悪役だ。

 エリザベスが私を助けたように見えるが、実は私が仕組んだことになるのか?

 うーん、なるかも知れない。


 エリザベスは可愛い。

 天下無敵のヒロインだ。

 

 そして、あの王子のことだ。

 私から、かわいいヒロインに乗り換えることなど容易に想像がつく。

 王族の義務として私と結婚するより、かわいい主人公と結婚する方を選ぶだろう。

 やっぱり、ヤバい!


次回更新は、来週の水曜日の予定です。

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