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本編#16 再会

 なるほど――――ミハエルはティーガー(我が家)まで戻って来れたからあんな顔になったのか。私はユーリイとの会話に夢中で前をあまり見ていなかった。

 ユーリイが顔を困惑に染める。

 未だに信じきれないが今は1916年らしいので、第一次世界大戦と同じぐらいの時代に生きる人間がティーガーを直視すれば、誰だってユーリイみたいな反応になるだろう。

 ミハエルはティーガーに走り寄って行くが、私とユーリイは落ち着いた足取りでティーガーに向かう。


 「どうだユーリイ? これが私達の戦車だ」

 「すっげえ……」


 私は彼がどんなリアクションをするかちょっとだけ楽しみだったが、あまりにも驚き過ぎているせいか、彼の口から出た言葉は小さくて短かった。

 いつまでもユーリイの様子を楽しむ訳にもいかないと思い、ティーガーの鋼鉄の車体によじ登る。

 傷と汚れだらけのハッチを開けると、中には照明に照らされる人影があった。その人影こそ、私の大切な同僚であるエルンストとオットーだ。しかしヨハネスだけは居ないので、相変わらず違和感を覚えた。


 「おお、ペーターか!」


 エルンストは操縦席からこちらを見つめ、待っていたと言わんばかりに喜びの表情を浮かべた。


 「僕も帰って来ましたよ!」


 いつの間にか車体に上がっていたミハエルが私の横に割り込んで来て、ハッチに顔を近付けるとそう吹きかけた。


 「お帰りミハエル! 待ってたぞ!」


 砲手の補助を務めるオットーが元気に反応する。

 喜々とした空気が流れているが、手に入れた情報を説明するため二人に車外へ出るよう指示を下した。


 「すぐに降りて来るんだぞ。人も見つかって、外で待たせているからな」

 「人と会ったのか?」

 「ああ、それも私達と同じ軍人だ」

 「それは楽しみだ。すぐに行くよ、さあオットーも出るぞ!」


 エルンストは初めて会う私達以外の人間に期待を寄せると、オットーに外出を促した。

 私とミハエルは車内から出て来る2人の邪魔にならないように車体から飛び降り、柔らかい土の地面へ着地した。

 ティーガーから物音が聞こえる事数分、エルンストとオットーが眉間にしわを寄せながら下車して来た。

 2人は私の想像通り、怪訝な顔で周囲を見渡していた。


 「降りろ」

 「あ、ああ。オットーも降りるぞ」

 「は、はい」


 周りの光景に驚きつつも、2人は車体に座るとそのまま下半身を地面へずらし落としていき、ぎこちない動きで地上に降り立った。


 「その人が……」


 ユーリイを見つめるエルンスト。


 「ああ、ここで初めて会った人間だ。何でも、私達を手助けしてくれるらしいからな」


 ユーリイと出会った経緯を簡単に話すと、ユーリイが私の前にせり出て来た。


 「どうも、初めまして――――俺はユーリイ・イヴァ―ノヴィチ・モロトフ、スヴェティーチ軍に仕えている兵士だ。呼び方は好きにしてくれ」

 「自己紹介ありがとう。では早速、ここがどういう所なのかを……」


 説明しようとした時――


 「ちょっと待ってくれ。その人の名前、ソ連のやつじゃないか?」

 「確かに……本当に大丈夫なんですか?」


 ユーリイ・イヴァ―ノヴィチ・モロトフ。この名前は、どう見ても聞いてもロシア人が持つ名だ。そのため、エルンストとオットーは彼を警戒していた。

 ユーリイは危険な人物ではないと伝えようとしていると、彼が自分の事を話し出した。


 「ソ連とやらは分からないが、俺はお前達の敵じゃないぞ。まあ、怪しいといえばそうなんだが……とにかく、そっちが変な事をしない限りは絶対に危害を加えないから」


 その眼に邪心は無かった。瞳に浮かび上がっている全てが、潔白そのものだった。


 「分かった……疑って悪いな」

 「こちらも申し訳ありません」


 自分達の助っ人を敵として見てしまった事に、エルンストとオットーは謝罪の言葉を口に表していた。

 ユーリイに向けられていた疑いが晴れると、私はこの世界の事情について2人に伝授し始めた。まあ正直なところ、自分もあまり分かっていないというのが実情なのだが……

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