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本編#97 列車への攻撃

 ヤーコフに小銃のしっかりとした使い方を一通り教えた後、彼と一旦別れ、今度は夢から現実へ戻った仲間達と雑談を交わす。

 駄弁っている最中、ふと窓の向こう側を見てみると空が夕方の顔に変わりかけていた。雑談で時間なんて全く気にしていなかったが、こんなにも時が流れているとは、本当に時間が経つのは早いものだ。


 「腹減ったな」


 エルンストが腹部を擦りながら言う。


 「ちょっと早いが、そろそろ飯にするか」


 足元に置いている袋を机の上に運ぶと、中から支給された缶詰を人数分取り出していった。

 缶詰を並べ、食事を始めようとした瞬間、列車が大きく揺れた。

 振動の影響で武器や医療品が宙で暴れ回り、私達も席から投げられる。

 列車の走行速度が極端に低下したかと思えば線路から大きく外れ、脱線した状態で停止した。


 「怪我はないか?」


 物が散乱し、照明の光が途絶えた車両で負傷者が居ないか問い掛けるが、幸いにも仲間に怪我人は居なかった。

 その事実にひとまず安堵すると、ひび割れた窓から外を覗き見る。

 外には草木に偽装された砲台陣地とそれを機関銃で防衛する歩兵の姿が見受けられた。奴らに攻撃されて列車は脱線してしまったのだろう。

 どうやってあの陣地を破壊するか考えていると、再度砲撃が加えられた。

 着弾したのは前方の車両で、木端微塵に吹き飛んだ。


 「危なかったな」


 前の車列は武器や弾薬が積まれているただの倉庫なので、死傷者は出ていないだろうが、着弾箇所がこっちに逸れていたらと想像すると体が震えた。

 窓枠にしがみつきながら、外の状況を再び偵察する。


 「陣地は3つで、歩兵は数十人以上か」


 敵の兵力は少ないが陣地に配備されている兵器は非常に強力だ。無闇に出てしまえば野砲と機関銃でミンチに変えられてしまう。


 「とりあえず、あの野砲だけでも何とかしたいな」


 3つの野砲は絶え間なく砲撃を行っている。列車の屋根には装甲が張り付けられているので意外に耐えているが、このままでは砲弾が装甲を突き破ってくる。

 後列の車両へ続く歪んだ扉が開かれる。その主はさっき知り合ったばかりのヤーコフだった。彼は敵に見つからないためか、匍匐で進んでいる。

 ヤーコフが私の傍に辿り着き、中腰に姿勢へ変える。


 「誰ですかその人は?」

 「名前は何だ?」


 彼の事を知らないミハエルとエルンストが訊ねるが、


 「後で紹介する」


 今はそれどころではないので、2人の疑問を放置した。


 「大丈夫ですか?」

 「問題ないが、そっちこそ無事か?」


 ヤーコフは破けた袖から血が流れている腕を見せる。


 「破片でここを切りましたが、支障はありません」


 彼はそう言うが、顔には苦痛が浮かんでいた。無理をしているのだろう。


 「無理するな」


 流血箇所を手で押さえておくように促すと、彼の肩に狙撃銃が下げられているのが見えた。この銃を使えば、野砲を操作している兵士を排除できる。

 腕を圧迫するヤーコフに銃を貸してくれないか問い掛ける。


 「え……別にいいですけど、本当にできるんですか? さっき狙撃しようとした人が居ましたが、上手くいきませんでしたよ」


 自分と同じ考えの者も居たらしい。


 「いや、成功させてやる。信じろ」

 「そこまで言うなら……」


 ヤーコフが肩から銃を外し、こちらに差し出してきた。


 「ありがとう、少し待ってくれ」


 銃を両手で持つ。長さの関係でかなりの重さだ。バイポッドが欲しい。

 亀裂が生じた窓ガラスを叩くと、粉になって割れた。

 僅かに開いた窓の穴に銃口を挿し込み、重心が偏らないように先端部分を窓枠に乗せる。


 「遠いな」


 銃にスコープが取り付けられていないため、敵を狙う時は肉眼で視認する事となる。

 照準器の小さな穴と敵兵の頭を照らし合わせる。

 最初に狙うは、左の陣地で砲を動かしている兵士だ。


 「よし、やったぞ」


 弾は狙った位置に到達し、頭に鉛がめり込んだ敵兵は故障した機械のように倒れた。

 向こうは何が起きたのか分からず、倒れた兵士に近寄って混乱している。奴らには悪いが、この調子で砲手をどんどん始末していこう。

 何者かに仲間がやられて焦った敵はとりあえず反撃しようと、無造作に砲弾を撃ち込んできたが、危険を感じ取った味方が列車内から敵に向けて発砲を行う。それにより本格的な戦いが始まった。

 陣地から歯向かってくる弾に警戒しつつ、中央に身構える砲手に狙いを定める。


 「はあ視力が落ちるな」


 スコープがない事に文句を垂れ流し、敵の動きが止まったと同時に重い引き金を倒す。

 反動が肩を襲い後退る。


 「今度もいけたな」


 狙撃した敵兵は死んでいないものの瀕死だ。これで中央からの砲撃に怯える心配は不要だろう。

 最後の砲兵に照準を移す。

 狙う際に視力を多用しているため、眼球の表面が乾いて痛い。これ以上眼が痛くなるのは勘弁だ。最後の最後で外さないように気を付けなければ。

 神経を極限まで引き伸ばし、装填を行う敵兵と照準器を重ねる。

 トドメの一撃を撃ち出す。

 弾丸は敵の脳漿に突き刺さり、野砲にもたれ掛かって絶命した。


 「これで野砲は安心できるな」


 砲手全員を自らの射撃で葬ったので、束の間ではあるが安心感に身体を包まれる。


 「お前、狙撃もできるのか」


 エルンストは小銃1つで砲兵を殲滅させた私に驚いている。


 「昔にある程度は練習したからな」


 年季の入った小銃をヤーコフに返却すると、散乱した物の中から無線機を探し出し、他の部隊に命令を掛ける。


 「今が外に出られる時だ。ここで敵を叩き潰しておかないと、また砲兵がやってくるぞ」


 早口で正確に言うと、無線を切った。

 全ての部隊が列車から出た後、陣地を守る機関銃隊と戦闘が始まり、大規模な銃撃戦へと発展した。

 敵は火力の高い武器を持っていたが、こちらは数が圧倒的だったので予想よりも早く戦いは終わりを迎えた。

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