本編#23 唐突な戦いの予感
扉までは数歩。別に急ぐ必要はないだろう。
「何が出るか――――な……!?」
出される食事がどんなものか想像した瞬間、村のどこかから激しい砲撃音が耳に突っ込んで来た。砲撃は一度ではなく、何回にも及ぶ大規模な攻撃だ。
砲撃が鳴り止まない中、ふとユーリイがある事を言っていたのを思い出した。
「そういえば、この辺りは戦いが激しいと……」
そう、自分が今居る村とそれを含む地帯はいつ戦闘が発生してもおかしくない地域であり、その敵軍が今になって攻め込んで来たのだ。
私はドイツ軍人でありこの国家の兵士ではない。だが、戦いを傍観する事は出来ない。とにかく、戦場へ向かわなければモヤモヤするのだ。
扉を壊す勢いで開けると、親切な主人が壁際で怯えていた。
主人を安心させたいが今はそんな呑気な事をやっている場合はないので、部屋を出るとすぐに玄関まで走り抜こうとした。
「ま、待ってください、外は危険ですよ。貴方もここに隠れていた方が……」
心優しい宿主は私にそう説得するが、
「心配を掛けて悪いな。ただ、私はこれでも軍人なんだ」
ポケットに大切にしまっていた札を全て握り取ると、それを主人の方へ投げた。
何円の価値があるのかも分からない札はパラパラと雨のように床へ落下した。
「こ、こんなに……」
「僅かだが私からのお礼だ。では、行って来るぞ」
主人とは真反対の方向を振り向くと、すぐにでもティーガーに乗り込むために廊下を全速力で掛けた。
廊下を突き抜け、待合室に出てくると、その勢いを保ったまま外に出る扉を乱暴に押し開けた。
道には民間人と兵士が交互に行き交っており、兵士は焦った表情を浮かべ、敵の手から逃げ惑う一般人の顔には恐怖で支配されていた。
「大変な事になったぞ」
近くからはさっきよりも苛烈な爆音が響き渡っていて、大規模な戦闘に発展しているのはこの場でも分かる事だった。
交差する民間人と兵士に巻き込まれないように注意しながらティーガーの元へ急ぐ。
津波のように移動する人々を払いながら走る。
その人混みに何度も押しつぶされそうになったが、何とかティーガーを停車している井戸の横まで到着した。
ティーガーの停車位置には既に私以外の仲間が揃っており、出撃を待ちわびていた。
「申し訳ない、待たせたな」
手短に謝罪を済ます。
「別にいいぜ、それより早く行こう」
「そうだな……いや、ちょっと待て」
エルンストに出撃を促された時、ユーリイの姿が無い事に気が付いた。
「ユーリイは?」
「来てないな。でも、ここで待っておくわけにはいかないからな」
何となく来た道を振り返ってみると、増援と思われる兵士の集団が村の外周へ向かっており、村の防衛隊が敵に圧迫されているのが一目で分かった。
私達にとっての重要人物であるユーリイが居ないが、これはもう行くしかないだろう。
「乗り込め。すぐに村の外側へ行くぞ」