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本編#10 初めて出会う人間と唐突な敵襲

読者の皆様のおかげで、10話まで投稿する事が出来ました。いいねやブックマークを押してくださった方々、本当にありがとうございます。これからも投稿を引き続き頑張ります。

 「人が居ます」

 「本当か?」

 「はい、ここから見えますよ」


 ミハエルが小窓に顎を向けているので、私はガラスが吹き飛んだ窓枠に顔面を填め込むようにして外に居る人物とやらを見てみる事にした。

 彼の証言通り、閑散とした村の中央には一人の男性がゆっくりとした速度で歩いていた。ここに来て仲間以外の人間を初めて見たので、私は早くあの人に自分達の事情を話そうと思ったが――――


 「あの格好は……」


 村をふらついている男は動きこそ常人だが、服装は灰色の野戦服のような衣類を上手に着用していて、腰にはナイフと回転式拳銃が入ったホルスターが下げられていた。その姿は一般人ではなく、私達と同じ存在である軍人のようだ。

 男の視線がこちらに向きそうになったので、私は窓枠から退いた。


 「どうしますか?」


 ミハエルが外の男を見ながら訊いて来る。


 「待ってくれ、すぐに判断する」


 そうは発言したが、実際は今からの決断に物凄く悩んでいる。軍人らしき男が穏やかな人間だったらいいが、もしかすると強くて無差別に人を殺す怪物かもしれない。話し掛けて私とミハエルが殺されてしまったら、話し合い以前の問題だ。そういう事態を回避するためにも、しばらくの間、私は脳の全体を働かせ考え込んだ。

 何分か経った後、私は答えを言った。


 「とりあえず話そう。襲われたらどうにかするよ」

 「本当に大丈夫そうですか?」

 「……それについては何とも言えないが、こっちには沢山の銃があるんだ」


 怪しげな男が持っている武器は拳銃と刃物。対して私達が所持する武器は2丁の連射銃と1丁のP38だ。いざとなれば、こちらがあの男を叩き潰す事が可能だろう。


 「ただし、最初は銃を向けるなよ」


 ミハエルの首から下がっているMP40の銃口を床の方向へ向けた。下手に威嚇してしまうと、それこそ殺し合いに発展し兼ねないだろう。


 「わ、分かりました」


 少し慌てながらも返事をし、ミハエルはMP40の機関部に両手を置くと、腹部に押し付けた。

 最低限の注意事項を彼に言い渡すと、扉がもげた入り口に向かった。

 恐る恐る家屋から出ると、まずは武装した例の人物の姿を偵察した。謎めいた男は悲しげな表情で破壊された村の家屋を巡っていた。

 男の動きが倒壊した家の前で静止した時、物陰に潜んでいた私達は行動を開始した。


 「あの、少し訊きたい事があるんだが……」


 ミハエルを自分の背中に隠しつつ、兵士みたいな格好をした男に話し掛けた。

 私の声に反応した男は、こちらに身体を回転させた。


 「……」


 立ち尽くしている男の顔には髭が生えており、目の彫りも深くて厳つい印象を受けるが、目はパッチリとしていて、意外にも子供らしい顔つきだ。だが、その表情には怒りが浮かんでいるように思える。


 「おい、少し話を……」


 男が不機嫌だと何となく分かりながらも、私はここがどこなのかを判明ささるために訊ねようとした。

 だが、返って来たのは言葉ではなく、冷たい銃口だった。


 「何のつもりだ……?」


 いきなり銃を向けられミハエルは後ろで怖がっていたが、私はそれに怯まず、どういう意図なんだと質問した。


 「お前らの……クースヴェリのせいで……この村は滅茶苦茶になったんだぞ……!」


 彼の声は擦れていたが、はっきりと怒りが含まれていた。

 男は持っている銃の引き金に指を掛け、今にも倒しそうにしていたが、僅かな理性が発射を阻止しているのか、引き金は射撃まであと一歩というところで止まっていた。


 「一度落ち着いてくれ。私は敵とか以前に、ここがどこなのか分からないんだ」


 怒りを露わにしている男を刺激しないように、両手を頭上に上げながらそう発言した。


 「やかましい! この外道野郎が!」


 ガチャ、というかすかな金属音が聞こえた。

 彼への目線を逸らし、握っている拳銃をこっそり見てみると、引き金に掛けられている指が先程よりも力が込められていた。弾丸が詰められているシリンダーも横に進みそうになっている。眼前の男は、本当に私達を殺すつもりでいるみたいだ。


 (困ったな……やり返したいが、ミハエルが居るからな)


 この状況で男を取り押さえてしまうと、逆上してミハエルが殺される可能性がある。既にヨハネスが居ないので、ここでまた仲間を一人失うと、戦力を大幅に損失する事になる。

 殺意溢れる男と怯えているミハエルの間に挟まれながら、この事態をどう解決するか悩み果てていると、家屋の奥にある鬱蒼とした森から動物ではない、人間の声が耳に入って来た。それも一人ではない。複数人居る。

 その声はこの場に居る全員が聞いたみたいで、私が森を振り向くと二人も自分と同じ動きをした。

 声は次第に大きくなり、近くなって来た。

 森からやって来る人物達はどこの国の言語なのかも分からない言葉で会話を弾ませている。

 姿が見えない謎の存在に身構えていると、私を脅していた男が急に震え出した。


 「き、来たのか……? どうしよう、こっちは拳銃しかないのに……」


 男は声を発している人物達を知っているようで、自身の武器が貧弱な事を嘆いていた。


 「あいつらを知ってるのか?」

 「知ってるも何も、お前の仲間だろ!」

 「仲間? 何の事を言ってるんだ? いい加減、質問に答えてくれ」


 感情的な男と子供じみた言い合いをしていると、ついに声の主達が姿を現した。

 その人物の数は三人だ。頭部には鷲が刻印されたヘルメットを被っていて、服装は深緑色の野戦服だった。サスペンダーにはベルトが通されており、弾丸が入ったホルスターや鉄製の水筒が吊るされていた。そして手にはボルトアクションライフルがあった。見た目からして、どこかに所属している正規軍だろうか。

 三人の兵士とこちら側の目が合う。兵士達はこんな所に人が居るとは思っていなかったのか、口と目を大きく開けて驚いていた。

 しかし、集団の中で最も年長な兵士はすぐに冷静に戻り、ライフルを構えるとミハエルに照準を合わせていた。

 私の部下に凶器を向けるなど、言語道断だ。

 兵士が引き金に指を置くその直前、私は地面へ銃口を向けていたSTG44を数秒も掛からない間に引き上げ、ミハエルを殺そうとしている兵士の胸に狙いを付けた。

 間一髪、私の方が早く撃った。

 初めて耳にする銃声が辺りに木霊し、強い反動が肩に押し掛かって来た。

 弾道はとても素直で、私が狙った位置に弾着していた。

 人間の急所に弾丸が命中した兵士は銃を握ったまま地面に倒れている。


 「これは使いづらいな」


 STG44は自分には不適合だと思い、それを投げ捨てると、お気に入りの拳銃であるP38をホルスタ―から引きずり出した。

 P38のスライドを素早く引き、薬室に弾を確実に送り込むと、今度は二人の若い兵士を狙った。

 兵士は年齢が示す通り実戦には慣れていないらしく、年上の頼れる仲間が殺られた事に唖然としたままだった。ライフルも構えるどころか、手から滑り落ちそうになっている。

 すると、起こった出来事をようやく受け入れられたのか、若い兵士らはふらつく手付きでライフルを何とか構えた。が、もう手遅れだ。


 「若い奴の命を奪うのはあまり好きではないが、危害を加える連中は問題外だ――」


 片方の若者兵士に照準を向けると、私は使い込まれた引き金を引いた。

 さっきとは違い聞き慣れた銃声が響き渡ると、スライドが後退しその反動が腕に伝わって来た。

 弾は見事に兵士の脳天を貫き、頭に穴が空いた兵士は血を噴き出しながら膝から地面へ崩れ落ちた。


 「ひ、ひいぃぃぃ!」


 最後の1人になってしまった兵士はライフルを投げ捨て、悲鳴を上げながら森の中へ逃走して行った。兵士は自分に背中を向けて走っているので射撃し放題だが、その兵士は攻撃の術と戦意を失ったため、私は殺す必要がないと判断し、その背中に鉛玉を撃ち込む事はなかった。

 敵となる存在が完全に消滅すると、私はP38をホルスターに納め、後ろに居るミハエルと軍人風の格好をした男に振り返った。


 「怪我は無いか?」


 私が問い掛けた言葉に、2人は怪訝な表情をして頷いた。

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