本編#15 ティーガーへの帰路
武器やその他装備の点検と、念のため体調不良になっていないか簡単な検査を済ませると、私達は必要な荷物を持って昼食を味わった廃屋から出て行った。
戦いで悲惨になった村から抜け出し、ここに来る時に通った深い森へ突入した。
「ちなみに、ユーリイは何であの村に居たんだ?」
横を歩くユーリイに喋り掛ける。
「金属類の回収さ。何せ、俺らの国は資源が全く足りていないからな。だから、ああやって使える金属が無いのか探しているんだ」
資源不足で思い出したが、ドイツの兵器も末期の頃には最悪の品質に変化していた。例えば、パンターという強力な傾斜装甲を備えた戦車があるのだが、戦局が悪化した事でパンター自慢の肉厚な装甲は割れやすくなってしまった。確かに装甲は分厚いが、それはただ単に硬いだけであり、靭性が不足していた。つまり、パンターの装甲は固まった粘土のような感じだ。粘土で何かを作りふとした拍子に落としてしまったら粉々に割れるが、まさにそう言った現象がパンターや他の戦車でも発生しているのだ。
私のティーガーはドイツが本格的に劣勢になる前に造られた車両なので、簡単に装甲が潰されるという事はないだろうが。
「でもユーリイは歩兵小隊の隊長なんだろ? そんな雑事は部下にやらせた方が効率的だと思うが……」
部下の上に立つ者は基本的に暇な時間など存在しない。ずっと忙しい。四六時中仕事に追われている。
「そうしたいんだが……部下はほとんど怪我してるからな。死んだ奴もちらほら居るし。で、小隊の中では隊長の俺が唯一まともに動けるんだ」
「なるほど、そういう事もあるのか。大変だな」
「その通り大変だな。でも、部下が困ってるんなら指揮官が動くしかないだろ? そういうのも、隊長の立派な仕事だと思うぞ」
ユーリイは微笑みながら誇らしげに言う。
彼とはまだ知り合いの範疇だが、その発言ぶりからユーリイは仲間から好かれている人間だと確信した。私に他所の指揮官を悪く言える筋合いはないが、ほとんどの部隊では指揮官は傲慢な奴ばかりだ。だが彼は明るい雰囲気に反して誠実な者だ。そういう人間は、人気になりやすいだろう。
森を抜け、川を渡河し、また森へ入る。
ティーガーが待っている場所までもう少しだが、私とユーリイの雑談は続く。
そんな風に彼とのお喋りを楽しんでいると、ミハエルが動かしていた足を急に止めた。
ミハエルの口角が少し上がる。何かに喜んでいるのだろうか。
「二人共、アレを見てください――――」
彼が指さす方に視線を注ぐと、そこには私の親愛なる相棒が圧倒的な存在感を放って待ち構えていた。