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本編#13 異世界情勢

 「ユーリイ、ずっと訊こうと思っていたのだが、ここはどこなんだ?」

 「え? 知らないのかよ」


 すると、丁度食事を終えたミハエルが私達の会話に混ざって来た。


 「実は僕達は、気が付いたらここに居たんだ。他にも仲間が居る」

 「仲間が居て……それから気付いたらここに居ただって……? それは、何かのおとぎ話か? 生憎、俺は本なんか興味ないからな」

 「創作じゃないぞ。これは実話だ」 


 信じてもらえなければ今後の物事が進まないと悟ったので、私は少し強気な態度でそう彼に発言した。


 「そ、そこまで言うなら……分かったよ、説明するから」


 私の表情に圧されたのか、ユーリイはソファの背もたれに身を引くと、抱え持っていた突撃銃を私に戻した。


 「じゃあ、この国とか情勢とかを話すから、ちゃんと聞いておいてくれよ」

 「ありがとう。では早速、解説してくれ」

 「一応メモ取っておこう……」


 普段から真面目な性格を貫くミハエルはポケットからペンとメモ帳を取り出し、いつでも話を聞き取れる態勢になると、ユーリイはそれを見計らい本題を語り出した。

 何分、何十分経ったか分からないが、彼の長い説明はようやく終わった。ところが、全く理解出来なかった。というよりも、彼が言っている内容は全て不思議な事ばかりなのだ。

 まず、私達が今居る場所は1916年のスヴェティーチという国家らしいのだが、そんな国名は聞いた事がない。そして国民の生活様式も詳しく話してもらえたが、信じられない事に何でもこの国というか世界の大部分は魔法とそれから派生した魔術で構成されているみたいで、その要素は文化にすっかり溶け込んでおり、国民からすればそれらは生きる上で欠かせない存在となっているらしい。だが、数年前に隣国に位置するクースベリ連合共和国が『技術革命』を成し遂げ、その国家は世界的に見ても珍しい科学が発達した国になったそうだ。どの国にも劣らない最新の科学技術を手に入れたクースベリは他国に自分達の技術を提供したそうだが、魔法や魔術などを使用する『異能力民族』は文化の秩序を理由に、その提供を断ったらしいのだ。確かに、自分の国の文化が得体の知れないものによって浸食されるのは喜ばしい事ではないだろう。

 しかし、クースベリの技術向上と提供は衰えず、数年前にスヴェティーチ国内で科学反対派によるデモ活動が何度も行われ、その際休暇を楽しんでいたクースベリの科学者が魔術民族に属する男に殺害されたのだ。その情報はすぐさまクースベリの首相の耳に入り、優秀な科学者を殺され激怒した首相はスヴェティーチの政府に対して宣戦布告を表明した。

 スヴェティーチに配属されている兵士のほとんどは高度な魔術教育を受けた軍人であり、実戦経験は少なかったが開戦しても一カ月もあれば終わるだろうと高を括っていた。だが、その理想は早くに打ち砕かれる事になった。クースベリ共和国軍は菱型戦車や飛行機、毒ガスと言った既存の兵器を覆す性能を有する新兵器を戦場に大量投入し、見た事のない兵器に戸惑っているスヴェティーチの兵士達を翻弄したそうなのだ。その後、スヴェティーチ軍はさらに兵力を増強したが、クースベリの強力な兵器を倒す根本的な解決には至らず、現在では国土の半分以上を占領されているそうで、この地域も占領地帯に近いそうだ。

 ……以上が彼から受けた細かな説明だが、いくら脳を全力で稼働させても、年代と戦争状態になっているという事実しか理解出来なかった。そもそも、魔法やら魔術なんてこの世に実在しないと思うのだが。


 「まあ、とにかく説明ありがとう」

 「分かったか?」

 「いや、あまり。でも、危険な状態になっているという事は分かったよ」

 「そうか……ちなみに、お前達はどこから来たんだ? 他にも仲間が居るらしいが……」

 「待ってくれ……」


 ユーリイの質問に、私は一旦考え込む。

 彼とはさっき知り合ったばかりで性格も意外とよかったが、まだユーリイとはそんなに会話もしていないし素性もはっきり把握していないので、私は自分達の情報を正直に話すか迷った。それに彼の名前はどう考えてもソビエト系であり、もしかするとこれは罠なのではないかと少し疑っていた。


 「おいおい、顔が怖いぞ? さっきの俺みたいになってるぞ」


 掛けられた言葉で、私は下を向いていた頭を上げ、彼の方を見た。


 「すまないな……ちょっと考え事をしててな」

 「そうか。で、どこから来た?」


 そう言う彼のユーリイの目は穏やかで、敵意は一切無かった。だが、こちらとしては安易に身分を明かす訳にもいかないので、彼の問い掛けに答える前に私は簡単な質問を彼に飛ばした。


 「ソビエト連邦は知ってるか?」

 「そ、そびえとれんぽう……? 知らないな。人の名前か?」

 「いや、知らないならそれでいい」


 ユーリイは不慣れな言い方で「ソビエト連邦」と発しており、彼はソ連の事を本当に知らないのだと確認出来た。

 ユーリイがソ連関係の敵では無いと知ると、私は大きく深呼吸をして、これまでに起こった出来事を話し始めた。

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