本編#14 身分情報
「戦争、世界大戦だ。とても悲しくて、恐ろしいかったよ」
自分の故郷がフラッシュバックする。
脳内では美しい街が延々に並ぶベルリンと、爆撃で醜い有様になったベルリンの風景が映画館のスクリーンのようなものに映っており、縦に分割されて流れていた。
祖国に対する想いが顔に出ていたのか、ユーリイに心配の声を掛けられる。
「お、おい、大丈夫か?」
「悪い……ベルリンの事を思い出していてな……」
謝罪と自身の感情を簡潔に言ったが、それでも脳にはまだベルリンの映像が再生され続けていた。
「それで、私達はその街で敵に殺されたんだ」
「じゃあお前らは死人って事か?」
「普通はそうなるな。だが、気が付いたら戦車で目覚めて、息をしていたんだ」
「戦車だと?」
「ああ、私もミハエルも戦車兵だからな」
「戦車ってあの戦車か?」
あの戦車とは、第一次大戦で英軍が使用していたマーク戦車のような菱型の車両を指しているのだろうか? 私の愛車たるティーガーはそんな時代遅れのポンコツではなく、ドイツの科学者達が最先端の技術を詰め込んだ重戦車だ。まあ、そのティーガーも大戦末期には少し陳腐化していたが……
こんな調子で私が持っている全ての事情を話し終えると、ユーリイは怪訝な顔つきになりながらも内容をまとめようとしていた。
「えっと、要するに死んだと思ってたけど何故か生きていた、って考えでいいか?」
「それで十分だ。話を聞いてくれてありがとう」
ユーリイからしても私達はどういった人物なのか分からないだろう。それなのに彼は真面目に聞いてくれたのだから、その態度には素直に感謝した。
ユーリイがソファから立ち上がると、座っている私とミハエルを見下ろした。
「俺は今から数キロ先にある村に行くが、お前らも来るか?」
彼から思いもよらない提案をされ、私とミハエルは互いに見つめ合った。
「車長、これは行った方がよさそうですよ」
「そうだな……もっとこの世界を知りたいしな」
情報収集のためにも彼に着いて行く事に決めた。
「ユーリイ、私達も連れて行ってくれ」
「分かった。早速行こう……と、その前に、確か仲間が居るとか言ってたよな?」
「ああ、そこまで案内するよ」
ティーガーに残っている2人に今のこの状況を教えたら、さぞかし驚くだろうなと心の中でそっと呟いた。