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ベルリン編#1 運命に抗う首都の虎

初投稿です。拙い文章ですが、頑張って書きました。

 大戦も終盤に差し掛かった頃、ヨーロッパ戦線では枢軸国の重要国家に位置するドイツが連合軍によって確実に追い詰められていた。撤退が続くドイツ軍は連敗に焦りを感じ始め、各地で反攻作戦を敢行したが、それらの作戦は全てが失敗に終わってしまった。連合軍の猛進は止まらず、今では首都のベルリンが敵の手中に落ちる寸前だった。

 ドイツの敗戦は、誰が見ても分かる程までに明確になっていた。ドイツには、不利になった戦局を巻き返すどころか、防衛に徹する余力すらも残り少ない。

 今のドイツ人に出来る事は、敗北という呪われた運命を受け入れるだけだ。その運命は元より約束されたようなものであり、捻じ曲げるなんて絶対に不可能だ。

 だが、ドイツの国土を守る軍人達に不可能は通用しない。

 兵士は皆、負けると分かっているがそれは決して口には出さず、己の身体が限界を迎えるまで敵と戦う事を誓っている。

 祖国の為に生き、命を終える。この行為は、兵士に与えられる最初で最後の使命であり、最大の誇りでもあるのだ。

 度重なる爆撃と砲撃を受けたミッテ区のとある補給基地では、いつ戦闘が発生しても対応出来るように、兵士達が複数人でそれぞれが使用する車両に燃料や弾薬を積み込んでいた。

 基地内ではヘッツァー駆逐戦車や四号戦車などといった小柄な車両が目立つ中、基地の端に猛獣のような雰囲気を放つ戦車が佇んでいる。

 それはグレーとホワイトの迷彩が塗装されていて、車体の構造は全体的に見て垂直な形状だ。鋼鉄で成される重たそうな車体を支える足元には何十枚を超える転輪が取り付けられている。転輪を包み込む履帯も幅広で、走破性がさぞかし高いだろう。砲塔と砲身は頑強な造りになっている事が一目見ただけで分かり、先端に付いているマズルブレーキが威圧感を増幅させていた。

 この戦車を間近で見る者は、本能的に死を感じ取るだろう。

 その怪物の名は、ティーガーI(アインツ)。ドイツが生み出し、世界を畏怖させた伝説的な重戦車だ。

 ティーガーは重厚な装甲と強力な砲から撃破困難と言われており、登場した当初は連合軍の戦車乗り達を恐怖と絶望の底に突き落とした。ティーガーには一方的に撃破され、自分達の攻撃は当てても全て弾き返されるので、連合軍ではティーガーがトラウマになってしまう兵士が頻発した。

 今となっては性能不足が指摘される垂直装甲を備えているティーガーだが、前面も側面もかなり分厚く造られているため、傾斜装甲を用いている下手な戦車よりも防御力に勝るだろう。砲の威力と命中精度も申し分なく、主砲には本来は航空機を撃ち墜とす際に使用される8・8センチ高射砲、通称アハト・アハトが戦車砲に転用された砲を搭載している。砲から撃ち出される高初速の砲弾は、例え数キロ離れていたとしても連合軍が保有するほぼ全ての戦車を真正面から撃破する事が可能だ。

 このようにティーガーは時代に見合わない破格な性能を持つ戦車のため、ドイツ軍では多数の戦車エースを輩出した。

 ティーガーはその活躍ぶりから、ドイツ軍でも連合軍でも神格化されて語られる事が多いが、人が考え、人が造っている兵器なので欠点はいくつか存在する。

 重要視される欠点は生産コストと製造方法、そして扱い方だ。

 ティーガーは他国の戦車と比較して圧倒的な性能を有する反面、生産コストが非常に高い上に製造方法が複雑だ。一両造るのに、多大な労力と金を消費してしまうのだ。また、繊細な部品が多用されている事もあり、少しでも整備を怠ってしまうと、全く稼働しないなんて事は日常茶飯事であった。

 これはある部隊の話だが、どこかが故障して動かなくなった高価なティーガーを敵の手に渡るのを阻止するために、自分達の手で爆破したという記録が残っている。確かに鹵獲を防ぐのは大事だが、高級戦車を自らの手で処分するのは何とも残念な事だろう。

 対する連合軍が運用を進めるM4中戦車やTー34中戦車はコストパフォーマンスに優れ、組み立て方法も容易なので小さな工場でも短時間で大量に生産する事が出来る。整備の方法も癖が無く簡単で、新兵から老兵まで、幅広い年齢の兵士が扱えるように設計されているのだ。

 ティーガーはこれまでにたったの数千両しか生産されなかったが、連合軍が配備する戦車は4万両を超え、大規模な量産と運用に成功している。

 化け物じみた異次元のスペックを持つティーガーでも、数で押してくる連合軍の戦車部隊には勝つ事なんて無理難題だった。一部の優秀な戦車兵は巧みな戦術で敵から何度も勝利を掴み取っているが、それはあくまでも例外であり、大抵の戦車兵は撃破されるか投降して捕虜になるかの二択だった。

 不足しているのは戦車だけではなく、戦車を動かす兵士も同じだ。今、ドイツの戦車部隊に所属している兵士の半数以上が粗末な教育を受けただけの戦闘経験に乏しい若者ばかりであり、出撃してもすぐに撃破され、酷い時は戦う前から戦車を乗り捨ててどこかへ逃げるという事態も起こっていた。

 つまり、ドイツに戦力と呼べる存在は無いと言っても大げさではないのだ。いや、一応あるにはあるのだが、前線に送られる兵器はどれもこれも粗悪品のような低品質な代物で、まともに敵と戦うなんて自殺行為に等しい。回される兵士も未熟者だらけで全くに役に立たない。

 ドイツの状況は色々な意味で悲惨だが、この基地に居るティーガーの車長はクルスクで87両、ベルリン市街地及び郊外では27両ものソ連戦車を撃破した記録を保持する歴戦の戦車兵だ。

 そんな車長は真の愛国者であり、自分の命が砕け散るその瞬間まで、死闘に挑むと覚悟していた。

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