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緑禍  作者: もちづき裕
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第九十二話  それは石鍋

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 今回、三十六人のバンジードがシャカラベンダ農場に襲撃をかけて来ることになった為、僕らも人手を分けて対応に当たることになったわけだけど、

「はー・・石鍋がそんなに活躍するとは思わなかったなー・・」

 と、僕は感嘆の声を上げることになったわけだ。


 僕はバンジードを制圧するために、積極的に油を使っていったわけだけれど、油を使っての攻撃なんてものは、それこそ一千年以上も昔から使われている戦法だ。攻城戦なんかでは必ず出てくる『油攻め』は、かなりの効果があったのは間違いない。


 平原や丘陵地を利用した戦いなんかでは全く意味がないものでも、これが市街戦ともなればびっくりするほどの効果がある。そんな『油攻め』を越える戦い方が『石鍋攻撃』だっていうんだから驚くよ。


 金が採掘されるオーロプレットと積金港だったパラチの間にあるのがシャカラベンダ農場ということになるんだけど、お隣のミナスジェライス州にも近い立地にあるわけだ。


 金が採れるミナスジェライスは、鉄も採れるし、宝石も採れる。鉱山で栄える場所でもあるんだけど、そんな場所の地元住民が愛用しているのが石鍋パネイラジペドラだ。石をくり抜いて加工して鍋にするんだけど、温めた石は保温効果があるのでいつまでも中身は温かいし、芋なんかを石鍋で調理するとホクホクしてとっても美味い。


 こっちの人は石鍋で豆を煮込んだり、スープを作ったりするんだけど、直接薪の上にくべてもよし。炎に包まれても問題ない。一家に一個、場合によっては大きさを変えて複数持っているのが石鍋ということになる。


 この石鍋、とにかく重い。石で出来ているからとにかく重い。そして、壊れない。石で出来ているから本当の本当に壊れづらい。蓋の方(蓋も石で出来ている)は落とすと端が欠けたりするんだけど、鍋自体は無茶苦茶頑丈に出来ているんだよね。


 居住区狙いで移動してくるバンジードを撃退するために、動物を捕まえるための罠を仕掛けたり、迎え撃つ住民側に堆肥の掻き寄せにも使うホークを用意させたりしたんだけど、結局、一番効果的だったのが石鍋だったんだ。


 居住区を進んでくるバンジード相手に、

「うぉぉおおおおお!」

 巨大な石鍋を遠心力を使って投げたら、モロに石鍋を食らった男が吹っ飛んだらしくって、やっぱり石鍋使えるぞ!みたいな感じが伝播して、

「うぉおおおおお!」

 方々で石鍋が飛び交う事態となったらしい。


 なにしろ人なんか傷付けたことがないし、敬虔なカトリック信者が多いから、隣人を愛しなさい精神で、人を傷つけることに激しい忌避感を持っちゃうんじゃないかな〜とは思ったわけ。


 最終的にはホークの鋭い先端で足をブッ刺せば良いんだ!と言ったとて、

「こわっ!」

 となって、身動き出来なくなる人も多くなるんだろうなと思ったし、だからこそ徳三さんに後はよろしくとお願いしたわけだけれど、

「フライパンで戦うのと同じ原理だな」

 と、徳三さんは言い出した。


「身近にある武器、石鍋を使うのなら怖くないってことで、みんなが石鍋を持ち出したのが良かったみたいなんだが・・」

 なにしろ石鍋は頑丈で重い。当たれば大変なことになるのは間違いないので、みんなが無我夢中となってブンブン投げまくったところ、

「ワシが行った時には、ほとんど終わった後だった」

 と、徳三さんは肩をすくめながら言い出した。


 バンジードたちの襲撃というものは無鉄砲な感じでやって来るのが多いらしいんだけど、今回の襲撃に関しては、リーダーがかなり本気になって取り組んだのかもしれない。


 有名な盗賊が盗んだ金が農場内にあると思い込んでいるみたいだったからね。金が隠されている車庫と、金目のものがあるのは間違いない邸宅の方に主力となる戦力を投下したから、居住区なんかは下っ端たちが任される形となったんだ。だからこそ、石鍋で応戦という形になってもこちら側には死人も出なかった。


 もちろん、群からはぐれて動き出す人間も居るだろうと思ったから、そちらの方は九郎さんが仕留めてくれた。驚くべきことに雪江さんも仕留めてくれたらしい。


 徳三さんがアイツは戦力になると断言していた雪江さんだけど、彼女は表門の方へ移動して来た僕に向かって言い出した。


「嘘でしょう!待っても!待っても!表門の方に誰も来ないから!いつまで待てば良いのって思っていたら!もう終わっちゃったっての?嘘でしょう!」


雪江さんは憤慨するように言い出した。

「やだ!やだ!もっとやりたい!」

 何をやりたいのか尋ねる気はないが、

「実はまだ居住区の方に隠れている奴がいるかもしれないからってことで、探索しているところなんだよ」

 僕がそう説明をすると、

「そうなの!それじゃあ行ってくる!」

 と言って彼女は駆け出した。


ブラジル人女性の腕を掴んだまま走り出した。途中でブラジル人女性は転んでいたが、彼女は珠子ちゃんに冤罪をふっかけようとしたカミラではないのだろうか?


「それで?上の方はもう終わったってことで良いのかな?親父は無事ですかね?」

 時を知らせる鐘を持って歩いていた九郎さんが問いかけてくる。


 農場では大概、居住区の表門(一番大きな門)に、時を知らせる鐘をぶら下げているんだけど、居住区の方から逃げ出してきたバンジードを見かけたら、この鐘を鳴らして周囲に知らせる予定でいたわけだ。


 ここにはライフル銃を使える人間を配備していたんだけど、結局、今回の襲撃ではライフル銃の出番はなかった。人を撃ったことがない奴が人を撃とうとするとパニックになってあらぬ方に撃つ傾向にあるので、あんまり使わないようにしておいたんだよね。仲間同士で流れ弾で傷ついたら困ると思ったし。


大概は鍋と油で対処出来たし、色々なところに敵が撃った銃弾がめり込むような事態にはなったものの、銃弾を浴びて死亡、銃弾を浴びて大怪我という人間が一人も出なかったのは幸いなことだった。


「徳三さんはホークを担いで向かってくれたんだけど、大概の人間が石鍋で倒された後だったんで、徳三さんの出番はなかったみたいだよ」

「え?石鍋?」

「そう、石鍋」

 石鍋とは石で出来た鍋で、豆を煮たり、スープを作ったりするのに使われるのだが、

「え?石鍋?」

 と、納得出来ない感じで九郎くんが問いかけて来たのだった。



 ちょっと小話ですが・・

 ミナスジェライス州では石鍋が山ほど売られているのですが、各家庭、色々なサイズを持っていたりするのですが、我が家にはワンサイズしかないのです。もっと大きいのも買っておけば良かったと後悔先に立たず状態。ミナスでは人が集まると石鍋でスープとか作るんですけど、これも本当に美味しいです。


 この作品の後半にはバンジードがたくさん出て来るのですが、ブラジルにはバンジードが多いです。住んでいた町にも(田舎なのに)二つほど居ましたし、殺し合い(銃撃戦)とかやっちゃうんで怖いんですよ〜。昔は警察にも賄賂が横行しておりまして、正義はどこに状態だったんですが、今は世代交代して賄賂はダメだ!!という意識がかなり強くなっております。


 私も住んでいる時には警察署長とか、元市長とか、お友達になりまして、何かあったらよろしくお願いしますをしていましたとも。警察に知り合いがいると救急車が早く来たり、困った時に何とかしてくれるスピードが速くなったりするのです。想像以上にツテとかコネとか重要になる世界だな〜と思います。

ブラジル移民の生活を交えながらのサスペンスです。ドロドロ、ギタギタが始まっていきますが、当時、日系移民の方々はこーんなに大変だったの?というエピソードも入れていきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!

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