本編#17 疲れ切った身体
私の拙い説明から数時間が経過。
自分なりになるべく簡潔に教えようと心掛けていたが、自分もこの事態を未だに受け入れられていないので、当然2人が理解するには多大な時間を必要とした。口籠っている私にミハエルとこの世界の住人であるユーリイが助けを申し出てくれたが、それでも2人を納得させるのは非常に困難だった。
明るかった辺りは、すっかり真っ暗闇に変わっている。
時刻はさらに過ぎ去り、深夜1時になっていた。ユーリイも乗員達もティーガーで眠っている。私は「警備を行う」という理由でまだ起きているが、本当はこれからが不安で眠れないだけだ。
火が激しく燃える焚き火の前に座る。
「タイムスリップでもないとはな……」
バチバチと、音を鳴らす焚き火の手前で私は元気なく呟いた。
仮に今起きている出来事がタイムスリップだとしても、ドイツやソ連はある筈だ。しかし、この世界は私が居た世界に似た世界なのだ。つまり、異世界というやつかもしれない。
「それにしても、1916年か」
ユーリイが言っていたが、この時代は1916年らしい。その年代と言えば、丁度第一次世界大戦が行われていた頃で、自分の父親も先の大戦に兵士として従軍していた。
「そして、ここでも戦争が起きていると……」
はっきりとは理解出来なかったが、ユーリイが言うにはこの地で大規模な争いが起きているらしく、彼の故郷であるスヴェティーチは相当疲弊しているみたいだ。
「はあ、眠くなってきたな……」
ずっと戸惑っているとは言え、自分はちゃんとした人間なので眠気が不意に襲って来た。
睡魔に勝利する事は難しく、私は身体に力が入らなくなる感覚を感じ取った。
「駄目だ……もう寝よう」
明日はユーリイが私達をある村へ連れて行ってくれるそうなので、明日の行動に支障が出ないように、そろそろ睡眠を取る事にした。
私は帽子を脱ぐと、絨毯を編み出している落ち葉の地面に寝転がった。火を焚いてあるが外は寒く、本来はティーガーに戻って寝た方がいいのだろうが、疲れ切っていて、身体を起こすのも面倒なので仕方なくここで寝ると決めた。風邪だけ引かないように気を付けよう。
雑な姿勢で身体を寝かせつつ、目前で燃える炎を一点に注目する。
「これからどうなる事やら……」
独りでに囁いたその言葉は、自分の耳にも入らない程小さな声だった。
そして、疲れが溜まり切った私の身体は限界を迎え、深い眠りに落ちた。