本編#18 森の起床
太陽が昇り、動物達の穏やかな囀りが聞こえる中、自分は仲間達の声によって目が覚めた。
まだ眠りたいと言いたげな瞼を無理やりこじ開けながら、服に付いた土を払いつつ身体を起こす。
自分の周りを見てみると、エルンストもミハエルもオットーも、昨日出会ったばかりのユーリイも立っていた。どうやら、私が一番起きるのが遅かったようだ。何時かは分からないが、車長である自分が皆よりも起床するのが遅れた事に多少の悔しさを覚えていた。
寝坊は後で反省するとして、とりあえず立ち上がる。
「おいペーター、こんな所で寝てたら風邪引くぞ?」
エルンストが心配そうな声でそう言ってくる。
「悪いな。疲れが溜まっていたんだ」
「全く……お前というやつは。面倒でもティーガーで寝るんだぞ」
「そうだな、これからは気を付けるよ」
軽く笑いながら彼の注意を受け入れる。
仲間に、それも一応部下の男に説教されるなんて初めての経験だが、実際私は全員に心配を掛けてしまったので、野外で睡眠を取った事はきっちきりと反省すべきだろう。
「さて、俺の話を聞いてくれるか?」
寝癖で神の毛が変形しているユーリイが私達に問い掛けた。
「ああ、いいぞ。皆も静かにしておくんだぞ」
エルンストが自分の横に立ち、未だ眠そうなミハエルとオットーも拙い動きで私の左に移動して来た。
私達4人が横に一列に並ぶと、ユーリイが口を開けた。
「もう少しで行く村の概要を話すぞ」
彼はこの世界にまだ慣れていない私達に今から向かう村の事を説明してくれるみたいだ。非常にありがたい。
「村は小規模で、いわゆる農村ってやつだ。電気とガスもそれ程通ってない。で、そこに行く目的だが、その村に居る俺の仲間と接触する為だ。いや、怪我をしているからどちらかと言えば看病か? まあとにかく、仲間と会わないといけないんだ」
ユーリイはこれから会える自分の仲間と交流出来る事が嬉しいのか、顔には笑みが浮かび上がっていた。
「わざわざ済まないな」
朝っぱらから長い説明をさせてしまい、私は素直に謝った。
「いいよ別に。説明が無かったら何も分からないからな」
面倒臭い事をしてもらったのにもかかわらず、ユーリイは邪気の無い活発な笑顔でそう答えた。
村の中身と向かう目的も一通り聞き終えたので、後はティーガーを整備すればいつでも行ける訳だが、その前にやっておくべき事がある。それは朝食だ。今の私はそんなに腹は減っていないが、何も食べないまま動くと倦怠感が襲ってくる場合があるので、行動に支障をきたさないためにも食事や水はこまめに口に入れておいた方がいい。
だが、飯はどうするか。食べるのは一旦置いておくとして、肝心の食料が無いのだ。ティーガーの車内にはいくつかの缶詰が収納されているが、あれはあくまでも非常食であり、無闇に食べるものではないのだ。
食料不足問題をどう解決しようかと迷っていると、ある事を思い出した。
「そうだ、近くに川があったはずだ」
その川は昨日、二度も渡った。廃村に辿り着く時と、そこから戻って来る時にだ。
「皆、今から朝食にしよう。私は川で魚を獲って来るつもりだが、もう一人来てくれないか?」
寝起きなのにこんな事を言って申し訳ないが、釣りの作業は分担した方が早く終わるので、あと一人居てくれると食料確保が順調に進むのだ。
「じゃあ俺が」
エルンストが手を上げながら前に立つ。
「いいのか?」
「ああ、その方が捗るんだろ?」
彼は穏やかな笑顔を作り、明るい声を放った。
「ありがとう。では……」
3人に焚き火の準備をしてくれと言おうとした時、オットーが私よりも先にそれを言った。
「火はこっちで起こしておくので、ゆっくり釣ってもらって大丈夫ですよ」
オットーの発言に、ユーリイとミハエルも「任せてくださいね」「ちゃんと獲って来るんだぞ」という言葉を私達に掛けてくれた。
本音は皆と一緒に作業を行いたいが、私には食料を持って来るという重要な仕事があるので、彼らのその厚意に感謝しつつ、こっちは自分の役割に専念する事にした。
私とエルンストが横に並ぶと、ここで調理の準備をやってくれる3人に手を振りながら出発の掛け声を出した。
「行って来るぞ」
まずはエルンストが言い、
「すぐ戻るからな」
最後に私が発言する。
「行ってらっしゃいませ!」
「ああ、行って来い!」
可愛い少年2人と逞しい兵士の声を聞くと、私とエルンストは川の方に向かって進み出した。