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本編#12 久々の食事と未来の武器

 廃屋の前に着くと、ユーリイが扉を開けようとした。


 「あれ……?」


 ドアノブを握り何度も回しているユーリイだが、一向に扉は開かない。建っている廃墟は見た目こそ綺麗だが、やはり何かしらの戦いの影響で内部のどこかが壊れているのだろうか。

 全く動じないドアノブと格闘する事数分、額に汗を浮かばせているユーリイは我慢の限界を迎えたみたいで、私達に「壊すから離れてろ」と警告した。どうやって破壊するのかは分からないが、状況的に手足を使って壊すと考えられたので、それでは怪我をしてしまうと私は彼に注意したのだが――――


 「大丈夫だ。こんなボロっちい扉、子供の力でもいけるさ」


 自信満々に、あっさりと断られてしまった。


 「本当にか……? やっぱり、止めておいた方が……」

 「いや、車長、彼に任せましょう……」


 ミハエルが私の耳の横で、呆れたようにそう囁いた。

 拳が木製の扉にぶつかり鈍い音が響く。それは一回だけではなく、何回もだ。

 ユーリイという人間は意外と単純な思考を持っているんだなと頭の中で感想文を書いていると、木が叩き割れる音が脳内に伝わった。


 「よし、いけたぞ」


 汗だくになりがらそう言う彼の拳は少し赤くなっていた。


 「怪我は大丈夫か?」


 人間の身体はわりと脆く、健康な若者でも転んだだけで骨折したという事例がある。そのため、扉に穴が空くまで殴り続けていたユーリイの手が心配になったのだ。例え骨折はしていなくても、ヒビは入っているかもしれない。骨にヒビが入っても平気だろうと思う人は結構居るが、実際はとても痛むのだ。鉛筆すら握るのが辛い。


 「さあ、入ろうか」


 ユーリイは自らの手で木っ端微塵に破壊した扉……いや空洞を通り抜ける。


 「全く、こんな手荒な事をしなくても……」

 「これ、窓から入れば良かったんじゃないんですかね……」


 私達はユーリイが取った行動に色々な事を言いつつも、何だかんだ家へ入って行った。

 家屋の内部はさっき私達が調査していた建物とは違い、無事な部分が多かった。窓や屋根の一部は損傷しているが、ソファや本棚などは埃が被っているだけであり、掃除さえすれば人は全然住めそうだった。

 ユーリイはソファの表面に溜まった埃を手で払うとそこに座り、こちらにもここに座れと呼び掛けて来た。

 柔らかい素材のソファに腰を下ろす。


 「はあ、落ち着くな」


 ティーガーに備わっている椅子は固く造られているので頻繁に腰を痛めていたが、今座っているソファは非常に心地よい。疲れが一気に取れる感じがする。


 「さて、食事にするか」

 「そうだな」

 「早く食べましょう」


 私達3人は一斉に缶を取り出すと、各自が持っているツールナイフで閉ざしている蓋を切り取った。ちなみにユーリイは戦闘に用いられそうな短剣で器用にこじ開けていた。

 余り出たアルミの缶を床に投げ捨てると、ユーリイがスプーンを差し出して来た。


 「ありがとう、助かるよ」

 「そのぐらいいいさ。ほら、ミハエルも受け取るんだ」

 「ど、どうも……」


 私は感謝を交えながらスプーンを受け取り、ミハエルも手を伸ばしてユーリイからスプーンを取っていた。

 スプーンを右手で握り、缶を左手で持つとついに食事を始めた。

 缶の底に詰められている肉はトマトスープのような赤い液体に浸されており、空腹状態という事もあってか非常に美味そうに見えた。

 若干錆びているスプーンを缶詰の奥に突っ込むと、スープと肉を掬い上げた。

 その体勢を維持しつつ肉と汁を口へ運んだ。

 スープを流し込み、肉をしっかりと嚙み砕く。すると、軍用食品特有の味が口内を包み込んだ。軍で配給される食事は栄養価こそ高いものの、味は美味しいとは言えないものだ。だが、今食べている缶詰は別格のようだ。やはり、空腹の力は大きいと改めて感じた瞬間であった。

 久々に食べる食事を独りでに楽しんでいると、ユーリイが私の足元に置いてあるSTG44を目を丸くして見ていた。


 「変わった銃だな」

 「まあ確かに、配備されたのは最近だからな」


 ドイツ軍では未だにKar98kが主力小銃として使用または配備されているので、一般部隊の歩兵はSTG44の存在を知らない者も多々居るだろう。実際、私もこの銃の事はよく分かっていない。


 「そっちのも変わってるな」


 缶詰をソファの縁に置くと、ユーリイがミハエルが装備しているMP40を見てそう言った。短機関銃なんてどの国にもある武器だが、そんなに珍しいだろうか。

 食べ終わり、空になった缶をソファの後ろへ放り投げると、私はユーリイの言動に問い掛けてみた。


 「ユーリイ、さっき言っていたがお前は兵士なんだろ? 短機関銃の事ぐらいは知ってるはずだが」 

 「連射出来る銃があるのは知ってるよ。でも、こんなに小さいのは見た事がない。少し触ってみてもいいか?」

 「あ、ああ、まあ、別にいいが……」


 ユーリイの興味津々さに押され、私は反射的に許可を出してしまった。STG44は私でも上手く扱えない銃なので、やっぱり断ろうかと考えたが、そんな事をしたら彼が落ち込むと思い、結局弾倉を抜いた後ユーリイに手渡した。

 彼の両手にずっしりとした重さのSTG44を添え置く。


 「おお、結構軽いんだな。俺は今まで馬鹿デカいボルトアクションと機関銃しか見た事がなかったから、これは興奮するよ」


 ユーリイはストックに頬を乗せて構えたり、チャージングハンドルを引いたり、初めて見る奇妙な銃を堪能していた。

 STG44を楽しんでいるユーリイを横で眺めていると、今の私達にとっては重要な話題を思い出した。

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