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本編#5 意識喪失

 燃える愛車で、私の意識は着実に闇へ落下していた。

 髪が焼け、肉体が炙られ、鋼鉄の装甲が溶け出し、不快な臭いが焼き爛れた鼻の奥を刺激する。大火傷を引き起こしていて、身に纏っている衣服は接着剤で固定されたかのように肌と同化している。これまで味わった事のない、気持ち悪い感覚だ。

 自分以外の仲間はもう、息絶えている。ヨハネスは身体が吹き飛んでいて、原型そのものが無い。その他の仲間は人間の形こそ保っているが、身体の芯まで焦げているので、見ただけでは性別の特定は困難だ。私は彼らの事をよく知っているので、男だという事は一瞬で理解出来るが、私達の亡骸を回収する者は性別なんて分からないだろう。

 開いていた瞼は、自身の命の終焉を悟ったのか、勝手に閉じようとする。

 視界も、赤い光景に黒い靄が掛かっていた。

 人は何度も殺した事があるが、私は死ぬという感覚を知らなかった。いや、戦車を撃破されたらすぐに死ねると思っていたのだ。でも、それは私の想像だったらしく、実際はもがき苦しみながらあの世へ導かれるみたいだ。

 あの世……いわゆる天国が実在するのかは分からないが、仮にあるならば私はそこには行けないだろう。その代わり、人間の命を数え切れない程奪ったので、自らが犯した罪を償うために閻魔様が待っている地獄へ送られるだろう。別にそんなのは怖くとも何ともない。数ある他人の人生を、壊してきたのは事実だからだ。殺人に慣れてしまってからは深く考えた事が無かったが、他人を破壊する程の重罪はこの世にないだろう。でも、それを私は何度もやってしまったから、地獄へ行くのは当然と思える。

 ただ贅沢な事を言うと、もう一度生き返りたいという気持ちもある。誠に自分勝手な思いだが、ティーガーには色々な思い出が詰まっているのだ。単騎で敵の基地に突撃したり、整備に手間のかかる転輪を一枚ずつ外して綺麗に清掃したり、ティーガーに心は無いが、私との間には確かな絆があった。ティーガーは無機物だが、私からするとティーガーは頼りになるけどお茶目な一面もある、最高の相棒なのだ。

 兵器は本来、人を蹂躙するために造られた存在だが、私の中ではティーガー217号車は心優しい虎だ。

 そんな相棒とまた戦場を駆けたいと心のどこかで願っていると、真っ赤な視界がどんどんと縮小されていった。

 そして、暗闇が眼界を覆いつくしたところで、私の肉体と精神は葬られた。

ここから異世界転生が始まります……

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